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AIに仕事を奪われないために、本当に大切なこと

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毎年、私はのべ1000人を超える新入社員の皆さんに向けて、「最新のITトレンドとこれからのビジネス」というテーマで講義をしています。特に近年はAI技術の急速な進化と普及を背景に、受講者の皆さんからは「AIによって自分たちの仕事はどうなるのか」「AIとどう向き合えばいいのか」といった、期待と不安が入り混じった質問が多く寄せられます。

特に、IT業界で働く方々、中でもSIerやITベンダーに所属する方の中には、「プログラミングのような仕事はAIに奪われ、自分たちの仕事はなくなってしまうのではないか」という強い懸念を抱いている方も少なくありません。

今回は、そんなAI時代を生きる皆さんと一緒に、これからの働き方と人間ならではの価値について考えていきたいと思います。

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AIに代替される「知的力仕事」とは?

結論から言えば、プログラミング、特にプログラム・コードを書く作業は、近い将来AIに置き換わっていく可能性が高いでしょう。また、システムの運用や管理といった、パターン化できる業務も同様です。これらの変化は、クラウド化の進展とAI技術が組み合わさることで、さらに加速していくと考えられます。

私は、こうした「知的力仕事」と呼べる業務は、IT業界に限らず、あらゆる分野でAIに代替されていくと見ています。

プライベート重視の価値観に潜む落とし穴

一方で、最近の若い世代の働き方に対する価値観は変化しています。実際に、内閣府が実施した「国民生活に関する世論調査(令和4年度)」によると、「仕事」よりも「家庭・プライベート(私生活)」を重視すると回答した20代は7割を超え、仕事はあくまで「生きるために稼ぐ手段」と捉える傾向が強まっています。

プライベートな時間を大切にする価値観は素晴らしいものですが、もし収入の糧を「知的力仕事」のみに頼っているとすれば、少し注意が必要です。なぜなら、AIがその仕事を代替するようになった時、稼ぐ手段そのものが失われ、大切にしたいはずのプライベートを楽しむための経済的・時間的な余裕さえもなくなってしまう危険性があるからです。

もはや、仕事とプライベートを完全に切り分ける「ワークライフバランス」という言葉だけでは、これからの時代を捉えきれないのかもしれません。これからは、仕事を通じて得られる学びや成長が、人生そのものを豊かにするという「ワークインライフ」の視点が、AI時代を生き抜く上で大きな力になるのではないでしょうか。

社会人にとって、仕事に費やす時間は、人生の約3分の1を占めると言われています。この膨大な時間を、単にお金を稼ぐための「対価」と捉えるか、それとも自身の市場価値を高めるための「投資」と捉えるかで、長期的なキャリア、ひいては人生そのものが大きく変わってくるでしょう。AIが単純な「知的力仕事」を肩代わりしてくれる時代だからこそ、私たち人間は、より創造的で自己成長につながる仕事に時間とエネルギーを集中させることができます。仕事(ワーク)を、人生(ライフ)の一部として積極的に捉え、自らの価値を高める手段として活用していくこと。それは、AI時代を生き抜くための、極めて合理的で前向きな選択なのです。

人間にしかできない「知的意味創造仕事」

では、AIに代替されない、人間ならではの仕事とは何でしょうか。

それは、「人々を幸せにしたい」「より良い社会を実現したい」といった利他の精神から出発し、「そのために何をすべきか」という根本的な問いを立て、その仕組みや実現方法を考え抜くことです。

経営学者の野中郁次郎氏は、その著書『知識創造経営』の中で、知識創造のプロセスは他者への「共感(Empathy)」から始まると説いています。他者の喜びや悲しみに深く共感するからこそ、「この人のために何とかしたい」「この社会を良くしたい」という強い想いが生まれ、それが新しい価値を創造する原動力となるのです。これこそが、利他の精神の本質と言えるでしょう。

AIも、ある意味では人間以上に「考え」ますが、それは与えられた問いに対して、膨大な知識の中から最適解を探し出す作業です。一方、人間の「考える」とは、AIに考えさせるための問いそのものを「考える」ことにあります。

AIの仕事が、前述した「知的力仕事」であるならば、人間の仕事は「知的意味創造仕事」と呼べるでしょう。それは、何のためにその技術を使うのか、その仕事を通じてどんな価値を生み出したいのか、という「意味」を創造する仕事なのです。

「知的意味創造仕事」の能力を高めるために

では、どうすればこの「知的意味創造仕事」の能力を高めることができるのでしょうか。私は、その答えは以下の3つの実践にあると考えています。

  1. 沢山の本を読む:多様な知識や先人の知恵に触れ、新たな問いを立てるためのきっかけを見つけます。

  2. 沢山の人と話す:自分とは異なる価値観や視点を知り、多角的に物事を捉える力を養います。

  3. 沢山の実践を試みる:正解のない問いに対して、実践を通じて自分なりの答えを創り出します。行動し、その結果から学ぶプロセスこそが、新しい価値創造につながるのです。

これらはすべて、私たち自身の身体を通じた「体験」から得られるものです。AIには決して真似のできない、人間ならではの学び方と言えるでしょう。

AIを使いこなす生き方

AIの「知的力仕事」における性能は、今後もますます向上していくことは間違いありません。私たちがAIと同じ土俵で張り合っても、勝ち目はないでしょう。

だからこそ、私たち人間は「知的意味創造仕事」という、人間にしかできない領域で自らの価値を高めていく必要があります。AIを恐れるのではなく、AIを使いこなし、より良い未来を創造するパートナーとして共存していく。そのために、利他の精神を胸に、学び、対話し、行動し続けることこそが、今を生きる私たちに求められているのだと、私は確信しています。

【まもなく受け付け終了】次期「ITソリューション塾・第50」は、108日(水)より開講します。

未来を見通すための学びの場で、皆様とお会いできることを楽しみにしています。

次のような皆さんには、お役に立つはずです。

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