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自分たちの新規がお客様の新規とは限らない

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「この企画、いけると思いませんか?」

新規事業について、ご相談を請けることがあるのだが、どう考えても「残念」と思えるものがある。その特徴は、大きく次の3つに分類できそうだ。

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何が新規なのか分からない

自社にとっては、「新規」ではあっても、世間的に見れば新規ではない場合がある。これがダメだと言いたいわけではないが、対抗する「既存」に対してどのような優位があるのか、あるいは、それを置き換えうる魅力がどこにあるのかを明確に示せない。

まだ、「既存」があることを知っていれば、ましな方だ。「それと似たようなサービスなら、これがありますよ。」と指摘すると、「初めて知った」とか、中身をちゃんと知らないのに、「うちは、こんなところが凄い」と顔色を変えて反論する人もいる。

「新規」とは、お客様にとっての「新規」であるか、あるいは、既存に対して、それを凌駕する目新しい魅力、つまり、お客様から見て、乗り換えてもいいと思わせる何かがなければ、それは、ビジネスにならないだろう。

自分の経験値と思いこみの範囲で、自分にとっては、「新規」かもしれないが、世間から見れば、何も新規性がない事業企画では、興味を示してはもらえない。

儲かるどうかでしか考えていない

ビジネスである以上、儲からなければ意味がないのはその通りだ。しかし、それが、社会やお客様にとって、どのような意味や価値をもたらすのかを考えないままに、採算の数字だけを示していることがある。そして、その採算の根拠も「この市場は、これくらいあるので、この5%を取れた場合は、こうなる」と言った類で、5%を取れる根拠がないままに、それが取れる前提で数字を示している。

そもそも、その市場規模の見積も、自分たちの新規事業のターゲットなのかどうかも怪しい。十分な統計値の裏付けもないままに、これを自分たちにとって都合がいいように解釈して使っている。

そもそも、新規に市場を開拓するとすれば、既存の市場そのものがないわけだから、論理的に考えても破呈している。採算の見通しがないと稟議が通らないからこういう無理筋を創作するのは分かるが、これでは、うまくいくわけはない。

どうも、「新規事業を創出する」ことではなく、「新規事業計画書を提出する」ことが、目的になっているように思えてならない。

お客様の日常がどのように変わるのか、社会がどのように変わるのか、それが、どれほどの意味や価値があるのかを明確に示せなければ、それは数字以前にその事業そのものが成り立たないのは、必然だろう。

「お客様や社会に不可逆的な行動変容をもたらすか」

このサービスや製品を使うと、もう既存は使えない。金額が劇的に安くなるからなのか、いままでやっていたことが何だったのかと思わせる楽ちんさなのか、使うことが楽しすぎてわくわくすることなのか、もう元には戻れないという状況を生みださなければ、ビジネスにはならないだろう。

その典型は、スマホだ。もうスマホのない生活には戻れない。そんな「不可逆的な行動変容」が事業の価値の基準であろう。もちろん、スマホほどの大きな影響範囲はなくても、特定の業務、特定のお客様に、そのような「不可逆的な行動変容」をもたらすことができるのかが、まずは最初でないか。

実感がない

「あなた自身は、そのことで困っていますか?」

「あなたのお客様の気持ちを直接聞きましたか?」

「あなたには、そのことで苦労した体験がありますか?」

全て頭の中で考えたことであり、想像に過ぎない。実感がなく、生々しくなく、なるほどと思わせる説得力がない。そんな新規事業企画が、うまくいくはずはない。

もちろん「想像」なくして、ビジネス創出のきっかけは生まれない。しかし、想像の中で、こうすればうまくいくと、想像の世界だけで「新規事業企画」をまとめようとしている人がいることも確かだ。

ある程度、想像を膨らませたら、核心部分を作ってみる/やってみる/対象とする人の反応を確認する。そうやって、実感で想像をアップデートして、現実的な解に近づけていくべきだ。

また、いろいろな外部の人に意見を聞くことも怠るべきではない。同質感ただよう社内ではなく、多様な社外が大切だ。また、特定の人の意見で満足するのではなく、いろいろな人たちの意見を聞くことだ。特に、批判的な人こそ、しっかりと耳にすべきだ。そういう人ほど、本質を見抜く力を持ち、あるいは、自分の思いこみや思い上がりへの警鈴を与えてくれる。

いずれにしても、実感がなければ、価値を表現できないし、説得力も生まない。

「新規事業」は、お客様にとっての新規である。自己満足と自分の想像の世界の新規ではない。そこのところを忘れないようにしたいものだ。

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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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