AI駆動開発が加速するSIビジネスの崩壊
今週は、AIと人間の役割分担の「これから」について考えてきました。
この影響を最も受けるのが、システム開発の現場ではないかと考えています。その手段として注目されているのが、AIによる支援を得て、システムを開発する「AI駆動開発」です。
このチャートは、クリエーションラインのCTOである荒井康宏さんが整理されたものです。いまはまだ黎明期とはいえ、多くのサービスが登場しています。また、機能や性能の改善、適用範囲の拡大が急速に進んでおり、システム開発の広範なタスクに於いて、AIの支援を得ることで、生産性の向上もまた短期間のうちに向上していくことは間違えありません。
AI駆動開発については、荒井さんが主宰する「AI駆動開発勉強会」にて、話しを聞かれることをおすすめします。直近では、12月18日(水)に開催予定です。
この「AI駆動開発」がもたらす帰結は、「工数で収益を得るSIビジネスの崩壊」です。システム開発に於いて、「工数=人的労働力」に依存する多くのタスク(作業)が、AIに置き換わることになれば、「工数」は売り物にはなりません。つまり、SIビジネスにおける収益の源泉を失うことになる未来が、待ち受けているわけです。それに代わる収益源を持たなければ、事業の存続はありません。
もちろん、多くのSI事業者やITベンダーは、この現実を想定しており、AI駆動開発への取り組みを始めているようです。しかし、私が知りうる範囲での彼らの取り組みは、「既存のシステム開発の生産性を高める」ことに重点が置かれ、「AI駆動開発のもたらす本質的な変化」に気付いていないような気がします。あるいは、気は付いているけれど、既存との乖離があまりにも大きいので、目をつむっているのかも知れません。
このチャートで言いたいことは、いまの「AI駆動開発」は黎明期ですが、「プロセスの再定義」という、現時点で予想できる最終フェーズに至る過程が、2つのシナリオに分かれるということです(この最終フェーズは、3〜5年程度で到達すると思います)。
ひとつは、「既存の開発プロセスの改善」を目的にAI駆動開発に取り組むというシナリオ、一方は、AI駆動開発を前提にシステム開発のあり方を再定義して「既存の開発プロセスを変革(=新しく作り変える)」するというシナリオです。
多くのSI事業者やITベンダーは、「AI駆動開発」で「既存の開発プロセスの改善」を目指しているように見えます。アジャイル開発やDevOpsに十分に適応できていない企業にとっては、既存の顧客、既存のやり方を前提に改善を図ることで収益の道を探るしかありませんから、当然のことと言えるでしょう。
ただ、元請企業の立場で考えれば、これまで下請け企業に任せていた仕事をAIに置き換えるだけですから、短期的には外注費は削減され、納期短縮と利益の拡大に貢献できると考えられます。
一方、そんな元請からの工数仕事に収益の多くを依存している企業は、仕事量の減少を想定しなくてはなりません。これは、1〜3年のうちに進行するかと考えられます。このような状況で仕事量を維持するには、特定のドメイン(事業領域や技術領域など)で必要とされるノウハウやスキルを有していることが必須要件となるでしょう。もし、元請から渡された仕様からコードを生成する「知的力仕事」が大半であれば、致命的事態になることを覚悟しておく必要があります。
一方、「既存の開発プロセスを変革」することに取り組む企業は、AI駆動開発の効果を最大限に引き出し、成果をあげられるはずです。但し、クラウド、アジャイル開発、DevOps、コンテナ、マイクロサービスなどの「モダン開発」を当たり前にできる企業であることが前提です。
このような企業はシステム開発を生業にしている企業だけではなく、ユーザー企業の内製化チームも含まれます。つまり、「モダン開発」を前提にシステムを開発するユーザー企業は、その範囲と規模を拡大することができると言うことです。つまり、「ユーザー企業の内製化を加速させる」ことにもなります。
先に述べた「AI駆動開発のもたらす本質的な変化」とは、「モダン開発」への移行を加速するということです。それに対応できる企業(SI事業者もユーザー企業も)のみが、AI駆動開発の恩恵を最大限に享受できることになるでしょう。
この想定が正しいとすれば、「既存の開発プロセスの改善」を目的にAI駆動開発に取り組んだ企業は、「モダン開発」を前提とした「既存の開発プロセスを変革」することへと舵を切り直さなくてはならず、数年間の遅れで最終ステージの入口に立つことになります。変化の速い世の中にあっては、これは致命的な格差となるでしょう。
いまはまだ、DXの必要性が叫ばれる中、DX以前のデジタル化に着手し始めたユーザー企業や、内製化の拡大をすすめつつも容易には人材の確保や体制が整えられないユーザー企業からの需要で、工数ビジネスは、収益を維持できています。しかし、これは短期的な特需であって、長期継続的なものではありません。
SI事業者やITベンダーは、既存のやり方で収益が維持できるうちに、この先にやってくるAI駆動開発の激震に耐えうるビジネス・モデルへと転換を図る必要があります。では、どうすればいいのでしょうか。これについては、明日考えようと思います。
6月22日・販売開始!【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。