ITとデジタルは対立しているのか?
昨日のブログで説明の通り、「デジタル」とは、「離散量」、というのが本来の意味です。しかし、世間では、これとは違った解釈で使われることがあります。
図にある「IT」とは、コンピューターやネットワークを実現し、操作する技術」であるという説明は、昨日述べた「IT」の解釈と変わりません。例えば、大量データを高速に計算できる「プロセッサー」、大容量で高速に通信できる「5G(次世代移動通信システム)」、高精度に画像を区別、識別できる計算手法「深層学習(ディープラーニング)」などです。これまでできなかったことや、人手に頼って時間や手間をかけていたことを、低コストで実現する「技術」です。
これに対して、本来の意味とは違い「デジタル」を「ITを使って既存の常識を変革し、新たな価値を生みだすこと」とする解釈があります。新たな価値とは例えば、スマートフォンのアプリやGPSなどを駆使した「カーシェアリング・サービス」、どこからでも会議に参加できる「オンライン会議システム」、5G使って高精細な画像を送り、医者のいない地域でも医療サービスを提供できる「遠隔医療サービス」などです。これは、「技術」としてのITを使って、社会やビジネスを変革し、新たな価値を生みだすことを意味します。
「IT」に関わるには、技術そのものに着目し、その機能や性能を高め、これを極めるマインドセットや知識、スキルなどの「技術力」が必要です。
「デジタル」に関わるには、ITを前提に、社会やビジネスの仕組みを考え、人や組織を巻き込み、新しいやり方や仕組みを実現しようとする意志を持ち、人や組織を動かす「人間力」が必要です。
この両者を区別している例として、「IT部門」や「情報システム部」という組織や「CIO(Chef Information Officer)」という役職が既にあるにもかかわらず、それとは別に、「デジタル戦略部」や「DX推進室」といった「デジタル」を冠した組織や「CDO(Chef Digital Officer)」という役職を設ける企業があります。
「IT」と「デジタル」は、不可分な関係にはありますが、それぞれに目指しているところが違います。両者を異なる組織に委ねるのか、あるいは、ひとつの組織に統合するかは、組織戦略次第ですが、テクノロジーの進化を積極的に活かし、事業価値に転換するには、両者の密な連携が不可避です。
ここで述べた意味で、「IT」と「デジタル」を捉えるのであれば、「デジタル」を実現する手段として「IT」を活用するとすべきでしょう。ならば、上述の「デジタルを冠に据えた組織」、すなわち、「デジタル戦略部」や「DX推進室」、さらには「CDO」は、ITについても十分な知見を持っていなければなりません。理想を言えば、彼らは、「IT部門」や「CIO」と1つの機能集団として存在すべきだと言えます。
しかし、現実には、「IT部門」や「情報システム部」は、「業務を分かっておらず、事業変革の担い手にはなり得ない」ので、彼らとは別に、デジタルを活かした変革の担い手とするべく「デジタル戦略部」や「DX推進室」を設立するという企業もあるように見受けられます。
IT部門には、インフラやセキュリティを任せ、業務や戦略にかかわるところは「DX推進組織」に任せようという関係で、両者を並列して捉えている訳です。
デジタルを冠にする組織は、そんなITに関する知識やスキルの欠如を社外から中途採用する人材で補填しようとするわけですが、技術のことは分かっていても、企業の文化風土というのは、容易には理解できず、カタチばかりの成果はあげることができても、企業全体の変革に至る成果はなかなかあげられないという現実に直面している企業もあるようです。
何が正解かは、企業それぞれの文化に関わることであり、絶対の正解はありません。ただ、このような並列、あるいは対立の構図を持ち続けていては、「デジタル」を新たな競争力の源泉に育てることは難しいと思います。
積極的に外部の血を入れることや、血を入れ替えることは、組織の新陳代謝を促し、新たな価値観で組織を変革するためには、必要なことだと思います。しかし、全体としてうまく機能しないのは、2つの組織や新しい血を同じ方向に向かせるための「パーパス」が存在しないからではないでしょうか。
この点に於いては、経営者が責任を担うべきです。デジタルが前提の社会になり、企業が存続し成長するためには、どのような「あるべき姿」を目指すのかを言語化し、誰もが血肉になるように議論することなくして、いくらカタチを整えても、成果に結びつきません。その意味で経営者もまた、ITの常識程度は、身につけ、「デジタル前提の社会にふさわしい自社のパーパス」を明確にしておくべきであると思います。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第47期(2024年10月9日 開講)
次期・ITソリューション塾・第47期(2024年10月9日[水]開講)の募集を始めました。
次のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
ITソリューション塾について:
いま、「生成AI」と「クラウド」が、ITとの係わり方を大きく変えつつあります。
「生成AI」について言えば、プログラム・コードの生成や仕様の作成、ドキュメンテーションといった領域で著しい生産性の向上が実現しています。昨今は、Devinなどのような「システム開発を専門とするAIエージェント」が、人間のエンジニアに代わって仕事をするようになりました。もはや「プログラマー支援ツール」の域を超えています。
「クラウド」については、そのサービスの範囲の拡大と機能の充実、APIの実装が進んでいます。要件に合わせプログラム・コードを書くことから、クラウド・サービスを目利きして、これらをうまく組み合わせてサービスを実現することへと需要の重心は移りつつあります。
このように「生成AI」や「クラウド」の普及と充実は、ユーザーの外注依存を減らし、内製化の範囲を拡大するでしょう。つまり、「生成AI」や「クラウド」が工数需要を呑み込むという構図が、確実に、そして急速に進むことになります。
ITベンダー/SI事業者の皆さんにとっては、これまでのビジネスの前提が失われてしまい、既存の延長線上で事業を継続することを難しくします。また、ユーザー企業の皆さんにとっては、ITを武器にして事業変革を加速させるチャンスが到来したとも言えます。
ITに関わる仕事をしている人たちは、この変化の背景にあるテクノロジーを正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様への提案に、活かす方法を見つけなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えするとともに、ビジネスとの関係やこれからの戦略を解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
詳しくはこちらをご覧下さい。
※神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO(やまと)会員の皆さんは、参加費が無料となります。申し込みに際しましては、その旨、通信欄にご記入ください。
- 期間:2024年10月9日(水)〜最終回12月18日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日*原則*) 18:30〜20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み 99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- IT利用のあり方を変えるクラウド・コンピューティング
- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
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神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。
6月22日・販売開始!【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
これからは、「ITリテラシーが必要だ!」と言われても、どうやって身につければいいのでしょうか。
「DXに取り組め!」と言われても、これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに、何が違うのかわからなければ、取り組みようがありません。
「生成AIで業務の効率化を進めよう!」と言われても、"生成AI"で何ですか、なにができるのかもよく分かりません。
こんな自分の憂いを何とかしなければと、焦っている方も多いはずです。