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新規事業開発プロジェクトという放課後のクラブ活動

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かつて、ITに関わる意志決定は情報システム部門が、権限を握っていた。しかし、事業の差別化や競争優位を生みだすための「攻めのIT」への必要が高まる中、意志決定は事業部門へとシフトしつつある。

一方で、情報システム部門が担う「守りのIT」は常にコスト圧力に晒されている。クラウドや自動化の適用範囲の拡大と相まって、この領域における機器の販売や構築、運用に関わる工数を提供するビジネスは、頭打ちになりつつある。

従来の枠組みではビジネスを拡大するどころかそれを維持することさえ難しくなろうとしている。

あるSI事業者の経営者が、次のようなことを話してくれた。

「現場の意識を変えなければ、何も変わらない。それが、なかなかうまくいかない。それが改革の最大の障害です。」

私は、そうは思わない。

「意識を変えること自体が最大の問題であり、むしろそれが目的ではないのでしょうか。まずやるべきは意識を変えることではありません。現場の行動を変えることです。事業戦略を変える、組織を変える、予算配分を変えるなど、カタチを変えることが先ではないでしょうか。それは経営者の仕事です。カタチが変われば、現場は行動を変えなくてはなりません。その行動から意味するところに気付かせ、結果として意識が変わるのではないかと思います。」

「目的はパリ、目標はフランス軍」という言葉がある。1871年の普仏戦争でプロイセンがパリを占領した時に、プロセインの宰相ビスマルクが言った言葉だという。ビスマルクは、最終的に求めるのはパリを奪取してフランスに城下の盟を誓わせることを目的として、そのために障害となるフランス軍を排除するのが行動の目標ということを伝えようとしたわけだ。

つまり、上記で言えば、「目的は意識を変えること、目標は行動を変えること」なのだろう。

この会社の目的は、受託請負事業の比率を下げ、ストック型のサービスへと事業の主体をシフトしたいと考えているのだという。そのために、「新規事業開発プロジェクト」を起ち上げたが、うまく成果をあげていないという。話しを聞けば、なるほどと思わずにはいられない。

そのプロジェクトは、各事業部門から選抜された「若手」から構成された「放課後のクラブ活動」になっていた。プロジェクトの成否は、人事査定に直接影響することはない。もちろん予算もない。ただ、「3年後に10億円」という曖昧な目標値(?)が示されているだけだ。当然、「若手」は、各部門の稼ぎ頭であり、そちらの仕事が忙しければ、仕方がないと言うことになり、本業を優先する。プロジェクトの仕事は、ずるずると先延ばしにされる。気がつけば、プロジェクトは看板だけになり、もはやそのプロジェクトの存在を語ることがはばかられるようになる。成果などあがるはずはない。

そもそも、新規事業は目的ではなく手段である。事業の課題を解決すること、あるいは自分たちの未来を変えることが目的であろう。その手段は、新規事業以外にもあるはずだ。例えば、利益の出ない既存事業を辞めること、既存の仕事のプロセスを徹底して簡素化すること、属人化した業務を形式化し、メソドロジーにして、誰もができるようにして、生産性を上げることも手段だ。

新規事業も、そんな手段の選択肢のひとつであるにもかかわらず、「新規事業を立ち上げること」が目的化されたプロジェクトは、選択肢を狭められ、「事業の成果」ではなく、「新しいこと」が目的になってしまう。カタチとしては新しいこと を見せることはできても、事業の成果につながらないのは、このような構造的問題であろう。

名著「失敗の本質」には次のような記述がある。

『日本軍の戦闘上の巧緻さは、それを徹底することによって、それ自体戦略的な強みに転化することがあった。いわゆるオペレーション(戦術・戦法)の戦略化である。しかし、近代戦においては、つねに通用するわけではなかった。一定の枠組みの中で、敵の行動が可視的に捉えられ、自軍の行動に高度の統合性を要求されないような場合においてのみ有効であった。』

個人の頑張りに依存したオペレーションの強さが、日本軍の強さだったというわけだ。兵站や武器、それらの時間的空間的配分を統合的に最適化する戦略的行動は、得意ではなかったというわけだ。

既存業務の改善や改革を目指す「守りのIT」では、一定の枠組みの中で何をすべきかが決まっていたし、何が正解かを業務の現場で決められる。つまり、お客様と話しをすれば、要件が決まる。どうして欲しいのかをお客様自身が決めることができ、それに従ってシステムを作ることができるし、臨機応変に対応することが、高く評価された。

一方で、「ITを活かして新しいビジネス・モデルを実現する」ことが求められる「攻めのIT」に正解はない。また、その正解さえもいつまでも正解であり続ける保証はない。進化し続けるテクノロジーの趨勢を読み、自社の製品やサービス、人材に拘らず、統合的な戦略を描かなくてはならない。そして、ダイナミックに戦略を動かし続けなければならない。そのためには、情勢に応じた戦略を描き、高速な試行錯誤を繰り返すことだ。これを支えるのが現場への大幅な権限委譲、つまり自律したチームに任せる組織運営だ。根回しや稟議に何ヶ月もかかる組織運営では、できるはずがない。

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また、テクニカルなバックグランドも大きく変わる。それは、「作る技術」から「作らない技術」への転換である。既存のクラウドサービスやOSSなどを目利きし、できるだけ作らないで、いち早くITサービスを実現する技術である。アジャイル開発やDevOps、サーバーレスやコンテナといった技術は、「作らない技術」である。

個人の頑張りに頼る現場オペレーションだけでは、近代戦では戦えない。会社として、あるいは会社を越える大きな枠組みを統合し、強みに変えてゆく戦略が求められている。「オペレーションの戦略化から高度に統合化された戦略への転換が求められている」とは、いまのITビジネスにも、そのまま適用できるだろう。

「失敗の本質」に描かれている70年以上も前の意識構造は、いまも健在だ。これは驚くべきことと言うよりも、それが日本人なのだという自覚を持つことが大切なのかもしれない。その自覚の上に、自らを省みることができれば、正しい戦略の道筋が見えてくるように思う。

神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

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八ヶ岳南麓・山梨県北杜市大泉町、標高1000mの広葉樹の森の中にコワーキングプレイスがオープンしました。WiFiや電源、文房具類など、働くための機材や備品、お茶やコーヒー、お茶菓子などを用意してお待ちしています。

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【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版

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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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