既存の顧客を理解する
既存のお客様の理解から始める
企業は新たな顧客を増やすことや既存の顧客をファン化するために様々なマーケティング施策に取り組んでいます。最近ではコミュニティを運営したり、顧客と商品の共同開発を行ったりするなど、顧客参加型のマーケティングに取り組む企業も増えてきました。しかし、こういった取り組みによりロイヤル顧客を増やせるかというと、必ずしも充分ではありません。実際に実務としてお客様にとってのディスティネーション化(何かを欲しいと思った時に、最初に頭に思い浮かべるお店や商品のこと)に向けて顧客を育成しようとすると、根本的な何かが足りません。
それは、企業を支えてくださっている「既存の顧客を理解する」ということではないでしょうか。
現状、皆さんの商品やサービス、お店を支えてくださっているお客様はどのようなお客様でしょうか。皆さんのビジネスを支えてくださっているお客様は、ご提供されている商品やサービスが価格以上の価値があるからこそお買上げくださっているわけです。ということは、皆さんのビジネスを支えてくださっているお客様とお客様がなぜお求め頂けるのかを知ることが最初に実行すべきことです。
ご支持してくださる顧客はどういう人達なのか、提供するどのような価値に惹かれているのかを理解することは、ロイヤル顧客(商品や企業に対して「好き」という心理的要因が働いて継続購入してくれる顧客。ご贔屓いただける顧客)を増やすだけでなく、新規顧客を増やすための原点でもあります。既存の顧客を理解するということを日常業務として実行している企業は少ない、というのが、実際のところではないでしょうか。
どうすれば顧客を理解できるのか?
実行できない理由のひとつに、何万人もいる多様な顧客を理解するのは不可能だということが挙げられます。確かに、全てのお客様を理解することは困難ですし、労が多いばかりで成果が相対的に小さくなってしまいます。では、どうしたらよいでしょうか?
それは、第一に多くの買い物をしてきてくれている上得意客に注目することです。彼らを基本顧客と考えて、彼らとの付き合い方を仔細に情報収集し、従来よりも彼らに好まれようにするためにはどうしたら良いのかを考えれば良いのです。
私の経験では、顧客が多くなればなるほど、どの企業でも「売上の80%は20%の顧客によりつくられている」というパレートの法則がきれいに成立します。ロングテールのネックの部分の優良顧客はその企業を支えてくださっている大切なお客様です。彼らを失ってしまうと経営を揺るがす事態に陥ります。
従って、顔の見えるごく少数の顧客を店全体の顧客の公約数として位置づけて、彼らの話に耳を傾けることから始めてみてはいかがでしょうか。彼らは皆さんの何に(どういうことに)価値を感じて好きになってくれているのか、価値を感じていない或いは不要と思っていることは何なのか、不満に思っていることは何なのかを把握し社内でも共有することです。
その上で、彼らに好かれるためにはどうしたらよいかを仮説検証、試行錯誤していくことが重要になる訳です。
少数の顧客を顧客の公約数として位置付ける根拠は、次のような考え方に基づいています。それは、万人に好かれようとしてもどうしたら良いのかわかりません。しかし、好かれたい人物を特定できれば次々に具体的な対策が見えてくるからです。貴社の価値を認めてくださるお客様、つまり、貴社のファンを満足させる施策がうまくいくのであれば、その結果が多くの支持者を獲得することにつながることは言うまでもありません。
誰の顔を見てビジネスをしますか?
実は「誰に好かれたいのか」と言う問いかけは、企業のアイデンティティに係る質問を投げかけてきます。それは、「誰の顔を見てビジネスをするのか」という根本的な問いかけです。「誰の顔を見てビジネスをするか」と言うことに関して言えば、小さなお店であっても百貨店であっても変わりはありません。
「規模が大きいからできない」「顧客が多いからできない」では進化できません。ある百貨店では、その店を好きでいてくれる顧客をもっと増やすために、自分たちの取り扱うブランドを半期ごとのリニューアル毎に徐々に彼らが好むブランへとリプレイスしていくことにより、ご来店になる客層を変えていき、収益増を実現しました。
マーケティングのSTP(S:Segment、T:Targeting、P:Positioning)は多くの人が知っていますが、実行することに困難を伴います。ポジショニングを決めることで、ポジション外の顧客が来なくなるのではないかという恐怖感があるためです。
しかし、ポジショニングに沿ったターゲットである現在の顧客がどれだけの収益を生んでいるのかが分かれば、ある程度の予測が付きます。先の百貨店では、ポジショニングを決めて、それに沿った品そろえを確立することにより、自分たちの立ち位置を決めました。マーチャンダイジングとマーケティングの齟齬をなくすことで、よりお客様にとってディスティネーションとなる店つくりをされ、増収増益を実現することができました。
売上はお客様に聞いてくれといった商売ではなく、自分たちがコントロールできるように主体性をもった商売へと進化させていった訳です。
余談ですが、この企業のメールニュースは、月に一度送るか送らないか程度の頻度です。顧客にとって価値があるニュースだけをピンポイントで送るため結果として頻度が減りました。自分に価値のないメールを何回か受け取ると、もうその企業のメールニュースは見なくなり、配信不要の手続きも面倒なので、その都度デリートボタンを押下することになります。頻度が多ければ多いほど、デリートボタンを押す回数は増えるので、メールニュースが不快なものになってしまいます。実際にメールニュースの頻度を減らす判断をすることは悩ましいという相談も頂くことがありますが、顧客の顔を見たビジネスをしていれば、自ずとどうすればよいか理解できます。余談の余談となりますが「上司の顔を見て商売する」風土の会社は論外であることは言うまでもありません。
このように長期に渡っていい付き合いをしてくれる顧客をもっと興奮させ、喜ばせ、更にその忠誠心を高めてもらうようにすることをリレーションシップ・マーケティングと言います。顧客とのリレーションを高めるためには、いつも同じでは早々に飽きられてしまうため、進化することが求められます。
進化するということは、強みをより一層磨く、特性を磨くということです。そのためにも、顧客が心を寄せる強みや特性をはっきりさせること。これをベースに価値を提案しつづけることを顧客は望んでいます。