「ITの可能性を伝え、この業界で仕事をすることが、どれほどすばらしいことかを感じ取ってもらうことが大切です。」
新入社員研修について、私が心がけていることです。
「そのテクノロジーで何ができるようになるのか、どんな価値を生みだすのか、それがお客様の幸せにどのように結びついてゆくか」
これを伝えることも大切です。そういう仕事に関われる幸せと自らの責任の自覚を持たせることです。言葉を換えれば、ITに関わる仕事の「思想」を伝え、やり甲斐を感じさせることです。そして、自発的に学んでゆくことの大切さやその方法を伝えることです。
Javaのコーディングやネットワークの構築なども実務スキルも必要ですが、もっと大切なのは、原理原則やアルゴリズム、歴史などの基本を丁寧に伝えることです。
方法論は時代と共に変わります。その変化に柔軟に対処できる人材を育ててゆかなければなりません。いま不足している労働力を育てるという発想では、彼らは直ぐに使いものにならなくなります。それは、あっという間に「必要としているスキル」が変わってしまうからです。
ITの基本を丁寧に教えることです。もちろん、理論を語るだけでは「基本」は伝わりませんから、コーディングやネットワークの構築などを実際にやらせて、「基本」を体感させる必要があります。ただ、教える側の姿勢として、「基本を教えるための手段」であることを自覚し、基本原理やアルゴリズムと結びつけながら、教えてゆくことが大切です。「コードを書くための知識を与える」という一昔前の発想は、もう時代遅れです。直ぐにAIに取って代わられます。
手段を教えるのなら、いまの時代に即したものがいいでしょう。例えば、Githubを使い、コンテナでシステムを構築する方法のほうが、これからのビジネスに使えます。当然、「アジャイル開発」のスキルも不可欠です。
ウォーターフォール開発は、ベテランの先輩たちに任せておけばいいのです。次代を担う新人たちにこそ、「いま」を学ばせ、これから増えてゆく需要の受け皿にし、ビジネスを背負わせることです。そういうプレッシャーや期待もまた、彼らに仕事へのモチベーションを与えることになるはずです。
では、どのような新入社員研修がいいのでしょうか。
最新のITトレンドとビジネス
まずは、世の中が「どうなっているか」そして、「これからどうなってゆくか」を教えることです。
ITの進化は、日常や社会、ビジネスの常識を大きく置き換えようとしています。その「物語」を伝えることです。新しい言葉を辞書の解説のように羅列して説明しても、その役割や価値は理解できません。それぞれのテクノロジーがお互いに役割を果たしながら、全体の仕組みを作っています。また、テクノロジーの進化が、社会や日常、ビジネスや生き方にどんな変化を強いるのでしょうか。そんなことについても、問いを発することが必要です。
従来の常識を背負っている人たちには容易には理解できない、あるいは、抵抗を感じるかもしれません。しかし、デジタル・ネイティブ世代の彼らは、驚くほど素直にこれからの未来が理解できます。それを、過去のやり方を押しつけて、時代に逆行するような考え方に引き戻さないことです。
また、多くの企業で、「情報システムの基礎」を教えているようですが、その内容の多くが、コンピューターの五大機能、バッチとリアルタイム、集中処理と分散処理といった40年前の内容に留まっています。基礎や歴史を教えることに意味はありますが、そこに留まっていては問題です。いまなら、生成AIやLLM、Web3やメタバースといったキーワードについても、教えなければ、かれらは現場で立ち往生です。
「説明できる」や「提案できる」とまではいかなくても、「何を言っているか分かる」程度の常識を持たせることです。「言葉が分からず現場に出ることが不安」といったことにならないようにすることです。
参考までに、私が使っているテキストを紹介します。昨年度まで使っていた内容ですから、内容は古いのですが、おおよそ、ご理解頂けるのではないかと思います。新しいコンテンツは、生成AIやWeb3についても言及しています。
情報システムの開発と実践
私はエンジニアではありませんから、エンジニアの方からのご意見を頂きたいところですが、私はこんな研修がいいのではないかと思っています。
まず、AWSでもAzureでも、彼らにアカウントをとらせ、クラウド・システムを構築させることです。また、Github、Pythonを使いアプリケーション・サービスを作らせます。また、ワークショップでのグループ・ワークや教師とのやり取りは、Slackを使います。また、スクラムでXPなどを駆使してアジャイル開発で進めてみてはどうでしょう。
AWSのLambdaを使ってもいいかもしれません。マイクロサービスやコンテナについての理解にもつながります。GitHub CopilitXやChatGPTを使ってコードを生成する、デバッグさせる、テスト・コードを書かせるなどもいいかもしれません。
いまだ昔のやり方、つまり、Java、Eclipse、オンプレのサーバー、ウォーターフォールでの仕事はなくなります。それよりも次の仕事を先取りして彼らを育てることで、彼らから会社を変えてゆくことにしてはどうでしょう。
ソリューション営業の実務と実践ノウハウ
「営業の仕事は、できるだけ多くのお客様に商材を提供し、その対価を稼いでくることではありません」
講義の冒頭でこんな話しをすると、「エッ」という顔をされます(笑)。
「営業の仕事は、一人のお客様を幸せにすることです。その幸せの一部を対価として頂くことです。その一人を沢山作ってゆくことが、皆さんの仕事です。商材は、対価を頂く手段に過ぎません。」
そのために、なにをすればいいのかを実務の手順に分解し、その実践方法を教えることです。言うなれば、「ソリューション営業の地図とガイドブック」です。
はじめての土地に旅立つ前に地図とガイドブックを手にする人は多いと思います。しかし、いざ現地に行くと道に迷うこともあるでしょう。そのときに見直して、自分の居場所を確認する手段があれば、旅は楽しいものにあるはずです。
精神論や根性論は不要です。そんなものは、実践で成果をあげられれば、結果として自信となり、根性へと育ってゆくのです。
仕事を伸ばす実践ノウハウ
論理的思考=フレームワーク、タイム・マネージメント、目標管理、文書作成といった、仕事の事務実践のノウハウです。
この講義は、入社後半年から8か月後くらいの10月〜12月頃がいいでしょう。実務の中で体験的に上記のような問題意識を持ち始めているころだからです。
入社の早い段階でやっても、ピントこないようです。むしろ、「困っている」や「何とかしたい」という危機意識を実感として持ち始めた頃がベストタイミングです。
新入社員研修だからといって、全てを最初の3ヶ月に押し込むのではなく、必要性を実感したタイミングこそ、彼らの救いになり、身につきます。
「勉強をする習慣の作り方」なども、このタイミングにはいいかもしれません。これは最初でも伝えるべきですが、「このままではまずい」と実践しはじめる頃にやるとより効果的です。
私は、「朝の1時間、就業時間前に、自分の勉強のための時間を作ること」とその方法を教えるようにしています。
勉強というものは、人にやれと言われてやるものではありません。したいと思うことが基本です。「したい」と思うためには、何を勉強しようかテーマを決め、勉強することを「決心」することからはじめるのではなく、とにかく「朝の一定時間、スタバでもオフィスでもいいから、自分のために没頭できる場所にいること」だと教えます。
そこに時間があるので、何かをしなければなりません。そうすれば、その時々にやるべきことがあるはずです。それを勉強すればいいのです。「決心」とは、カタチを作れば、結果として固まってくるものです。
「会社を変革するための原動力を育てる」
自分たちが変われないのなら、新人たちにその役割を担わせてはどうですか。新入社員研修をそのように捉え、取り組んでみてはどうでしょう。
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場により、ここ数ヶ月で、IT界隈の常識が一気に塗り替えられた気がします。スマートフォンの登場により、私たちの日常が大きく変わってしまったことに匹敵する、大きな変化の波が押し寄せているようです。ブロックチェーンやWeb3、メタバースといったテクノロジーと相まって、いま社会は大きく動こうとしています。
ITに関わる仕事をしているならば、このような変化の本質を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様の事業活動に、どのように使っていけばいいのかを語れなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
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