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IT業界を四半世紀見てきたジャーナリストのこだわりコラム

IT業界で仕事をすることの意義

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 このたび、『編集長日記』なるブログを始めることになりました『月刊アイティセレクト』の松岡と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。このブログでは、日常の取材を通じて感じたことや、ITについて思うこと、そして時にはニュースの舞台裏などを、私なりの視点でまとめてみたいと思います。
 まずはこの時期、IT業界にも多くの新しい人材が期待に胸を膨らませて入って来られることでしょう。そこでIT業界、とくに情報サービス分野で仕事をすることの意義について考えてみたいと思います。

 いま日本の情報サービス産業の市場規模は10兆円規模に及んでいます。この産業がこれだけ大きな規模に発展したのは、情報サービスが「ITを使って企業のビジネスや社会インフラを支える仕事」として世の中で重要な役割を果たしてきたからです。
 私は、ITが社会に及ぼす影響力は金融と同じだと考えています。金融が経済社会を支えているように、ITは情報社会を支えています。その金融とITがどんどん融合していることは、もはや説明する必要がないでしょう。IT分野の仕事が、これからますます社会全体と深く関わっていくことになるのは疑いの余地がないと、私は確信しています。

 そんな情報サービス産業にも課題はいろいろとあります。ここでは私が本質的な課題だと思う点を2つ挙げておきたいと思います。
 まず一つは、情報サービス産業自体のゼネコン的な多段階下請け構造です。詳しい説明は省きますが、ゼネコンの本家である建設業界と同様の“丸投げ”的事業スタイルが情報サービス産業でも横行してきました。日本の情報サービス産業には約2万社がひしめいていると言われていますが、そうした事業スタイルによって、肝心の業務や技術のノウハウが蓄積されず“空洞化”状態に陥っている事業者も少なくないようです。この問題を打破するには、個々の事業者が下請け構造から脱し、あらためて自社のコアコンピタンスを明確にして、自社の力でビジネスを切り開く企業体質に変えていくことが不可欠です。
 もう一つは、ユーザー企業のIT-ROI(投資対効果)に対する認識不足です。最近でこそ経営者層のIT-ROIに対する認識は随分高まってきたようですが、実際に効果を測定する手法およびフィードバック・プロセスなどのマネジメント面がまだまだ確立されていないのが現状です。したがって、今後はそうした面の取り組みを急がなければなりません。これは取りも直さず、情報サービス事業者にとってもこれから非常に重要な仕事になると思います。

 ゼネコン的下請け構造、IT-ROIに対する認識不足などと、IT分野でこれから仕事をしようと思っておられる人たちには、少々業界寄りの専門的な話で、しかも不安を感じさせたかもしれません。ただ、この2つの課題をここで取り上げたのは、以下に述べることと深いつながりがあると考えるからです。
 IT分野で仕事をするにはエンジニアのみならず、ITの知識、およびその知識を応用できる“知恵”が求められます。ではその“知恵”をつけるためには何が必要なのでしょうか。私はそれこそ幅広い見識と業務分析能力だと考えます。先ほど情報サービスを「ITを使って企業のビジネスや社会インフラを支える仕事」だと述べましたが、それを実践するためには、ITだけでなく、個々の企業のビジネスや社会インフラの仕組みそのものを知らなければなりません。そのうえでITを使えば、どのような効果を上げられるか。さらにはITを使ってそうした仕組みそのものを抜本的に改革できないか。ユーザー企業に対してそうした業務改善あるいは業務改革の提案を行い、実現を支援していくのが、これからの情報サービスの仕事だと思います。この“やりがい”は相当なものだと思いませんか。
 ぜひ皆さんもこの機会に、IT分野で仕事をすることの意義について考えてみて下さい。

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