「新しいこと」を価値に変える3つの原則
「最新の情報を手に入れるには、どのサイトを見ればいいのでしょうか?」
新入社員研修で最新ITトレンドを教えているときなどに、必ず出てくる質問です。私は次のように答えています。
「何を知りたいのかによって、その答えが変わります。何を知りたいのでしょうか、何を解決したいのでしょうか。まずは、それをはっきりさせることです。そんなあなたの疑問から生まれた問いを検索すれば、あなたの知りたい最新情報が手に入ると思います。」
ただ、もっと根本的な問題として、最新に価値があるのかを見極められなければ、例え最新であっても何の役にも立ちません。そのために日頃から心がけておくことが、3つあります。
- 最新ではない基礎や基本、原理原則やいまの常識を身につけておく
- 広範な視野で物事を捉える習慣を養っておく
- 話す、書く、絵にするなどのアウトプットのスキルを磨いておく
1.最新ではない基礎や基本、原理原則といまの常識を身につけておく
新しいかどうかに関わりなく、情報は巷にあふれ、日々湧き起こるように生まれつづけています。そういう時代に心がけるべきは、基礎や基本、原理原則に常に立ち返り、磨きをかけておくことです。
例えば、最先端のスマートフォンやウェアラブルも、その原点を紐解けば、1945年のジョン・フォン・ノイマンの論文「EDVACに関する報告書の第一草稿」で示された、コンピュータの5大装置によって構成されたプログラム内蔵方式に行き着きます。また、アプリケーション、OS、ハードウェアといったアーキテクチャーは、1964年のIBM System360がその原点と言えるでしょう。
このようなことが分かっているからこそ、最先端デバイスで示されている機能や性能がどれほどのものなのか、何が画期的なのかといったことを理解できるわけです。
また、いまや流行りとなった「ゼロトラスト」もインターネットやネットワークについての基本が分かっていなければ理解はできません。またいまの常識、例えば、VPNやファイヤーウォールが、原理的にセキュリティ上の重大な脆弱性を持っているからこそ注目されているわけで、このようなことを知らないままに最新を知っても価値を見出すことはできません。
最新も大切ですが、「基礎や基本、原理原則といまの常識」に常に立ち返って学んで行く態度こそ、最新を知ることのモチベーションを生み出し、最新を使える知識にしてくれます。
2.広範な視野で物事を捉える習慣を養っておく
ものごとの意味や価値は「場」によってきまります。簡単に言えば、単独ではその役割や価値を理解できないと言うことです。例えば、AIがいま話題になっていますが、園はいて計には、インターネットの存在やCPUの性能向上、脳科学や数学の研究成果、半導体の製造技術など、広範なものごとと深く関わっています。それらをひとつひとつきめ細かく理解はできなくても、大きな関係や構造、歴史から捉えられなければ、最新であることがどのような意味や価値をもたらすかを知ることはできません。
拙速に役に立つかどうかの知識を求めるのではなく、いろいろなものごとをつなぎ合わせることができる知識の海や森を、日頃から拡げておくことが大切です。
3.話す、書く、絵にするなどのアウトプットのスキルを磨いておく
「分かったつもり」は最悪です。中には、分かっていると信じて疑わない頑なな人もいます。まあ、そうやってどこかで折り合いを付けておいた方が、心の平安が保てるわけで、精神衛生的には、意味のあることでしょう。しかし、大概は中途半端な理解に留まり、時には誤ったことを、自信を持って語る人がいます。まるで、サイコパスかChatGPTのようです(笑)。
新入社員研修で、次のような質問をすることがあります。
「クラウドを知っている人は、手を挙げてください。」
ほぼ全員が手を挙げます。そして、次の質問をします。
「説明できる人は手を挙げてください。」
ほとんどいません、いや、ほぼ皆無です。そこで、誰かを名指しして説明を求めると、ボロボロです。中には、間違っていることを自信たっぷりに語る人もいるのですが、こちらから質問を重ねると、直ぐに答えに窮してしまいます。
このような問いかけで、「知っている」と「説明できる」に大きなギャップがあることに気付いてもらおうというわけです。
ビジネスの現場で知識を活かすには「知っている」だけでは不十分です。「説明できる」ことで、初めて用をたします。さらに、説明によって、相手に行動変容を促せてこそ「使える」知識になるわけです。
そのためには、手に入れた知識をアウトプットし、自分にあるいは他人に晒して、客観的な評価をもらい、それを参考にして改善を繰り返すことが欠かせません。これは新しいことに限った話しではありませんが、情報に価値を与える大切なプロセスです。
昨日に述べたように「新しいこと」は習慣の果実です。このようなことは、長い人生の時間をかけて体得し、磨き上げてゆく終わりのない日常です。どこかのサイトを見れば、使える最新知識が手に入るなんて、甘いものではないのです。
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斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
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- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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