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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

これはすごい人工えら?

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いろいろな無理筋な発明品について言及していたら、友人A氏に無理筋研究室と呼ばれてしまった開米です。

そういえばこのブログに前回書いたのも、台風で発電と称する風力発電屋さんの件だったな・・・

ま、それはともかく、昨日(2016/3/16)かな? こういう話がバズってました。

すごくない? くわえるだけで水中呼吸が可能になる人工エラ『Triton』 - DIGIMONO!(デジモノ!)

ほう、人工えらですか・・・そりゃあ、本当に作れればすごいことですけど。

人工えらというコンセプトは何十年も前からあって、研究している人もいるんですけど、これに必要な技術に大きな革新があったというような話は聞きませんねえ。

↓早稲田大学酒井教授の談話
ゑれきてる~特集1.人工鰓で海中を自由に動き回る(上)
ゑれきてる~特集1.人工鰓で海中を自由に動き回る(中)

それがもう完成しましたか。量産開始ですか。クラウドファンディングしますか。ほええ。

すごいですね。本当なら。

酒井教授談話の(中)を読んでもらえば分かりますけど、水中には空中に比べて酸素が少ないです。

水中の酸素濃度は、水1リットルに5cc(0.5%)程度と薄く、しかも酸素濃度は一様ではありません。空気1リットルには酸素は210ccが含まれていますから、水中とは濃度が二桁も違います。

ということは、もし呼吸に必要な程度の酸素を水中から取り入れようとすると、猛烈な勢いでポンプを回して取水してやらなければいけません。それをあの口にくわえるデバイスに搭載可能な程度の小さなリチウムイオンバッテリーで45分動かすんですか?

非現実的と思いますがね・・・・

水中の酸素濃度が低い、というのは実用的な「人工えら」を作ろうとするときの最大の障壁で、実用的なものを作ろうとすると、酸素を取り込む膜に大面積が必要になり、小型化が難しいのです。

じゃあなぜ魚はそんな酸素の薄い水中で生きていられるのか? というと、一言で言えば魚は体温が低いからです。

魚類は基本的に周囲の水と体温がほぼ同じです。体温維持のためにエネルギーを使う必要がないので、基礎代謝が極めて低い。

その分、少ない酸素消費量で生きられます。

というか、水中で生きるためには酸素消費量を減らさざるを得ず、
そのためには基礎代謝を落とさざるを得ず、
そのためには体温を上げられない、ということなんでしょう。

ちなみに、マグロなんかは他の魚類に比べて体温が高いです。
その分、基礎代謝が高いので酸素消費が激しい。
そのため、エラに大量の海水を常時送り込む必要があるので、泳ぎ続けていないと死んでしまいます。

そんなわけで、人間が水中の溶存酸素をとりこんで生存するためには、
あの程度の小さな人工えらで、というのは非現実的です。
まあ、もし本当に完成した、動いている、っていうんならそのときはごめんなさいですが。

本日の無理筋研究室からは以上です。

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