「知っている」と「理解している」に人の生き様が見えてくる
講義や講演のご依頼を頂き、ならばと「こういうことを話させて頂くのはどうでしょうか?」と、提案をさせて頂くと、「もう、そのことは知っていることなので、他の話しでお願いします。」とご返答頂くことがあります。
「本当ですか?」と内心は思うのですが、まあ、相手にもプライドがありますから、「なるほど」とまずは一旦受け止めて、さてどうすればいいのやらと悩むこともしばしばです。
先日もある企業からのご依頼で、「DXについて講演して欲しい」とのご依頼をいただきました。ならば、ということで、次のように回答しました。
「DXとは何かを歴史的背景を踏まえて、その本質について丁寧に話をした方が良さそうですね。DXの本質が分かれば、なぜ取り組む必要があるかも納得できますし、現場のモチベーションも上がるのではないでしょうか。DXの本質と実践の勘所といったところでしょうか。」
すると研修のご担当者は、次のようなことを話されました。
「DXとは何かについては"知っています"から、"DXをすれば"どれだけ"業務が効率化する"かといったことを、"事例"を交えて話してください。実践の話し中心でお願いします。」とご回答を頂きました。
ここから読み取れることは次のようなことです。
- DXとデジタル化の区別がついていない。
- DXの目的は業務効率化と考えている。
- 他社事例があれば話しがつまらなくても間を持たせられる。
年間100回程度の講義や講演をしていると、似たようなパターンに何度も遭遇します。そして、「そのことについては知っています」というように断言される方は、「言葉は知っているけど、理解できていない」場合が多いように感じます。
「知っている」とは、知識として記憶にあると言うことです。つまり、「点としての知識」です。辞書の解説のように「これは何かを」を説明できる程度の知識ということです。一方、「理解する」とは、その知識が、他の多くの知識と関連付けられ、お互いに影響を及ぼしている、その全体を捉えていると言うことです。つまり、「場としての知識」です。場を拡げ、多様な視点で1つの知識を捉えようとすることを「理解を深める」と言います。
例えば、辞書には、「DX」についての1行の解説が書かれています。しかし、「DX」についての様々な書籍や多様な解釈が存在していることは、ご存知の通りですが、そういう拡がりの中に「DX」があるわけです。このように「DXを場の要素」として捉えている方は、けっして「DXは知っています」とは断言されません。それは、当然のことで、そんなことは、できることではないという自覚があるからです。知識というのは、そう簡単に捉えられることではないという謙虚さがあると言うべきかも知れません。
話しは戻りますが、件の「DXは知っている」方に次のように話をさせて頂きました。
「DXについては、ご存知とのことですので、その点は承知いたしました。ならば、もう少し基本的な話しをしてはどうでしょう。ITとデジタルの違い、デジタルとデジタル化とは何か、なぜデジタル化に取り組むことが必要なのか、DXとデジタル化の違いとは何か、なぜいまデジタル化ではなくてDXに取り組まなくてはならないのか、御社がいま取り組まれている"DX"の実践を成功されるためにどのようなことをすればいいのか、そんな話です。」
まあ、結局のところ、冒頭の「DXの本質と実践の勘所」という話しなのですが、このように具体的に「DXという言葉が多様な言葉と関連付けて捉える必要がある=場としての知識」を説明させて頂くと、多くの場合はご納得頂けます。
それでも自分の"知っている"を固持される方はいらっしゃいます。こうなると、私もなぜそこまで頑ななのかについて俄然興味が湧いてきますし、そもそも、こちらが一方的に自分の価値観や理解を押しつけているだけかも知れませんから、そこは丁寧に伺うようにしています。それでも折り合いが付かなければ、辞退させて頂くこともあります。
知識が浅く理解できていないときに「知っている」という言葉を使いがちです。その多くはプライドのような気がします。「いまさら知らないなんてかっこ悪い」や「まわりに"知っている"という話しているので、示しがつかなくなる」といったところでしょうか。ただ、こういうプライドが、理解を深める妨げになることは言うまでもありません。
自分の知識に謙虚ではなくてはならないと思います。たぶんそういう生き様が、知識を増やし、広い世界があることを教えてくれるのだと思います。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第47期(2024年10月9日 開講)
次期・ITソリューション塾・第47期(2024年10月9日[水]開講)の募集を始めました。
次のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
ITソリューション塾について:
いま、「生成AI」と「クラウド」が、ITとの係わり方を大きく変えつつあります。
「生成AI」について言えば、プログラム・コードの生成や仕様の作成、ドキュメンテーションといった領域で著しい生産性の向上が実現しています。昨今は、Devinなどのような「システム開発を専門とするAIエージェント」が、人間のエンジニアに代わって仕事をするようになりました。もはや「プログラマー支援ツール」の域を超えています。
「クラウド」については、そのサービスの範囲の拡大と機能の充実、APIの実装が進んでいます。要件に合わせプログラム・コードを書くことから、クラウド・サービスを目利きして、これらをうまく組み合わせてサービスを実現することへと需要の重心は移りつつあります。
このように「生成AI」や「クラウド」の普及と充実は、ユーザーの外注依存を減らし、内製化の範囲を拡大するでしょう。つまり、「生成AI」や「クラウド」が工数需要を呑み込むという構図が、確実に、そして急速に進むことになります。
ITベンダー/SI事業者の皆さんにとっては、これまでのビジネスの前提が失われてしまい、既存の延長線上で事業を継続することを難しくします。また、ユーザー企業の皆さんにとっては、ITを武器にして事業変革を加速させるチャンスが到来したとも言えます。
ITに関わる仕事をしている人たちは、この変化の背景にあるテクノロジーを正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様への提案に、活かす方法を見つけなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えするとともに、ビジネスとの関係やこれからの戦略を解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
詳しくはこちらをご覧下さい。
※神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO(やまと)会員の皆さんは、参加費が無料となります。申し込みに際しましては、その旨、通信欄にご記入ください。
- 期間:2024年10月9日(水)〜最終回12月18日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日*原則*) 18:30〜20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み 99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- IT利用のあり方を変えるクラウド・コンピューティング
- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
- 特別補講 *講師選任中*
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。
6月22日・販売開始!【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
これからは、「ITリテラシーが必要だ!」と言われても、どうやって身につければいいのでしょうか。
「DXに取り組め!」と言われても、これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに、何が違うのかわからなければ、取り組みようがありません。
「生成AIで業務の効率化を進めよう!」と言われても、"生成AI"で何ですか、なにができるのかもよく分かりません。
こんな自分の憂いを何とかしなければと、焦っている方も多いはずです。