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米西海岸サンフランシスコから、ホットなIT/イベント/おすすめスポット情報をお伝えします

ビジネスアプリケーションベンダが抱える共通の悩みとは?

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米国時間の6月21日に、サンフランシスコにあるHyatt Regencyで米Salesforce.comの新製品「Summer '05」ローンチイベントが開催されました。同社は、年3回(初期は年4回)製品の定期アップデートを行っており、今回は2005年の第2回目にあたるアップデートです。また同日は、同社にとって新製品の発表以外の大きな意味も持っています。米Salesforce.comがIPO(株式上場)してちょうど1周年にあたり、ちょうどニューヨーク証券取引所(NYSE)の取引終了時刻の東海岸時間(EDT)4時、西海岸時間(PDT)で1時にパーティの会場で、ちょっとしたカウントダウンが行われました。冬季はアイススケート・リンクの出現するEmbarcadero Center前の広場に特設会場が作られ、そこでハワイアンな雰囲気と1960~1970年代風の音楽の流れる(CEOのMarc Benioff氏の趣味なのでしょう)なか、ランチタイムを兼ねたパーティです。

onemarket01 お祭りムードは苦手な私ですが、この会社の明るい雰囲気は好きです。IPOに成功、顧客ベースが順調に伸びているイケイケ状態の企業ムードが、その明るさにさらに拍車をかけています。記者会見場に入る直前、入り口では来場者全員の首にレイをかけてきました。パーティ会場のEmbarcaderoは港の前でやや南国の雰囲気が漂っている場所です(ちなみに、Salesforce.com本社のあるOne Marketという建物も道路向かいにあります)。聞けば、Benioff氏は大のハワイ好きで、自宅と自身のオフィスをハワイに持っているそうです。本社に顔を出さないときは、ハワイのオフィスからビデオ・カンファレンス・システムでミーティングに参加しているとのこと。人によっては、ものすごく羨ましい勤務スタイルかもしれません。

さて、このSalesforce.comですが、どこに強みがあるのでしょうか。CRM業界で大きな注目を浴びる同社ですが、2点ほど他社にはない特徴があります。特徴の1つめは技術です。CEOのBenioff氏をはじめ、同社のコアの技術メンバーはOracleのスピンオフ組です。Salesforce.comのコアは、OracleのデータベースとJavaによるコンポーネントで構成されていますが、両技術のプロフェッショナル中のプロフェッショナルが集まることで、必要な機能をフルスクラッチから書き起こしています。これに全世界をカバーする24時間365日体制のデータセンター管理が加わり、レスポンスの高さや冗長性を確保しています。ASPではレスポンスと冗長性の低下は致命的ですので、これは大きなメリットでしょう。

2つめは、ASPというビジネスモデルの特殊性によるものです。ビジネス・アプリケーションを展開するベンダはすべて、製品のアップグレードとインテグレーションの2つの問題を抱えています。まずインテグレーションのために膨大なソフトウェア導入費とカスタマイズ費を支払います。それに年間の保守契約費用やライセンス料が加わり、数千万円から億単位の予算が必要になります。ASPでは初期導入費やシステム構築の手間がいらず、月額の利用料を払うだけですぐに使用が可能となるため手軽です。そしてこれがいちばん大きな理由なのですが、アップグレードを自動的に行える点です。

アプリケーション・ベンダでは通常、製品の保守期限を設けて、それ以上システムを利用する顧客については次期製品へのアップグレードを促します。旧バージョンを使い続けようとするユーザーには保守契約費用を余分に徴収し、早期に移行を考えるユーザーには割引特典などをつけて優遇します。旧製品を保守し続けるのはコストのかかる仕事ですから、ベンダー側の理論としては当然の行為でしょう。アップグレードは手間のかかる作業ですし、すでにきちんと動いているシステムを改変することで不具合が発生するのは避けたいでしょうから、ユーザーとしては反発するところも多いでしょう。

party01 このアップグレード問題は、ベンダにとってはつねに悩みの種です。ところがSalesforce.comのシステムでは、必要なアプリケーション・ロジックはすべてセンター側にあるため、いつでも自在にアップグレードが可能となります。ユーザーは特に意識せず、使い続けている間に自然に新システムに移行していることになります。またあまりよい傾向ではありませんが、バグ・フィックスもすぐに対応できます。ユーザーに対して個別にアクションをとる必要はありません。すべては自動的に対処されます(こういう仕組みがあれば、Microsoftも悩みの7割くらいは解決するでしょうね)。

現在のところ、順風満帆に見えるのがSalesforce.comです。しばらくは顧客ベースも順調に伸び続けるでしょう。この成長を支えているのは、パーセントにして1桁台という驚異的なまでに低いサービス解約率です。予想ですが、今後2~3年は安泰だと考えます。問題はそこからで、成長率がフラットになったとき、そしてSAP、Siebel、Oracle、MicrosoftといったCRM分野のライバルがASP+中小企業をターゲットに戦力を集中投下しはじめたときが勝負どころとなります。SiebelはUpshot買収でASP型CRMというSalesforce.comと直接競合する製品を持っていますが、Siebel自体がビジネス上の岐路に立っており、今後の予断を許しません。SAPは強敵ですが、どれだけ中小企業分野で本気で勝負してくるかは未知数です。OracleはASPサービス自体を持っていないので、これからでしょう。Microsoftも中小企業分野では強いですが、Great Plains系のビジネス・アプリケーション展開にはやや苦戦している印象を受けます。こうしたライバルとの競合をにらみつつ、さらなる売上増のために、CRM以外の分野での展開をどのように進めていくかが大きなポイントとなるでしょう。

Comment(6)

コメント

e-浅井

Jさん、ごぶさたです (^_^)/
ベニオフは、2000年ごろ、OracleでNetwork Computerのプロジェクトが一段落したところで、SVPなのに凄く長い(半年くらいの)休暇をハワイで取ってたのを思い出しました。当時は「本を書くんだ」と言ってました。結局、復帰してしばらくして退職したんですが……。それにしても、ハワイからテレカンとは、うらやましい。

J

考えてみれば、Salesforce.comの元のアイデアはNCからきてるんですよね。ようやく時代がついてきたというか……。ところで、オーランド出張の帰りにSFのJavaOneに飛び入り参加されるそうですね。よろしくお願いいたしますw

hashipy

いつも興味深くブログを読ませていただいています。前から不思議に思っているのですが、ASPは一昔前に流行しましたが、あっという間に消えてしまったという感があります。すくなくとも日本ではそうでした。当時のASPとは違うサービスをSalesforceは出しているから成功しているとするならば、その違いは何なのでしょうか?もしくは、単にやっと時代が追いついてきたのでしょうか。日米での程度の違いはあれど、やはりASPゆえのカスタマイズのしにくさ等は今でもネックになることが多いのではないかと思います。その点をどう克服しているのかも興味があるところです。

J

いただいたコメントですが、ASPの考察という点において、かなり核心を突いてる指摘だと思います。Salesforce.com成功のポイントとして、
(1) 時代背景
(2) 定期的なアップデート
(3) カスタマイズ
の3つが挙げられると考えています。(3)を除けば、同社のサービスは以前まで雨後の筍のようにあまた出現したASPと大差ないと、個人的には思っています。インフラが整備されて利用できる環境が整ったということと、定期的なアップデートで機能強化を怠らなかったことが1つの成果として表れたと分析しています。米国でASPの立ち上がりが弱かった理由としては、ITバブル崩壊の後遺症で、インフラ面が整わず、サービス供給過剰感があったこともあると思います。
また、カスタマイズが同社の最大の強みですので、このあたりをどう武器として使っていくかが今後の勝負の分かれ目だと思います。いまはやや苦戦している日本市場でも、このあたりが受け入れられるかで伸びが変化すると思いますので。

hashipy

Jさん、コメントありがとうございました。ご指摘の点、とてもうなずけます。コンペティターであるRightnow社も株式公開を成功させておりますし、オンデマンドCRMの市場は、シーベルの失墜とは対照的に盛り上がりを見せています。ここでふと思うのは、ASPというビジネスモデルはなぜCRMだけでうまく行っているんでしょうか?他のソリューション分野でもASPが出てきてもおかしくないように思うのですが。。。

次はオンデマンドERPと、それを構成するアプリケーション群あたりが適当そうですね。中小企業にシステムを提案するのにR/3をそのまま入れるが適切かというと少し首をかしげてしまいますが、このような形なら比較的導入しやすいと思います。

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