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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

「状況把握」には専門知識が必要になる

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こんにちは。文書化能力向上コンサルタントの開米瑞浩です。
今回は珍しく(?)本業に関係する話を書きます。

「文書化能力」というのはつまるところ「役に立つ文書を書ける能力」です。
そして、「役に立つ文書」を書くためには、そもそも「文書作成」の工程をおおまかに「状況把握」→「方針立案」→「行動提案」の3つに分割して考えるとよい、ということが今までの私の経験上、分かってきました。

「状況把握」というのは、現実がどうなっていて何が問題なのかを把握する段階です。
その状況を踏まえて「こうすれば問題を解決できる」という方法を考えるのが「方針立案」の段階です。
そして考えた方針を自分以外の人々に説明して理解を得るのが「行動提案」の段階です。

この3つの段階ごとに「文書」の役割が違ってくるため、それを踏まえて書かなければ役に立ちません。

さて、ここまでを前置きにして、昨日、ふとしたことで見かけたこんな情報について書きます。

「OECD24ヶ国で貧困率を計ると、日本はワースト5に入る、貧困層の多い国である」

という話なんですが、これ、ちょっと意外じゃないですか?
私がこの話を最初に目にしたのは今から5年前、リーマンショック直後の「年越し派遣村」が話題になっていた時期です。一般的には「日本は外国に比べて格差が少ない国である」と思われているところにこの貧困率のデータを持ち出して、

日本の社会に格差が少ないというのは幻想だ。
実際には貧困者が多いほうなのだ。
その証拠がこの貧困率のデータだ。
政府はその対策をすべきである。

と主張する文脈で使われていました。

それを聞いて私は「ほんとかよ。何かの間違いじゃないのか?」と思ったわけです。
日本の貧困率が高い、というのはちょっと信じがたい。

「状況把握」を間違えると、適切な「方針立案」はできません。
「日本の社会に貧困者が多い」という「状況把握」が間違っていれば、そこから先の主張は全部崩れます。そのため、「状況把握」の段階ではまず何よりも

現実を正しく理解できているか?

が問われます。

その上で詳しく見ると、「日本社会はOECD24ヶ国の中でも貧困者が多い国である」という理解は間違いです。つまり「状況把握」が正しく出来ていません。そのため、「政府はその対策をすべきである」という「行動提案」も、その理解のまま進めるとトンチンカンなことになってしまいます。

「日本には貧困者が多い」というのが間違いである理由は、「貧困率」という指標の性質にあります。

「OECD24ヶ国で貧困率を計ると、日本はワースト5に入る、貧困層の多い国である」

という大元のデータで使っている「貧困率」というのは正確には「相対的貧困率」と言って、下記のような定義で算出されます。

http://kotobank.jp/word/%E7%9B%B8%E5%AF%BE%E7%9A%84%E8%B2%A7%E5%9B%B0%E7%8E%87 (コトバンク)
世帯所得をもとに国民一人ひとりの所得を計算して順番に並べ、真ん中の人の所得の半分に満たない人の割合。

この定義に従って計算すると確かに日本は「貧困率が高い」ということになるのですが、実際にはこの「相対的貧困率」という指標には2つの問題があり、現実を適切に表しているとは言えません(その2つの問題が何かは別途詳しく書きます)。

そのことは、「貧困率が高い」という計算結果を鵜呑みにせずに、

「貧困率」が「相対的貧困率」のことであることを調べ、
「相対的貧困率」の定義を確認して、
それが適用しうる前提条件を調べ、
日本社会の所得分布のパターンを調べれば

それで本来はわかります。「状況把握」段階では本来はそういうことをやらなければなりません。

しかし、この作業はごらんの通り、多少の専門性が必要なんですね。
専門性と言っても大したものではなくて、この話の場合は高校で学ぶ確率統計の基礎がわかっていれば気がつく程度のことでしかないのですが、しかし現実にはそれに気づかず「日本は貧困者が多い」という結論だけを鵜呑みにして、日本の社会構造や政府の無策を批判するような論調を今でもよく見かけます。どうにもこうにも、嘆かわしいですね。

文書作成の工程は「状況把握」→「方針立案」→「行動提案」の3つに分けると良い、と最初に書きました。

「状況把握」というのは「現実」を理解するための工程で、ここでは分野毎の専門知識が必要です。そこで、専門的な知見を適切に、扱いやすいカタチで表現できる書き方が求められます。
一方、「行動提案」というのは、自分以外の人と組織を動かす段階であり、提案をする相手には「専門知識」を期待できない場合のほうが多くなります。

これが大きな違いで、各段階で求められる文書の性質に差があるため、その差を知った上で書くようにしないと、経営者向けのプレゼンで現場の細かいデータてんこ盛りの資料を出してしまうといった失敗をしがちですね。

■参考:「相対的貧困率」についての不破雷蔵さんの記事紹介↓
「相対的貧困率」について色々と考えてみる......(1)発表データのグラフ化と二つの貧困率

「相対的貧困率」について色々と考えてみる......(2)本当の「貧困」を世界と比べてみる

「相対的貧困率」についての開米の解説ツイートまとめ↓
「日本は超格差社会」は本当か...相対的貧困率と日本の格差問題

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