ITのトレンドを考える(3):DXの歴史的系譜
DX/デジタル・トランスフォーメーションには、2つの大きな系譜があります。ひとつは、「社会現象としてのDX」であり、もうひとつは、「ビジネス変革としてのDX」です。
まずは、「社会現象としてのDX」について説明しておきましょう。DXという言葉は、もともとは、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授らが提唱した以下の定義に端を発します。
「デジタル技術(IT)の浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」
この定義が書かれた論文では、「デジタル技術の発達は、大衆の生活を改善する」とし、研究者は、その変化を正しく分析・議論できるようアプローチの方法を編み出す必要があると述べています。
また、ビジネスとITについても言及し、企業がITを使って、「事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」、次に「技術と現実が徐々に融合して結びついていく変化が起こる」、そして「人々の生活をよりよい方向に変化させる」という段階があるとも述べています。
このことからも明らかな通り、ストルターマンのDXは、デジタルがもたらす「社会的な変化のトレンド」を示すもので、学問的な用語として提唱されました。
もうひとつは、「ビジネス変革としてのDX」です。2010年代にもなると、ビジネスに、さまざまなデジタル機器やソーシャルメディアなどが入り込むようになりました。この頃、ガートナーやIDC、IMD教授であるマイケル・ウエィドらは、このような変化を次のように説明しています。
「デジタル・テクノロジーの進展により産業構造や競争原理が変化している。これに適応できなければ、事業継続や企業存続が難しくなる。このような状況に対処するために、ビジネス・モデルや業務の手順、顧客との関係や働き方、企業の文化や風土を変革する必要がある。」
ガートナーは、これを「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」と呼ぶことを提唱しました。これは、ストルターマンらの解釈とは違い、経営や事業の視点でデジタルを捉えたものです。
これは、デジタル・テクノロジーに主体的かつ積極的に取り組むことの必要性を訴えるもので、これに対処できない事業の継続は難しいとの警鈴を含んでいます。つまり、デジタル技術の進展を前提に、競争環境 、ビジネス・モデル、組織や体制を再定義し、企業の文化や体質をも変革する必要があると促しているわけです。
この「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」については、マイケル・ウェイドらが、その著書『DX実行戦略/デジタルで稼ぐ組織を作る(日経新聞出版社)/2019年8月』で、次のような解釈を述べています。
「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善すること」
この著書の中で、彼らはさらに次のようにも述べています。
「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーションにはテクノロジーよりもはるかに多くのものが関与している。」
どんなに優れた、あるいは、最先端のテクノロジーを駆使したとしても、人間の思考プロセスやリテラシー、組織の振る舞いを、デジタル技術を使いこなすにふさわしいカタチに変革しなければ、「業績を改善すること」はできないということです。
2018年に経済産業省が発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」には、「DX/デジタル・トランスフォーメーション」について、次の定義を掲載しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
この定義は、IDCの定義であり、ガートナーやマイケル・ウエイドらの提唱する「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」の解釈に沿うものです。これを「DX/デジタル・トランスフォーメーション」と呼んでいます。言葉としては、ストルターマンらと同じですが、その解釈は同じではありません。
私たちが、普段ビジネスの現場で使っている「DX/デジタル・トランスフォーメーション」とは、この「デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション」を短縮した表現です。
改めていま私たちが使っているDXを解釈すれば、次のようになるでしょう。
「デジタルが前提の社会に適応するためにビジネスを変革すること」
決して、デジタルを使うことが目的ではありません。ところで「デジタル前提」とは、何かですが、これには、「社会」と「事業」という、2つの視点があります。
社会の視点
誰もが、当たり前にスマートフォンを使いこなす。買い物、ホテルや交通機関の予約は、ネットを使う。駅を降りれば地図サービスで自分の居場所と行き先を確認し、到着時刻をLINEで相手に知らせる。まさに社会は、"デジタル前提"に動いている。そんな社会の常識に対応できなくては、事業の存続も成長も難しい。
事業の視点
上記の"デジタル前提"の社会に対処するには、自らの事業もデジタルを駆使し、社会の常識に対応できなくてはならない。そうしなければ、顧客は離れ、収益の機会を狭めてしまう。積極的に、デジタルを前提に新しいビジネス・モデルを作り出さなければ、事業の存続も成長も難しい。
「デジタルが前提の社会に適応するために、手段としてのデジタルを駆使して会社を作り変えること」
こんな表現をすることもできるでしょう。「会社を作り変える」とは、ビジネス・モデルや業務プロセス、そこで働く人たちの思考や行動様式、つまり企業の文化や風土まで含めて再定義することを意味しています。
広く世の中を見渡せば、次のような解釈もあります。
「デジタル技術を駆使して、ビジネス・モデルや業務プロセスを変革し、業績を改善すること」
ただ、ビジネス・モデルや業務プロセスの変革は、その前提として、企業の文化や風土の変革が伴わなければ、成果をあげることはできません。この点を置き去りにして、カタチだけの「デジタルを使うこと」にならないように注意する必要があります。
このようなことからも分かるように、DXは「デジタルを使うこと」、言い換えれば、事業を行うための手段やその使い方、すなわち「戦術」をデジタル技術で変革することではありません。デジタル技術の進化や社会への普及に適応して、事業や経営のあり方を再定義すること、すなわち「戦略」を変革することです。この「戦略の変革」こそが、DXの本質と言えます。
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ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
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