もうすぐ消滅するという人間によるコード生成について:さらなる考察#02
AIが生成するコードには、確率的な「ゆらぎ」があることを心得ておく必要があります。例えば、同じスクリプトで指示を出しても、毎回まったく同じコードを生成するとは限らないということです。このようなAIツールで生成したプログラムコードで、ソフトウェア品質を保証できるかという問題があります。
「ソフトウェア品質」の定義は、単純なものではありません。ここでそれを解説するには少々荷が重いので、詳細は割愛します。ただ、簡単に言えば、次のように言うことができるでしょう。
「ソフトウェアがどれだけユーザーの期待に応え、きちんと動作するかの指標」
料理に例えれば、次のようになります。
- 美味しい料理:ユーザーが求める味、見た目、量などを満たしていること。ソフトウェアで言えば、必要な機能が揃っていて、使いやすく、快適に動作すること。
- まずい料理:味が悪い、見た目が悪い、量が足りないなど、ユーザーを満足させられないこと。ソフトウェアで言えば、バグが多い、使いにくい、動作が遅いなど、ユーザーにストレスを与えること。
ソフトウェア品質が高いと、ユーザーは快適に利用でき、満足度も高くなります。逆に、品質が低いと、ユーザーは不満を感じ、最悪の場合はそのソフトウェアを使わなくなる可能性もあります。
従来、ソフトウェア品質はエラーのない製品を提供することであり、不具合(バグ)をゼロにすることに焦点が置かれていました。しかし、テクノロジーの進歩とめまぐるしく変わるユーザー要求の変化に対応しなければならない時代となりました。そのため、予め用意された要求仕様書に記載された機能を満たせば良いという単純なものではなくなり、ユーザーの要求と期待の変化にも迅速に応えなければなりません。
さらに、優れた製品や顧客満足度だけでは、必ずしもビジネスに成功できるとは限りません。ユーザーニーズを先取りするための機能やサービスを実装することも必要です。そのため、製品は継続的に改善され、単に「不具合(バグ)をゼロにする」だけでなく、ユーザーの期待を上回る体験や機能を提供し続けることができなくてはなりません。
ソフトウェア品質をこのように捉えるならば、「AIで生成したコードが問題なく機能する」ということだけでは、品質が保証されているとは言えません。また、開発標準やセキュリティへの対応を考えると、「AIのゆらぎ」は、AIツールを使う上での重大な課題です。
この点に於いて、人間のエンジニアの役割は、極めて重要です。例えば、ソフトウェア・エンジニアには、つぎのようなことが求められます。
- ビジネスの視点から「いかなる成果を達成すべきか」を明確化:ビジネス・オーナーやユーザーとの対話、現場の観察により、「漠然とは思っているけど言葉にはならない要求」や「ビジネスの成果に貢献するために何をすべきか」を明確にできなくてはなりません。
- 品質が保証されたマイクロサービスの整備とその優先的利用: AIが生成したコードをそのまま使うのではなく、主要な機能はマイクロサービスとして予め用意しておくというやり方です。このような方法を使えば、「極めて優秀なエンジニア」が少人数いれば、彼らが品質を保証されたマイクロサービスを作っておき、AIがこれを優先的に使う仕組みにすることで、誰がやっても品質を担保できる可能性があります。
- プロダクトに対する責任の担保:できあがったソフトウェアプロダクトの責任は、人間にしかできません。つまり、一連のプロセスを、監視、承認、判断することは、これまでと変わらず人間の役割となります。但し、「AIエージェントによって構成された開発チーム」ですから、その仕事は極めて早くなります。そうなれば、イテレーションのサイクルは、人間が行う「週単位」から「日/時間単位」に変わるかもしれません。なんらかの自動化の手段がなければ、対応は難しくなるでしょう。もちろんここでもAIが活躍する余地はありますが、責任を担保するのはあくまで人間であり、そのためのルールや仕組みを作ることは重要になるはずです。
「AIエージェントによる開発チームに開発を任せられる時代」になったとしても、人間の役割がなくなることはありませんが、その内容が大きく変わります。上記のことから妄想を膨らませれば、次のようになります。
- 人間のエンジニアは、システム開発全般についての包括的知識を有した上で、事業や経営についての会話ができ、ビジネスの視点から「いかなる成果を達成すべきか」を言語化できる能力が必要となる。
- 「極めて優秀なエンジニア」が少人数いれば、ITの専門家でなくても品質を担保されたソフトウェアを作ることができるようになる。
- ビジネスの成果に責任を持てるのは、事業会社/ユーザー企業の人間である。従って、ユーザー企業に所属するエンジニアが主導する形で、システム内製が進み、外部のエンジニアは、高度な専門性を活かして、彼らを支援する体制となる。
これからも分かるように、「仕様書を書いて、コードを生成する」ことで成り立っていたSI/ITベンダーの「人月ビジネス」は、AIエージェントの性能向上とクラウドとの一体化、それに後押しされる内製化によって、縮小していくのでは避けられないでしょう。
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