在米記者が考える、新聞ニュースの「オンライン vs. 紙」
先日、調査会社の米Nielsen//NetRatingsが発表した「オンラインユーザーの5人に1人が「紙ではなくオンラインでニュースを購読」ですが、自身が活動フィールドとしている業界の最新ニュースということで、非常に興味深い話題です(ITmedia以外のソースで恐縮ですが)。オンラインユーザーを対象にした調査で、さらにそのうちの2割というこの数字が大きいかどうかと感じるのは人によりますが、個人的にはボディブローとして効いてくるレベルの値に近づきつつあると感じています。
新聞の定期購読に与える影響はまだまだ少ないと思いますが、広告媒体としてのWebの影響が大きくなってきており、現状のようにただ新聞に掲載されている情報を右から左へと流してバナー広告をまわしているだけでは、本来あるべきビジネス機会を逸している可能性があります。オンライン版は紙よりも複数の媒体を見比べるのが容易です。全部の媒体をチェックするという人もいるでしょうが、私みたいに面倒くさがりな人間は、「これ!」という媒体があれば、ずっとそれ1つだけをチェックし続けるようになるでしょう。ヘッドライン的なものはYahooやGoogleなどのニュースページにも掲載されていますから、単に速報というだけでは、新聞社サイトを見に行く価値は少なくなります。特集記事なり、ビデオ/写真配信サービスなり、このAlternative Blogのように双方向性の比較的高い意見交換の場を設けるなり、何らかの差別化が必要になります。そうしなければ、広告主にとっても広告を出稿するメリットが薄まってしまいます。
こうした動向に比較的シビアなのが米国系の新聞社です。最大部数を誇るNew York TimesやUSA Todayでも全米で300~400万部程度ですから、他の地方紙などはさらに1桁下回るのも普通です。日本の某新聞社さんのように1000万部突破をうたうのとは次元が違います(人口差を比べれば歴然ですよね)。そもそもUSA Todayが米国初で唯一ともいえる全国紙で、残りはNew York Timesも含めてすべて地方紙で、あとはWall Street Journal(WSJ)のような専門紙というのが米国の新聞事情ですから。これら新聞社では、若者向けのフリーペーパー紙も含め、商売の多くを広告に依存していることになります。部数減少とともに、広告主にとっていかに媒体を魅力的に見せるかが運命の分かれ道ですから、否が応でも必死になります。有料化にも熱心で、WSJはすでに有料サービスを提供していますし、New York Timesは「無料→有料→登録制(→有料?)」という道のりをたどっています。
振り返ってみれば、われわれ米国で活動しているようなジャーナリストの日々の主たる情報源は、Web上のニュースです。米国には、企業が発信するプレスリリースを集約して、プレスリリースとともに写真やビデオ映像を提供するサイトも存在しますので、朝起きて落ち着いたら、まずはそれら膨大なリリースに一通り目を通すのが仕事です。次に、NYTimes.com、CNN.comのほか、CNET News.comといったIT系情報サイトのチェックもはじめます。あとは、前日発表された日本のニュースとかもですね。これを毎日2~3時間くらいやって現在何が起こっているのかを把握し、ニュースを執筆するなり、追加取材を行うなり、その日の本来の作業がようやくスタートするのです。米国では東海岸の早朝からニュースリリースが出始めますから、西海岸では朝3~4時とかの日の出前、そして西海岸時間の夕方過ぎまで、延々とニュースが出続けることになります。ケース・バイ・ケースですが、日に最低でも30~50個くらいのリリースやニュースは読んでいるでしょう。
ところがこれを新聞紙でやろうとすると、かなり面倒です。情報はオンラインに比べてやや古いですし、ニュースの数も少なかったりします。その代わり詳細が掲載されていたり、地方版や産業面などの特別な記事が掲載されているケースもありますが、必要なニュースはオンライン版で十分でしょう、というかそちらのほうが向いています。最近は喫茶店や食堂にいっても、ノートPC上に何個もブラウザ・ウィンドウを開いて持っていったり、あるいはプリントアウトして読んでたりします。そういえばこの前、日経新聞社シリコンバレー支局のYさんとFさんと話したとき「WSJなんかも全部Webでチェックしてますよー」というお話でした。考えてみれば「これだけ広い国土でわざわざ新聞を配達するよりも、せっかくブロードバンド環境が整っていて自由に使えるなら、それを使わない手はないよね」という気もします。忘れていましたが、オンライン版のもう1つのメリットとして、気になったことがらをすぐに検索エンジンを使ってチェックできたり、関連ニュースを引っ張れるということがあります。