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「新しいことはわからなくて」ですまされる時代ではありません

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「グーグルの経済学者ハル・バリアンの計算によると、ここ数十年と言うもの世界全体の情報は、毎年66パーセントの割合で増えている。この爆発的な数字を最も一般的な素材、たとえばコンクリートや紙のここ数十年の増加率である毎年平均7パーセントという数字と比べてみればいい。この星のどんな他の製品と比べても10倍速い成長率は、どんな生物的な成長よりも大きなものだ。(『テクニウムp.384)」

テクノロジーは生物界と同様に、自らが自律的に進化すると説く本書は、テクノロジーの業界に身を置く私にとっても実感として受け止めています。

私は、ITと言う言葉がなくコンピューターが全てだったころからこの業界に身を置き、40年が経ちました。その間のテクノロジーの変遷は、日常の一部でした。

28年前の1995年、私がIBMを卒業したころこの業界は、ダウンサイジングとクライアントサーバーという大きなパラダイムシフトに直面していました。また、Windows95の登場の年でもあり、インターネットという言葉が、とても新鮮な響きを放っていました。「○×株式会社がホームページを作りました。」という記事が、日経新聞に掲載される時代でもありました。

私がIBMで営業として働いていた頃は、IBMのメインフレームが業界を牽引し、その周辺に新しいテクノロジーが登場するといった時代でしたから、それを追いかけてさえいれば、テクノロジーの大枠を抑えることができました。

しかし、時代は大きく変わりました。新しい言葉が次々と登場し、それらが複雑に影響を及ぼし、折り重なりながらトレンドを作り上げています。かつてのような「メインフレームからミニコンやオフコン、PCへのダウンサイジング」、あるいは、「集中処理から分散処理やクライアントサーバーへの処理形態の変化」といった、単純さはありません。この多様さと複雑さこそが、いまのITトレンドの本質であり、ITビジネスの未来を考えることを難しくしています。

だからといって、この現実に向き合うことを諦めてしまっては、この業界で仕事はできません。ならば、複雑に絡み合う最新の常識をわかりやすく解きほぐし、自分たちのビジネスにつなげる筋道を示そうと始めたのが、ITソリューション塾でした。

2008年から、IT企業やユーザー企業の情報システム部門の皆さんを対象に行っているこの研修は、毎週水曜日の夜、3ヶ月で1期という単位で開催しています。

ITに関わる仕事をしているにもかかわらずITを体系的に理解できていない」

「自社製品のことは分かっているがITの世の中の動きについては分からない」

「自社の扱う製品の機能や性能なら説明はできるが、お客様の価値は語れない」

そういう皆さんのお悩みを解消することには、お役に立っているようです。

ただ、座学で学んだだけでは、知識が定着することはありません。自らの言葉で他人に説明して、はじめて知識は自分のものになります。そこで、講義に使った図表を全てパワーポイントのロイヤリティ・フリーのソフトコピーで受講者に提供しています。受講者がこの図表を、お客様への提案や研修、社内での勉強会などで使うことで、「使える知識」を磨いて欲しいと考えているからです。

そんなことを15年もやってきました。既に、5000名を超える卒業生を輩出しています。現在、ITソリューション塾は、第44期を迎え、毎週100名ほどの皆さんが受講されています。かつては会社の経費で参加する人がほとんどでしたが、いまではおよそ1/3が自費でのご参加になりました。

そういう時代なのだと思います。もはや会社が与えてくれるものだけに頼っていては、この業界では生き残れないという意識が拡がってきたのでしょう。答えは、自分で探し、試行錯誤を繰り返して、知識を磨くしかありません。

こういうことは、若い世代にしっかりと教えなければいけないことだと思っています。彼らが、未来を作り、将来を支えてゆくからです。しかし、残念なことですが、それを怠っている企業もあるようです。

例えば、新入社員研修で、「情報処理の基礎」は教えても、「最新のトレンド」を教える企業は、限られています。確かに基礎は大切です。しかし、これほどAIが大騒ぎになっているのに、AIをまともに教えることなく、仮に教えても、一昔、あるいは、二昔前の知識に留まっていることも多いように思います。ChatGPTなどの生成AIを支える基盤モデルも、伝えなくてはなりません。ブロックチェーンやWeb3、メタバースや量子コンピューターはどうでしょう。そんないまの常識を何も教えることなく、現場に送り出してはいないでしょうか。

以前、ある新入社員から、次のような本音を聞かされたことがあります。

「お客様のところへ行くのが怖いです。何言っているかさっぱり分からなくて。」

決して、彼に意欲がないわけではありません。意欲はあるけど、言葉が理解できないことへの不安が、ストレスになっているようでした。

かつて、ITの一昔とは1年前、二昔とは3年前のことでしたが、コロナ禍がこのスピードを加速しました。昨今の生成AIに関わる喧騒を想えば、一昔は、もはや数ヶ月、二昔は1年に、短縮されたように感じます。

そんな加速度こそが、この業界の特性です。ならば、新人にもそれを教えなくてはなりません。そして、その根底にあるITの本質と大きな可能性を彼らに伝えなくてはなりません。

自分たちが、これから関わる仕事の本質を知り、そこで働くことの意義や可能性を理解させ、ワクワクさせられなければなりません。IT企業の新入社員研修で、この点は、絶対に手を抜くべきではないのです。

ここ1年ほどで、世界は大きく変わってしまいました。ChatGPTの登場です。このサービスを支える技術は、突然生まれたわけではありません。しかし、1年前は、専門家にしか使えない道具でしたが、それが、誰もが簡単に使えるカタチでサービス化されたことが、世の中を変えてしまいました。それが、瞬く間に広がり、いろいろな人たちが様々な使い方を生み出し、専門家の道具から、誰もが使える道具へと一気に進化し、普及しました。スマートフォンの登場が、私たちの日常を後戻りできないカタチに変えてしまったように、生成AIもまた、後戻りできない変化をもたらすでしょう。

ITに関わる仕事をしているのなら、この変化の背景に何があるのか、これからどうなるかについての自分なりの言葉を持つべきです。

SI事業者の経営者や管理者が、「新しいことはわからなくて」と真顔でおっしゃることがあります。もちろん謙遜のつもりだと思いますが、社員や部下に危機感がないと嘆いておきながら、自分がこれでは、仕方がないかも知れません。

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GitHub CopilotXやPower Apps Copilotのデモを一度でもご覧になれば、もはやそんな悠長なことを言ってはいられなくなります。プログラム・コーディングの生産性は劇的に向上し、近い将来、プログラムの仕様やイシューを入力すれば、バグフリーの完璧なコードを生成してくれるのも時間の問題でしょう。そうなったとき、工数を生業にしているSIビジネスは成り立たなくなります。そういう現実がまもなく訪れようとしているのに、「新しいことはわからなくて」と言っているようでは、相当にまずいのではないでしょうか。

先ほども述べたように、「圧倒的な加速度」こそが、ITの本質です。この業界で生き残り続けるには、この本質に向きあわなければなりません。生成AIの登場は、そんな変化を加速するきっかけになることは間違えありません。

AIに限った話しでありません。この変化の速さこそが、ITのトレンドの本質です。ならば、この速さに対処できる力を持てば、それは、この業界で生き残るための力の源泉になります。そのために何が必要なのか、そんなことを今週は考えてみようかと思います。

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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー

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八ヶ岳南麓・山梨県北杜市大泉町、標高1000mの広葉樹の森の中にコワーキングプレイスがオープンしました。WiFiや電源、文房具類など、働くための機材や備品、お茶やコーヒー、お茶菓子などを用意してお待ちしています。

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