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「常識崩壊」時代の人材育成はどうなるのか

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AIが変える「学び」の常識

生成AIやAIエージェントの技術が、私たちの仕事や暮らしの風景を日々、塗り替えています。この大きな変化の波は、もちろん「教育」や「企業研修」の世界も例外ではありません。むしろ、これから最も大きな変革が起こる領域の一つと言えるでしょう。

「すべての人に同じ内容を、同じペースで」という画一的な教育が当たり前だった時代は、終わりを告げようとしています。AI技術の発展が、「一人ひとりの才能や好奇心に寄り添い、学びを最適化する」という、かつては理想論だった個別教育を、今まさに現実のものにしているのです。

この記事では、AIが教育にもたらす未来と、その中で人間の講師に求められる役割の変化について、考えていきたいと思います。

15年以上前に予見されていた「教育の破壊的イノベーション」

実は、テクノロジーが教育に革命をもたらすという考えは、決して目新しいものではありません。『イノベーションのジレンマ』の著者として知られるハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授は、今から15年以上も前の2008年に、その著書で未来を鋭く見通していました。

  • 書籍名: 『教育×破壊的イノベーション』
  • 原題: Disrupting Class: How Disruptive Innovation Will Change the Way the World Learns
  • 著者: クレイトン・クリステンセン, マイケル・B・ホーン, カーティス・W・ジョンソン
  • 日本語版出版社: 翔泳社 (2008年)

クリステンセン教授は、ITの発展が、画一的な「一律教育」のあり方を根底から覆し、生徒一人ひとりに合わせた「個別教育」を可能にする「破壊的イノベーション」が起こると予見しました。彼の予測の要点は以下の通りです。

  • 新しい技術による「個別教育」が登場するが、最初は既存の教育ニーズを完全には満たせない。

  • そのため、多くの教育関係者は、既存の一律教育の改善を優先し、ITの活用は限定的になる。

  • しかし、ITによる個別教育は、既存の教育サービスに満足できていない層から徐々に普及し、やがては主流の座を奪う。

大学の講義を無料で公開する「MOOC(大規模オンライン公開講座)」や、AIが個人の理解度に合わせて出題を最適化する「アダプティブラーニング」が普及しつつある現在、まさに彼の予言が現実になっていると言えるでしょう。

生成AIが加速させる「学びの個別化」とその事例

そして今、生成AIやAIエージェントの登場が、この流れを決定的に加速させています。いつでも、どこでも、一人ひとりに寄り添ってくれる「AIチューター(先生)」が、私たちの学びを支えてくれる時代が始まっているのです。

【教育現場での活用例】

  • 24時間対応の質問相手: わからないことを、わかるまで何度でも違う言葉で説明してくれます。人間の先生には聞きにくい初歩的な質問も、AI相手なら気兼ねなくできます。

  • 興味に合わせた深掘り学習: 「もっと知りたい」という知的好奇心に応じて、関連情報や発展的な内容をAIが次々と提供し、学びをどこまでも深めてくれます。

【企業研修での活用例】 学生以上に年齢や経験、スキルの差が大きい社会人の学び直しにおいて、個別教育のニーズはさらに高まります。

  • 個別のスキルアッププラン: 各自の現在のスキルレベルと目指すキャリアに応じて、AIが最適な研修プランを設計します。

  • リアルな実践練習: 営業のロールプレイングの相手をAIが務め、様々なパターンの顧客対応をシミュレーションするなど、実践的なトレーニングが可能になります。

未来の講師に求められる「芸人」ヂカラとは?

では、AIがこれほどまでに優秀な「先生」になる時代、人間の講師や研修担当者の役割はなくなってしまうのでしょうか。そんなことはありません。しかし、その役割が大きく変わることは確かです。

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論語に「故きを温ねて新しきを知る、以て師と為るべし」(温故知新)という言葉があります。これは、古い物事を研究し、そこから新しい知識や道理を見出すことの重要性を説いたものですが、これからの講師のあり方にも通じるものがあります。教育の本質という「故き」は変わりません。しかし、AIという「新しき」手段をどう活かすかを知らなければ、未来の「師」となることはできないでしょう。

これからの研修は、おそらく二極化していきます。

  • 知識のインプット → オンライン(AI)研修

  • 知識の深化・体験 → ライブ(対面)研修

知識を教えるだけの講師はAIに代替されます。これからの講師に求められるのは、ライブコンサートのような、その場でしか味わえない「体験」を創り出す力です。それは、参加者のやる気に火をつけ、心を高揚させ、参加者同士の化学反応を促す、演出家でありエンターテイナーとしての能力です。

極端に言えば、落語家や漫才師のような「芸人」としての力が求められるようになります。受講者の反応を瞬時に読み取り、臨機応変に話題を変え、場を盛り上げる。一方的に話すのではなく、巧みな問いかけで深い議論を引き出す。そんな人間的な魅力とファシリテーション能力こそが、未来の講師の価値になるのです。

舞台に立つ「芸人」が、「今日の客はろくに笑ってくれない」と自分の能力のなさを観客のせいにするでしょうか。もしそんな芸人がいれば、やがて舞台から姿を消していくでしょう。それと同じように、「今日の受-受講生は態度が悪い」と嘆く講師は、そうさせているのが自分自身であることに気づいていません。個別教育が当たり前になれば、受講者を惹きつけられない講師は自然と淘汰されていくのです。

すべての仕事に求められる「感動」を創り出す力

この変化は、講師や教育関係者だけの話ではありません。例えば、営業職も同じです。お客様の要望を聞いて、それに合う商品を提案するだけの営業は、いずれ「AI営業」に置き換えられるでしょう。

これからの時代に価値を生み出すのは、ストーリーを描き、演出を考え、相手の心を動かし「感動」を与えることができる人材です。AIを最高の相棒として使いこなしながら、人間にしかできない創造性や共感性を発揮すること。そうした人材を育てるためにも、教育や研修のあり方そのものを、今こそ根本的に変えていく必要があります。

私たちは今、AIによって引き起こされる「常識崩壊」の真っ只中にいます。この現実から、もはや目を背けることはできません。変化の波を恐れるのではなく、むしろその波を乗りこなし、自らの手で新しい学びの形を創造していく。その挑戦こそが、私たち一人ひとりに与えられた未来への切符なのです

【募集開始】次期・ITソリューション塾・第50期

次期・ITソリューション塾・第50期(2025年10月8日[水]開講)の募集を始めました。

2008年に開講したITソリューション塾は、18年目を迎えました。その間、4000名を超える皆さんがこの塾で学び、学んだことを活かして、いまや第一線で活躍されています。

次期は、50期の節目でもあり、内容を大幅に見直し、皆さんのビジネスやキャリアを見通すための確かな材料を提供したいと思っています。

次のような皆さんには、お役に立つはずです。
・SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
・ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
・デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
・IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
・デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん

詳しくはこちらをご覧下さい。

神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO(やまと)会員の皆さんは、参加費が無料となります。申し込みに際しましては、その旨、通信欄にご記入ください。

期間:2025年10月8日(水)~最終回12月17日(水) 全10回+特別補講
時間:毎週 水曜日18:30~20:30の2時間
方法:オンライン(Zoom)
費用:90,000円(税込み 99,000円)
内容:

  • デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
  • ITの前提となるクラウド・ネイティブ
  • ビジネス基盤となったIoT
  • 既存の常識の書き換え前提を再定義するAI
  • コンピューティングの常識を転換する量子コンピュータ
  • 変化に俊敏に対処するための開発と運用
  • 【特別講師】クラウド/DevOpsの実践
  • 【特別講師】アジャイルの実践とアジャイルワーク
  • 【特別講師】経営のためのセキュリティの基礎と本質
  • 総括・これからのITビジネス戦略
  • 【特別講師】特別補講 (選人中)

*「すぐに参加を確定できないが、参加の意向はある」という方は、まずはメールでご一報ください。事前に参加枠を確保します。決定致しましたらお知らせください。

8月8日!新著・「システムインテグレーション革命」出版!

AI前提の世の中になろうとしている今、SIビジネスもまたAI前提に舵を切らなくてはなりません。しかし、どこに向かって、どのように舵を切ればいいのでしょうか。

本書は、「システムインテグレーション崩壊」、「システムインテグレーション再生の戦略」に続く第三弾としてとして。AIの大波を乗り越えるシナリオを描いています。是非、手に取ってご覧下さい

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神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

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八ヶ岳南麓・山梨県北杜市大泉町、標高1000mの広葉樹の森の中にコワーキングプレイスがオープンしました。WiFiや電源、文房具類など、働くための機材や備品、お茶やコーヒー、お茶菓子などを用意してお待ちしています。

8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。

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