学校における「生成AI」の活用状況について
情報教育に関するさまざまな取り組みをされている望月陽一郎 先生に、2013年から教育現場の状況や先生のお考えについてインタビュー形式で伺っています。今回は望月先生が独自に調査された最新の「生成AI活用の現状についてのアンケート」を踏まえ、「学校における生成AIの現状について」お聞きします。
【望月先生 プロフィール】
大分県立芸術文化短期大学非常勤講師。Forbes Japan電子版オフィシャルコラムニスト。公立中学校理科教諭(理科)・大分県教育センター指導主事(情報教育)などを経験されています。自作の「micro:bit『サンプルプログラミング集』」などをサイトにて公開されています。
望月陽一郎 個人サイト:http://mochizuki.net/
生成AIは学校でどれくらい使用されているのか
―今回は、望月先生のアンケート調査を踏まえて、学校で生成AIはどの程度、活用されているのかというテーマでお伺いしたいです。
―アンケート調査期間は2025年7月19日から7月29日、対象は小学校・中学校・高等学校・特別支援学校など及び都道府県教育委員会・市町村教育委員会など教育行政の方々です。回答者数214名のうち小学校の先生の回答が全体の約44%を占めていることを踏まえて伺っていきたいと思います。
―「学校の『校務(授業を含む)』において、どの範囲まで生成AIの活用が許可されているか。(複数回答)」では、「教員に対して授業で活用が許可されている」が58%、「教員に対して授業以外の校務で活用が許可されている」が43%となっています。これは両方許可されている場合が多いということですね。
―「教員は活用を許可されていない」は1%、「教員は管理職・教育委員会に活用を禁止・制限されている」が5%、「どうなっているかわからない。知らされていない」が24%となっています。何らかの形で「許可されている」という回答は「許可されていない・制限されている」を大きく上回っています。
「学校の「校務(授業を含む)」において、どの範囲まで生成AIの活用が許可されているか。(複数回答可)」(2025年7月 n=214)
-また「生成AIをどの範囲で活用しているか。(複数回答可)」という質問に対しては、「授業の中で児童生徒と一緒に活用している」が24%、「授業の中で自分のみが活用している(児童生徒の代理も含む)」が36%と、授業でかなり活用していることがわかります。
「生成AIをどの範囲で活用しているか。(複数回答可)」(2025年7月 n=214)
―2023年にお見せいただいた「学校における生成AIの活用に関するアンケート(集計結果)」では、「授業で生成AIを使っているか」という質問に対して、
- 「先生・子どもたちともに授業で使っている」・・・ 5.0%
- 「先生のみが授業で使っている」 ・・・ 7.5%
- 「使っていない」 ・・・87.5%
という回答でした。
「授業での生成AI活用状況」(2023年7月 n=120)
―質問が若干違うので直接比較できませんが、授業でこの2年で学校での生成AIの活用がかなり進んだことがわかります。その一方で最初の質問では、「どうなっているかわからない。知らされていない」が24%もありましたが、どうしてこのような状況になっているのでしょうか。
望月先生:単純にグラフを見比べてみても、この2年で学校における「生成AIの活用」がぐんと進んだのは明らかです。それなのにまだ「どうなっているかわからない。知らされていない」という回答が多いのは、
- 許可され、活用が進んでいる自治体・教育委員会
- まだ何も進めていない自治体・教育委員会
の二極化が進んでいるのだと考えられます。
―授業での活用と比較して、「授業以外の校務で活用している」という回答は84%あり、まずは校務等から使用されているのだと推察しますが、望月先生はこの結果をどのように受け止められていますか。
望月先生:最初にアンケートをとった2023年7月から同じ傾向なのですが、授業以外の校務では児童生徒への影響も少なく、また働き方改革の視点から校務の効率化の工夫として生成AIを使うことができないか、という取組が進んでいるのだと思います。
―望月先生は授業での活用について先生方の具体例をChatGPTで分類させていますが、
- 国語・・・作文の校正、推敲 など。
- 数学・・・解法やポイントを相談する など。
- 理科・・・考察の判定、子どもの意見の分類 など。
- 社会・・・当時の偉人になるよう設定して質問する など。
- 外国語・・・語学学習に使っている など。
先生方が工夫していることがわかりますね。
―英会話練習にAIを活用することについては、私もDuolingoでAIとの会話を経験しており、大変実践的かつスキルアップに有効であることを体感しています。外国語指導助手(ALT)がいない中学校や高校でAIとの会話練習を活用すると、大変便利ではないかと思います。
―一方で、以前のアンケート結果で見た「志望理由書の壁打ち」というのがどういうことかよくわからなかったのですが、これは志望理由書をAIに読み込ませて添削しているということなのでしょうか。
望月先生:そうだと思います。受験の際に子どもが提出する志望理由書の文章を事前に添削することは先生方にとってかなり時間を必要とすると思いますが、この志望理由書の文章は適切か、文法上の誤りはないか、など生成AIに相談しているということでしょう。もちろん、個人情報は抜いた状態で読み込ませると思いますが。私も自分の書いた文章をよく添削させています。
―望月先生もアンケート調査をした際に生成AIに分類をさせていますが、「アンケートの分析」もそのようなことなのでしょうか。「生徒の提出物の採点」は確かに生成AIに行ってもらうと効率的だと思いますが、さきほど先生がおっしゃっていたように子どもの個人情報をAIに学習されてしまう危険性があるようにも思われます。その点は大丈夫なのでしょうか。
望月先生:私がアンケート分析を生成AIにさせるときも、個人情報を抜いた状態で行います。使う先生のモラルによる、といえないこともないですね。そのあたりを生成AIに関する研修でしっかり認識してもらうことが大切です。
―「利用状況・指針に関する現状」に関しては、望月先生が以前、文部科学省のガイドラインを紹介されましたが、まだ現場では浸透していないということなのでしょうか。
参考:初等中等教育段階における生成AIの利用に関するガイドラインver2.0 文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20241226-mxt_shuukyo02-000030823_001.pdf
望月先生:今回のアンケートで、このガイドラインを知っているか質問したところ、回答者中84%の方が「知っている」と回答しています。しかしほとんどが「個人的に知った」と答えていることから、研修によって学校の先生方が知っているとは考えにくいと思います。
―なるほど。学校での研修がまだまだ行われていないということなのですね。それでは、次回は「授業における生成AIの活用状況について」もう少しお伺いしていきたいと思います。望月先生、今回もお忙しい中、ご回答をありがとうございました。
>>「授業における『生成AI』の活用状況について」につづく