APNICミーティングと、史上最大のポリシー提案がコンセンサスに。
どうも遅筆なのか、時間の取り方がうまくないのか、タイムリーに記事に出来ないんですね。他のブロガーの皆さん凄いです。
もう先々週のこととなりましたが、APRICOT2009/APNIC27ミーティングに行ってきました。やっとそれについて書きます。
APRICOTとは何か?
APRICOTというのは、Asia Pacific Regional Internet Conference on Operational Technologies の略。いかにも語呂めがけて略語作りました感が満載ですが、アジア太平洋地域随一のインターネットカンファレンスです。年1回、2月最終週くらいに開催されます。Operational Technologiesというからには、学術発表会でもビジネスイベントでもなく、インターネット運用を飽くまでメインテーマに据えたイベントですが、多少ビジネスよりなこともあります。APNICミーティングは年2回。8月の最終週あたりにスタンドアロンのミーティングを行いますが、2月はAPRICOTとジョイントで開催。今回はフィリピンはマニラ。1998年以来の開催となりました。
APRICOTは2週間弱の会期。前半はWorkshopとして、機材を持ち込んでハンズオンでインターネットの基盤技術のトレーニングが行われます。講師は世界の第一線。それぞれの開催地を中心に技術者にはなかなか良い機会だと思います。僕なんかは毎度同じように、Workshopが始まった後の日曜日に入って、そのまま1週間滞在。そして土曜日に帰国する、というスケジュールになります。その1週間は、前半水曜まではAPRICOTのセッションだったり、APNIC理事会を初めとするクローズドミーティング。木曜日がAPNICのpolicy-SIGと呼ばれるセッション、金曜日はAPNIC Member Meetingと、決まっています。
IPv6関連セッションが3つ
APRICOTとしてのオープニングプレナリは月曜日。あいにくAPNIC理事会のため出席できませんでしたが、東大の江崎浩さんが基調講演を行いました。APRICOTとしてはIPv6に関するセッションが2つ。オープニングプレナリの後では、GoogleのLorenzo Colittiを初めとしてIPv6導入の実際が多く披露。
次の日の朝のセッションでは、NTTcomの宮川晋さんからのLSN(Large Scale NAT -- またの名を Carrier Grade NAT==CGN)のネタを初めとして、IPv4/IPv6共存技術が並ぶセッション。お互いに「他の技術よりこっちのほうが優れているんだ」と主張していたりして、呉越同舟というか、バトルロイヤル的なセッションとなりました。(といっても、実際に火花パチパチ飛ばしているわけではないけど。)
APRICOTのプログラムとアブストラクト,発表スライドまで、こちらでご覧いただけます。
IPv6に関してはAPNIC主催の"IPv6 in 3D"というセッションもあって、こちらは技術もネットワークとサーバ,他にビジネスケースや情報共有手法など、3Dというタイトルに負けない幅広いラインナップで。充実。こちらににぽたんさんもご登壇。ブログ記事をベースにキレイな英語でとてもよい発表でした。
ポリシーSIG
APNICミーティングのメインイベントはポリシーSIG。
APNICはIPアドレス管理を行う「インターネットレジストリ」であるが、その管理ルールはレジストリの事務局が勝手に決めるのでなく、コミュニティのコンセンサスに基づいて制定されます。この議論の場がポリシーSIGで、メーリングリストも併設。昔は2コマくらいだったような気がしますが、最近は丸一日==4コマ取っています。
今回のメインイベントはアドレス移転制度の提案です。
IPアドレスは、我々インターネットレジストリから「ライセンス」なり「リース」なりの概念で、「必要な数を貸し出す」という考え方で供給されています。IPv4はスペースが潤沢でないことから、節約に重点が置かれ、退蔵は忌み嫌われます。必要がなくなったらレジストリに返す、というのがインターネットレジストリ有史以来の大原則です。
しかし、IPv4アドレス在庫枯渇を間近に控え、今後逼迫してくる状況を考えると、「IPv4アドレス空間が余っていながら返していない保持者」から「需要があるのにIPv4アドレスを持ち合わせていない人」に対して、許す許されないに関わらず、勝手に移転が行われるのではないか、という大きな懸念があり、これが移転制度提案の大きなモチベーションになっています。
移転というのは、レジストリの立場から言うと、あるアドレススペースの保持者の登録を、新たな保持者に変更する、ということです。しかし、保持者の立場から言うと、「移転」に対応する英語"transfer"の別の訳語である、「譲渡」の方がしっくりきます。アドレススペースが譲渡可能な財とみなされるとすると、これは大きな考え方の転換になります。
この大きな考え方の転換を含みながら、IPv4アドレスの逼迫は、事業者には深刻な問題です。調達できるものなら調達したいというのが正直なところでしょう。日本のコミュニティでも、移転制度に対する賛意が示されています。そして、今回のAPNICミーティングでもコミュニティからの支持を受け、移転制度提案はコンセンサスに至りました。今後、メーリングリスト上のラストコール(8週間の最終意見募集)を経てコンセンサスの最終認定が行われ、その後APNIC理事会における審議を経て、承認された場合には移転制度が施行準備に入ります。
JPNIC事務局のポジションはこのコンセンサスとは残念ながら異なり、移転制度の実施に向けた懸念が未だ山積しているため、反対の立場を取りました。移転制度が、乗っ取りなどIPv4アドレス逼迫に対して一定の効果があることは認めるものの、IPアドレス管理・分配という、我々が提供するサービスの質を大きく変えることによる影響が読みきれず、簡単には先に進めない、という感じです。今後事務局としても、このギャップの解決に向けてもっと検討を進めなければなりません。
ポリシー議論としては、おそらくこの移転制度提案が、史上最大の議案だと思います。(ちなみにその次に大きかったのは、IPv6アドレスに関するポリシーの制定です。)大きすぎて、プロセス全体が悲鳴を挙げながら進んだような印象を持っています。
既に長くなってしまったのでこの辺で。まとまりがないように思いますが、適宜このネタは書いて行きたいと思います。
最後に写真を。
ポリシーSIGで、発言のためマイクに並ぶ人々。この行列も一番長かったと思います。
APNIC事務局長のPaul Wilson。金曜日のAPNIC Member Meetingの風景。僕も壇上。背景に見えるスクリーンには、リアルタイムで発言内容の速記が表示されて、ノンネイティブにやさしい仕掛けになっています。
マニラ名物、ジプニー、ですが観光客向け冷房完備バージョン。普通のジプニーはもう少し小さくて、オープンエア。これに乗って、最終日のディナーに行きました。晩の時間は、レセプションやディナーが仕込まれていて、楽しく過ごしますが、やっぱり関係者と話すのに明け暮れてしまいます。