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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

「台風で風力発電」と称する風力発電屋さんの話

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このブログを書くのは久しぶりです。半年ぶりぐらいですね。

なぜ久しぶりに書こうと思ったかというと、先月あるTV番組を見たからです。
しばしばベンチャー企業の奮闘を取り上げるその番組で、先月取材していたのが、垂直軸マグナス式風車を使って台風でも発電できる、と称する、ある風力発電ベンチャーです。

見ていて唖然としてしまったんですが、それでもわざわざブログを書こうという気にはなりませんでした。しかし今日、ある情報を目にしたので、自分の友人へ警鐘を鳴らすためにも書いておこうと思います。

下記の内容を読んでも何のことだか分からない人には影響はないと思うので、あえて固有名詞は出しません。

まず、その風力発電ベンチャーに関する事実関係をざっと書いておきます。

(1) 垂直軸マグナス風車で風力発電をやろうとしている
(2) 垂直軸マグナス風力発電機の成功例はまだ存在しない
(3) 垂直軸マグナス方式の風力発電システムなら、台風でも発電できる
(4) 台風は1つだけでも日本の総発電量の50年分のエネルギーを持っており、一部だけでも利用できれば大いに期待できる
(5) 垂直軸マグナス風車なら微風でも回って発電できる
(6) 電気は溜められないので、水素製造プラント用として使えるようにしたい
(7) 将来的にはメガワットクラスの大型化をしたい
(8) 現在の試作機では、自己消費電力が大きいためにトータルの発電量が小さくなってしまう。実用化までには普通の風でもトータルで発電できるようにしたい
(9) 台風で発電できることを確認するため、沖縄での実証実験をする計画を進めている。
(10) ついては沖縄での実証実験の資金の一部としてクラウドファンディングを進めている
(11) この風力発電機は、たとえば船舶につければ、燃料を使わずに船内の電気をまかなうことを狙える


ざっとこんなところです。これはすべてそのベンチャーの社長自身がさまざまなメディアで発言していることです。

当初は放っておこうかと思っていたんですが、(6)や(7)の話をしていること、さらにその会社がクラウドファンディングを進めていてしかもそこに目標とする資金(数百万円レベルですが)が集まっていることを最近知ったので、これは自分の友人知人がひっかからないようにするためにも、書いておかなければならないと思いました。

以下、細かいツッコミをします。

まず(1)と(2)について。
(マグナス風車という方式自体の説明は省略します)。
垂直軸マグナス風車による発電という構想自体は過去にもないわけじゃありません。風力発電で豊富な実績のある複数の大手企業も特許出願をしています。ただし、(2)にもあるように「成功例はまだ存在しません」。
以下は開米の私見ですが、永遠に出てこないでしょう。というのは、「垂直軸マグナス風車」というのはエネルギー効率的に不利な面があるからです。

垂直軸マグナス風車は、風向に対して揚力(これが風車を回転させる力になる)の発生する方向が一定です。ということは、その揚力が「回転を妨げる方向に働く」場合もあるわけです。マグナス風車の揚力は風のベクトルと風車の回転のベクトルの合成に対して垂直に働くので、単純にプラスマイナスゼロになるわけではありませんが、少なくとも回転の一部の区間において「回転を妨げる方向に働く」のは事実です。

プロペラ式風力発電ではそういうことは起きません。プロペラ式では揚力はすべて風車を正規の方向に回転させるように働きます。

次に(3)(4)について。
「台風でも発電できる」という話ですが、そもそも年間に何日台風が来ると言うのでしょうか。よく使われているプロペラ式風力発電機でも、25m/sぐらいまでは発電できます。
ざっと調べてみましたが、沖縄あたりだと本州に比べて台風の接近は多いにしても、それでも台風に影響されるのは多くても年間10日ぐらい、平均的には5日以下です。そのためにわざわざシステムの可動部分の各所に台風に耐える強度を持たせるだけのコストに見合うとは思えません。

次に(5)について。だいたいこの種の小型風力発電機は「微風でも回る」ことを売り文句にしていることが多いですが、「回っている」からといって「発電している」とは限りません。風力発電には「発電量は風速の3乗に比例する」という法則があり、微風ではそもそもの風のエネルギーが弱いのでほとんど発電できないんです。一方で、微風でも回るようにしようとすると、構造の各部を軽くする必要があり、それをすると今度は本来まともに発電できる強風域に耐えられなくなります。そのため、商用で採算が取れる風力発電機はもともと微風域は捨てています。つまり、風力発電で「微風でも回る」というセールストークが出てきたら、その瞬間に「はい、さようなら」と言っていいぐらいの話なんですね。

次に(6)について。電気は溜められないので、水素製造プラント用として使えるようにしたい、という話なわけですが、水素製造・貯蔵・消費の各過程でそれぞれエネルギーのロスがあるので、この話はそもそも元の発電コストが相当安くないと成り立ちません。そして、発電コストが安いのであれば、それをそのまま電気として売った方がずっと儲かります。非現実的です。「電気が余っているから売れない、売れないぐらいだったら水素に変えて・・・」という話が成り立つ可能性があるのも台風の時ぐらいで、やはり非現実的です。

次に(7)について。将来的にはメガワットクラスの大型化がさも可能なようなことを語っていますが、垂直軸風力発電はそもそも大型化に向いていません。また、「台風でも発電できる」というのも大型化したときには成り立たないでしょう。(3)(4)は「マグナス回転の回転量を調整することで、台風のような強風下でも回りすぎないようにできる」というだけの意味であって、強風が回転軸にもたらす曲げモーメントに耐えられるという意味ではないからです。小型のうちはこれは問題にならないのですが、大型になればなるほど深刻な問題になります。

次に(8)について、「試作機では、自己消費電力が大きいためにトータルの発電量が小さくなってしまう」ということをTV番組ではハッキリ語っていませんでしたが、推測はつきました。そもそもこの風力発電ベンチャーが最初に構想したマグナス風車機構も、いかにも自己消費電力が大きそうなものでした。それはまったく性能が出なかったということで放棄され、新しく根本的に異なる設計で作ったのが現在の試作機だそうですが、やはり「いかにも自己消費電力が大きそう」「複雑なメカを持つため、金がかかりそう(製造費がかさむ上に、故障が多くなるはずで、つまり保守費用がかさむと考えられるため)」という根本的な欠点は変わっていませんでした。こういうところを見ると、率直に言って工学系の技術的センスを疑います。

(9)について、台風で発電できるかどうかを試験するなら、沖縄よりもまずは風洞実験でしょう。そのほうがよほど手軽に実験できるはずですが、風洞実験で台風クラスの強風に耐えた、という発言はありません。もしその実績があれば当然そうアピールしているはずで、そのアピールがない以上はやっていないか、やっていても成功していないと思われます。

(10)について、そもそも沖縄での実証事件という話が「ちょっと待てよ」なので、そのためのクラウドファンディングには正当性を見いだせません。

(11)について、「船舶につければ」どうなるか。もし追い風だったら風が弱くなりますので発電はできません。もし向かい風だったら空気抵抗が増えるわけで、発電できたとしてもそれ以上に燃料をロスする可能性が高いです。横風だったとしても事情は同じです。

こういうところを見ても、技術センスのなさを感じます。

ちなみにこのベンチャーさん、「マグナス回転をする円柱の後ろに遮蔽板を設けることで、風の抵抗を減らすことができた。これは円柱の後ろに手をかざしたときに発見した偶然の産物」と語っていたこともあるんですが、いやそれって流体力学の初歩で出てくるような話じゃないの・・・それを「偶然発見」したのかよ? とも思わざるを得ないわけで。

その発言を目にしたときは、何か小学生の工作の話を聞いてるような気がしたものです。

まあそんなわけで、この話はどう考えても非現実的なので、ここに記録しておきます。

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