私たちはいま、VUCA/将来の予測が困難な社会に私たちは置かれています。そんな現実世界と関わるために、様々なデジタルな接点、すなわち、デジタル化した業務プロセス、Web、IoT、モバイルなどの手段を駆使して、その関わりをリアルタイムにデータで捉えようとしています。これによって、現実世界のデジタル・コピー、すなわちデジタル・ツインが作られ、リアルタイムに事実を把握できるようになります。
「デジタル」の役割は、この事実に基づき、直ちにシミュレーションを実行して最適解を見つけ、人間が介在することなく、ビジネス・プロセスを実行することです。つまり、データから導かれた最適解を使って、統計的に予測できる連続的な変化に対し、迅速に対応することで、ビジネスの最適状態を維持するように機能します。
一方、「人間」の役割は、人間にしかできないことに、時間や意識を傾けることです。デジタルに任せられることは徹底してデジタルに任せることで、デジタルに任せられる領域が増えるほどに、人間はその役割を最大限に果たせるようになります。
人間もまた、データから事実や状況を正しく理解し、洞察や気付きを得ることができます。それらを組織で共有し、徹底して対話し、共感を生みだすことで、自分たちの「あるべき姿」を見出すことができるのです。
ここで重要なのは、過度な分析に陥らないことです。分析は、決められた分析の枠組みの中での理解に過ぎません。大切なことは、そこから洞察や示唆をえて、その背景にある大きな変化、他との関係を考え、そして、その事実を含む全体を把握することです。そこに、自分の目指す理想や価値観を掛け合わせ、これまでとは違う、未来を描くことで、既存の常識から逸脱して、別の視点で、世界や自分たちを捉え直すことができます。
これを個人に委ねるには限界があります。そこで、組織やチームのメンバーとの自由闊達な徹底した議論によって、多様性を高めることが必要です。お互いが利他をめざし、共感し合って、「もう、これしかないよね」という境地に至って初めて、進むべき方向が共有されます。イノベーションは、このような前提無くして生まれません。
企業は、連続的な変化だけに対処すればいいわけではなく、自らが不連続な変化を生みだして、顧客や社会との関係を変革してこそ、自らの存在感を維持することができます。イノベーションは、そのための手段となるわけです。これは、人間以外にはできません。だから、デジタルにできることはデジタルに任せ、人間にしかできないことに人間は意識や時間をシフトさせられる会社や組織を作らなくてはならないのです。
これを実現するには、デジタルを徹底して駆使することは当然のことですが、人間そのものに目を向けることが大切です。例えば、リスクを気にすることなく議論できる組織風土である「心理的安全性」の醸成であり、変化の現場を最も身近に感じることができる「現場への大幅な権限委譲」によって、即決、即断、即実行が現場でできなくてはなりません。デザイン思考やリーンスタートアップ、アジャイル開発やDevOpsといった言葉が、DXの文脈で語られますが、このような基盤がなければ、実効性の乏しいものになってしまいます。
改めて、DXにおけるデジタルと人間の役割を整理すれば、前者は、「情報処理」、後者は、「知識創造」ということになるでしょう。
組織における「知識創造」のメカニズムを「SECI(セキ)モデル」として理論化した野中郁次郎氏によれば、「知識」は人間が環境の中で生存するための、あるいは環境を変革していくための、総合的・体系的な概念の集合体であると述べています。一方、情報は人間が何かを伝達する時の内容であり、何らかの意図・要求に沿ったデータのまとまりであるとしています。
例えば、材木や金具などの「建築材料のひとつひとつ(=情報)」は、これを使って家を建てる大工がどのような家を建てたいのかといった「思いやイメージ(=知識)」によって組み合わされ、全体としての意味を持つことになります。つまり、知識とは「意味のある情報」を指しているわけです。
その「意味」を読み取るのは人間の主観であり、その主観が人により異なるから、対話を通じて相互作用して、多様な知識に接し、そこから共感を生みだして、新しい「知識」が創造されるということになります。
また、「イノベーションの源泉は、最初に理論ありきというより、何をやりたい、という思いありきなのだと」とも述べ、思いやゴールのイメージがあってやり続けているうちに、概念や理論が徐々にできていくのだというのだということも述べています。これらは、彼の著書『知識創造企業』で、詳しく述べられています。
DXとは、そんな人間にしかできないこと、すなわち「知識創造」のための環境を作る取り組みでもあるわけです。
こうやって、デジタルが得意とする「情報処理」と人間が得意とする「知識創造」を、それぞれに最大限に発揮して、両者のかけ算、すなわち、「デジタル/情報処理×人間/知識創造」によって社会やビジネスの価値を最大化することを目指すのが、DXということになります。
この一連の取り組みにより、圧倒的なスピードとイノベーションを生みだし続けるビッグテックやデジタルネイティブと対等に戦える企業になることができます。
彼らは、既存の常識を逸脱することをものともせず、既存企業にとっては当たり前の制約をデジタルによって解消して、圧倒的なスピードで、新しいサービスを提供し、改善を繰り返し、急速な成長を遂げています。結果として、既存の企業や産業を置き換えることに成功しています。
そんな、彼らと対等に闘えなければ、成長する以前の問題として、置き換えられてしまいます。だから、自分たちもまた「変化に俊敏に対応できる圧倒的スピードを獲得」しなくてはなりません。DXとは、そんな変革の取り組みと言えるでしょう。
DX疲れにうんざりしている。Web3の胡散臭さが鼻につく。
このような方もいらっしゃるかもしれませんね。では、伺いたいのですが、次の3つの問いに、あなたならどのように答えますか。
- DXとはこれまでのIT化/コンピューター化/デジタル化と何が違うのでしょうか。
- デジタル化やDXに使われる「デジタル」とは、ビジネスにとって、どのような役割を果たし、いかなる価値を生みだすのでしょうか。
- Web3の金融サービス(DeFi)で取引される金額はおよそ10兆円、国家が通貨として発行していないデジタル通貨は500兆円にも達し、日本のGDPと同じくらいの規模にまで膨らんでいます。なぜ、このような急激な変化が起きているのでしょうか。
言葉の背景にある現実や本質、ビジネスとの関係を理解しないままに、言葉だけで議論しようとするから、うんざりしたり、胡散臭く感じたりするのかもしれせん。
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- 内容:
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