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ITが無いと生きていけないのに、アナログな日々

人生のドラマが交差する、ホテルはとても魅力的な場所 「ホテル博物誌」

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旅好きです。そして飛行機好きのように思われていますが、旅においてより重要なのはホテルです。どこに泊まるかで旅の印象は随分と変わったものになりますね。できたばかりの新しいホテルより、何十年も時を経た古いホテルが好きです。東京なら帝国ホテルやホテルオークラが好きですね。明治村でフランク・ロイド・ライト設計の旧帝国ホテルを見学しましたが、もしあれが今も日比谷にあったらさぞかし世界に誇れたと思います。最近次々に高級ホテルがオープンしていますが、どれも同じようなデザインで個性があまり感じられない気がします。丸の内のパレスホテルも建て直す前が好きでしたねえ。あのなんとも言えない、昭和の映画の中のような空間がもう存在しないなんて、残念でなりません。

そんな私に、ホテル業界に勤めている友人が薦めてくれたのがこの本「ホテル博物誌」です。日本を含む世界中のホテルの様々なエピソードが綴られています。そう、私がホテルが好きな理由、それはいろんなドラマが起きているということ。重要な会議が開かれる歴史の舞台として、名作映画に登場する重要な場面として、小説家や著名人が新たなアイデアを生む場所としてホテルは重要な役割を担ってきました。

この本でもやはり紹介されていました。グレタ・ガルボ主演の映画「グランド・ホテル」。様々な登場人物の人生のドラマが交差する所謂群像劇で、今では珍しくない手法ですが、その最初の映画と言われています。(もともとは舞台劇)
ホテルに泊まる時、いつも思います。隣の部屋では人生に悩み考え事をしている人がいるのでは、恋人にふられ泣いている人がいるのでは、ロビーではいつまでたっても来ない人を待っている人がいるのではと。こういう想いに耽ることができるのは、やはり歴史を感じさせるホテルのことが多いです。

個人的に面白かったのは、かつて銀座にあった精養軒ホテルでの森鴎外や佐藤春夫のエピソード。特に佐藤春夫の「美しき町」のプロットにはやられましたねえ。佐藤春夫は、「田園の憂鬱」しか読んだことがないのですが、「美しき町」は絶対読もうと思いました。
また、淀川長治が晩年東京全日空ホテル(現ANAインターコンチネンタルホテル東京)に住んでいたことは有名ですが、住むにあたり考慮したことは、エレベーターに棺桶が入るかということだったそうです。そう言えば、作家の山村美紗も帝国ホテルを住まいにして、その部屋で亡くなりましたね。

心に残るエピソード、ちょっと笑ってしまう話、そして血塗られたトピックまで、ホテルを舞台した様々な物語が詰まっています。次の旅先の宿泊を決める際の参考にされてはいかがでしょうか?

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