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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

「相対的貧困率」による統計マジック

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こんにちは。文書化能力向上コンサルタントの開米瑞浩です。

前回書いた通り

「OECD24ヶ国で貧困率を計ると、日本はワースト5に入る、貧困層の多い国である」

という理解は「状況把握」の間違いと言えますが、今回はそれがなぜ間違いなのかを書くことにします。

要点は以下の通り

1. この主張の「貧困率」とは「相対的貧困率」のこと
2. 「相対的貧困率」は、中間層の厚い国では実態よりも高めに出る
3. 日本はその「中間層の厚い国」に該当するため、相対的貧困率が実際の貧困度を表さない

ということです。

まずは「相対的貧困率」のイメージを確認するために、所得水準とその構成比でグラフを書いたのが図1です。

2013-12-26-01.PNG

要するに相対的貧困率というのは ↑ こういう概念で、所得水準の「中央値」の2分の1以下の所得者の割合を「相対的貧困」とカウントするわけです。


では次に、以下の2種類の所得分布を示す国があったとしましょう。

2013-12-26-02.PNG

高所得側の山は同じで、違うのはそれより下の部分です。
黒線で示したA国は、低所得側に大きな山がある、「大金持ち以外みんな貧乏」型。
赤線で示したB国は、真ん中あたりに山がある「総中流階級」型。

どちらの国が「所得格差が大きい」でしょうか。
明らかにA国のほうですね。これは一目見れば分かります。

では、相対的貧困率を計算するとどちらが高く出るでしょうか。
実はB国のほうなんです。

実際には格差の少ないB国のほうが「所得の中央値」が上がります。そうすると、「相対的貧困」とされるラインも高くなるため、相対的貧困とカウントされる割合が増えるわけです。

もっと極端な例を出すとこんな感じです。

A国とB国に国民がそれぞれ11人ずついるとします。
A国の所得分布が10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,  そして100ドル、
B国の所得分布が5,10,20,30,40,50,60,70,80,90,  そして100ドルだったとします。

最上位の「100ドル」が1人いるのは両国とも同じですが、それ以外の分布が全然違っていて、A国は「大金持ち以外みんな貧乏」型、B国は低所得から高所得までまんべんなくいる国です。

どちらの国が格差が大きいか。明らかにA国です。A国ではトップの一人以外は全員がB国の下から2番目の所得以下です。 ところが相対的貧困率はどちらが高く出るか。B国のほうなんですよ。

A国の所得の中央値は15ドル。相対的貧困率は中央値の半分以下の所得の人という定義なので、15ドルの半分=7.5ドル以下の所得の人が「相対的貧困」に該当しますが、A国では該当者ゼロです。いっぽう、B国の所得の中央値は50ドル。その半分の25ドル未満が「相対的貧困」とみなされますが、該当者は20ドル以下の3人です。

つまり、「中間層が多い」国のほうが、「一部の大金持ち以外はみんな貧乏」な国よりも相対的貧困率は高く出ます。そして日本はまさにそういう国に該当するため、「相対的貧困率」の数字は当てになりません。

ということで、「相対的貧困率」を根拠にして「日本では世界でも格差の大きな国である!」と騒ぐのはいかにも筋悪ですね。

■参考:「相対的貧困率」についての不破雷蔵さんの記事紹介↓
「相対的貧困率」について色々と考えてみる......(1)発表データのグラフ化と二つの貧困率

「相対的貧困率」について色々と考えてみる......(2)本当の「貧困」を世界と比べてみる

「相対的貧困率」についての開米の解説ツイートまとめ↓
「日本は超格差社会」は本当か...相対的貧困率と日本の格差問題

Comment(8)

コメント

ブヒM(^oo^)Mブヒ

非常に素晴らしいエントリーです。

>>「相対的貧困率」を根拠にして「日本では世界でも格差の大きな国である!」と騒ぐのはいかにも筋悪ですね。

そうなんです。個人のブログやツイートなどで多い事多い事w。
言葉のイメージだけでよく数字の意味を理解せず騒いでる人や
知っててミスリードを誘う文章も多いので辟易していた次第です。

そんな人達にはこのエントリーを紹介させていただきます。

開米瑞浩

どうもありがとうございまーっす

ヒント:物価

先進国にいながら途上国の生活費で生活できるならなw

相対貧困率の意味をわかってないんじゃないか?もしそれでもその主張を翻したくなければ「消費者物価指数で補正した値」でも使うといい。でもそれは消費者物価指数で補正するほうが正確に実態を表せるという主張を含むので相対貧困率そのものじゃないことは忘れちゃなんねぇな。

もし相対貧困率をそのまま使ってそのような事を主張したいのならば、物価、つまりは生活費が所得とはあまり相関しない事を示さなければならない。もっとも、物価には人件費が含まれている以上それは示せるとは思えないけどな。

匿名

なるほど、相対的貧困率がどんな意味をもっているのか理解できない人とは議論にならないと言うことがコメントからもよく分かりますね。

ひろ

ヒント:物価さんの文章、まったく意味が分かりません。開米さんの文章を読まずにコメントしているか、読んでも頭悪くて理解できないのか。日本の場合には、相応に生活できる所得を得ているのに相対的貧困率の定義では貧困層になっちゃう人が出てくるという話であり、絶対的な貧困とは限らないよという話なんですが。

さくらポリス

アプリオリのように日本は中間層が多い国に該当すると記述していますが、どういった前提でそのように断言できるのかデータが無いので根拠が不明です。
筆者の印象論で語っているのではないかと疑問に思うのですが。
そもそもグラフのデータが両方とも架空のもののようなので比較対象として論じられる代物ではないでしょう。
こういう場合は実際の日本のデータグラフと他国のデータグラフで比較しなければ意味は無いでしょう。
架空のB国とやらのグラフを作って「これは日本です」と語られてもねぇ。(笑)

ドンペリ

…ふと思ったんですが、「相対的貧困率」って実は数値の高い方が実際は総体的に豊かなことを示してる気がしてきたんですが。所得の平均が高まってて貧困水準が下がっていくわけだからこれが低いということは説明どおり国民の平均が相対的に貧困に近い生活を意味し、高いとなると国民平均は貧困と縁遠いということになるわけですから。もしかすると「想定的貧困率」という名称自体間違ってるんじゃないかって気がしますね。

あ、コメントで物価比較云々を言うのであれば都合「絶対貧困」での比較が必要になってくるわけですが。正直、「一日を1ドルで生活」という途上国の水準からすると「日本の絶対的貧困層」は途上国では中間層並みの水準になりそうですけどね。

金太郎

「貧困」という言葉のイメージに引きずられている人が多いですが、相対的貧困とはすなわち格差の大きさのことですから、それで食っていけるかどうかは基本的には別問題ですよ。
もちろん、その国の一般的な収入と比べてあまりにも収入が少ないと、いろいろな面で不都合が出てくるでしょうし(ここで物価の話に意味が出てきます)、特に子育てや教育への財政支援が少ない日本では、機会の格差という大問題が生まれますが。

ちなみに、今の日本の所得分布はむしろA国に近いです。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/03.pdf
(図13参照)

にも関わらず相対的貧困率が高いということは、格差はかなり大きいと言うことでしょう。

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