研修で人材を育成したいのか、エンターテインメントをしたいのか
どのような仕事でも、結果が求められます。どんなに頑張って準備をしても、結果が伴わなければ、評価は得られません。固定給が保証されているサラリーマンであれば、結果が満足いくものでなくても、「これを励みに、次に挑戦しよう!」とうこともできるでしょう。しかし、私のような個人事業主にとっては、結果が出せなければ、次の仕事はなく、生活の術を失います。
研修もまた同じで、結果が出なければ、次の仕事はありません。だから、昨日のブログでも述べたように、主催者が、どのような結果を期待するのかを確認しようと、「目的」や「あるべき姿」を問い、「このような結果を出す」ことを約束して、準備し、講義を行うのです。
研修担当にこのような問いかけをしても、曖昧な答えしか返ってこないこともあります。しかし、主旨を話し、議論を重ねることで、「目的」や「あるべき姿」をあきらかにして、合意できることも多く、ならばお任せ頂きたいとなるわけです。このような研修は、概ね高い評価をいただき、次のご依頼につながることも少なくありません。
しかし、どうしても、それができない研修担当の方もいます。例えば、次のような展開です。
「DX研修をお願いしたと考えています。内容には、ChatGPTとRPAの話題も入れてください。使っているのは、UiPathなのでそれでお願いします。」
「ところで、何の目的で、この研修を実施されようとしているのですか?」
「会社の方針として、DXが出ているので、私たち(人材開発部門)何やらなくてはならないので、相談しました。」
「他には、どのような研修を考えられていますか?」
「ChatGPTとUiPathの使い方の研修をやる予定です。それから、Udemyも使えるようにする予定です。」
「Udemyも使えるのでしたら、DXを話題にした講座もありますし、このような研修をしなくても良くありませんか?」
「うちの社員は、ITについては、本当にダメなんです。遅れているし、興味もありません。だから、きっかけとなる強制参加の研修を入れておきたいと考え、お願いしました。あっ、そうそう、実例も沢山入れてください。その方が、分かりやすいし、受講者を飽きさせないと思いますから。」
「ところで、DXが方針とのことですが、何をすることが、DXなのでしょうか。受講者にどのような意識や行動の変容を期待していますか。研修は、そのためのツールですから、そのあたりを教えてもらえないでしょうか。」
「私は研修担当なので、そこまでのことはよく分かりません。そこも含めて、お任せします。あっそうそう、Office365も使い始めているので、そのことにも触れてください。」
ある目的を達成するために、必要な知識やスキルを身につけた人材を育成する手段のひとつが「研修」です。しかし、目的もなく、当然、必要な知識やスキルの定義もなく、「研修」というカタチを作ることが目的となってしまっては、どのような研修にすればいいのか、見当がつきません。キーワードは、いろいろと出てきますが、いかなる目的を達成するために、これらをどのように使う場いいのか想像がつきません。もちろん、こちらも素人ではありませんから、このご要望を受けて、受講者を惹き付け、飽きさせず、いい勉強になったと言わせる自信はあります。しかし、それは単なるエンターテインメントです。なんとも切ない話しです。
もちろん、きっかけ作りとしてのエンターテインメントは、十分に価値があります。これをきっかけとして、新たな動きが生まれるかも知れません。ただ、これは、ほとんどの場合、見果てぬ夢に終わります。
エンターテインメントが、きっかけとしての役割を果たすためには、研修だけではない、その先の会社全体の動線、あるいはその他の施策とのつながったシナリオを考えておく必要があるでしょう。もちろん、「DX研修をやりました」という実績を残すだけなら、そんなことを考える必要はありません。
研修の担当者として、研修を行うことが自分の仕事だと割り切り、これで満足できるのであれば、外部の人間が「あるべき論」を語っても、余計なお世話でしかありません。
こちらは、研修を生業としているわけで、その結果については、こだわりたいし、失敗は許されないとの覚悟を持っています。
一方、研修担当の中には、そこまで難しく考えていない方もいらっしゃいます。そこにこちらの価値観を押しつけるわけにもいきませんから、私なりの研修観をお伝えし、対話の糸口を見つけるように努力をしています。しかし、これが見いだせないこともあり、そういう時は、ご相談頂いたことへの感謝とともに、ご辞退申し上げるしかありません。
かつては、仕事になるのならと、何でもお引き受けしていたこともあります。しかし。結局のところ、相手に満足を与えられず、こちらも残念な気持ちが残りました。そんな苦い経験があるからこそ、いまはこのような割り切りができるようになりました。
研修で人材を育成したいのか、エンターテインメントをしたいのかをはっきりさせる必要があります。
人材育成のためならば、何をさせるためにどのようなスキルや知識を与える必要があるだろうと考えなくてはいけません。エンターテインメントであれば、その先の動線を描く必要があります。どちらもない研修は、会社にとっても、受講者にとっても、成果に結びつかない無駄な時間に終わってしまうことを覚悟しておくべきでしょう。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第44期
次期・ITソリューション塾・第44期(2023年10月4日[水]開講)の募集を始めました。
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場により、1年も経たずにで、IT界隈の常識が一気に塗り替えられました。インターネットやスマートフォンの登場により、私たちの日常が大きく変わってしまったことに匹敵する、大きな変化の波が押し寄せています。ブロックチェーンやWeb3、メタバースといったテクノロジーと相まって、いま社会は大きな転換点を迎えています。
ITに関わる仕事をしているならば、このような変化の本質を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様の事業活動に、どのように使っていけばいいのかを語れなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
以上のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
詳しくはこちらをご覧下さい。
- 期間:2023年10月4日(水)〜最終回12月13日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日)18:30-20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- IT利用のあり方を変えるクラウド・コンピューティング
- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
- 特別補講 *講師選任中*
詳しくはこちらをご覧下さい。
書籍案内 【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版
ITのいまの常識がこの1冊で手に入る,ロングセラーの最新版
「クラウドとかAIとかだって説明できないのに,メタバースだとかWeb3.0だとか,もう意味がわからない」
「ITの常識力が必要だ! と言われても,どうやって身につければいいの?」
「DXに取り組めと言われても,これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに,何が違うのかわからない」
こんな自分を憂い,何とかしなければと,焦っている方も多いはず。
そんなあなたの不安を解消するために,ITの「時流」と「本質」を1冊にまとめました! 「そもそもデジタル化,DXってどういう意味?」といった基礎の基礎からはじめ,「クラウド」「5G」などもはや知らないでは済まされないトピック,さらには「NFT」「Web3.0」といった最先端の話題までをしっかり解説。また改訂4版では,サイバー攻撃の猛威やリモートワークの拡大に伴い関心が高まる「セキュリティ」について,新たな章を設けわかりやすく解説しています。技術の背景や価値,そのつながりまで,コレ1冊で総づかみ!
【特典1】掲載の図版はすべてPowerPointデータでダウンロード,ロイヤリティフリーで利用できます。社内の企画書やお客様への提案書,研修教材などにご活用ください!
【特典2】本書で扱うには少々専門的な,ITインフラやシステム開発に関わるキーワードについての解説も,PDFでダウンロードできます!
2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。