「VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)」という言葉が、さかんに聞かれるようになったが、そんな時代になった背景には、情報通信技術の発達がある。あらゆる情報が、瞬時にやり取りされ、私たちの捉える社会の複雑性が増したためだ。
1990年代の初頭に登場したインターネットは、伝達される情報のスピードを加速し、そのボリュームを爆発的に増やした。さらに、それら情報を処理するためのコンピューター・システムと融合して、新しい社会や経済の基盤であるサイバー・スペースを生みだした。サイバー・スペースは、現実世界と一体になって、社会や経済の変化を加速し、社会の複雑性を高めている。
そんな時代には、何が起こるか分からないし、起こってからの変化も早く、どう対処すればいいかを判断するにも、判断基準や関連する情報が膨大にあり、しかもそれらが高速に入れ替わり錯綜し、容易なことではない。
そんな時代に、3年後の未来を正確に予測することなどできるはずがない。企業は、3年後の達成目標を定め中期事業計画を立て、PDCAを確実に回していくことを当然のこととしている。しかし、このようなやり方が通用する時代ではない。時々刻々の変化を直ちに捉え、現時点での最適を選択し、変化に合わせて改善を高速に繰り返すしかない。このようなスピードを手に入れることなくして、いまの時代を生き抜くことは、難しい。DXとは、そのための能力を手に入れるためのビジネス変革だ。
金科玉条の達成目標にこだわり、それに拘束されることはむしろリスクだ。PDCAを四半期や半期ごとにアップデートするなんて、あまりにも悠長だ。中長期の達成目標は、絶対ではなく、仮説と捉えるべきだろう。常にこれを見直し、社会や顧客の変化に応じてダイナミックに変えてゆくべきものとなった。PDCAを回すなら、最長でも週次だろう。それを毎日の振り返りでアップデートする。そんなスピード感でビジネスを回せるように仕事の仕方や経営のあり方を作り変えることが、DXという企業の文化や風土の変革だ。これは、既存の常識を否定する。だから、DXは難しい。
ITもまたこれを支えるものでなくてはならない。ERPは、そのためのデータドリブン&リアルタイム経営を実現する基盤となる。現場の業務を効率化するための手段に留まるものではない。
私たちは、子どもの頃から、国語、算数、理科、社会というフレームワークで、世界を整理することを求められてきた。それが正しい世界の見方だと信じてきた。このフレームワークの中で成績を上げることが、将来の幸せを保証すると言い聞かされてきた。これを疑うことは、非常識であり、変わり者として弾かれる。結果として、子どもたちは、画一化されたフレームワークで考えることを学び、常識を疑うことができない均質な労働力として、社会に送り出されてきた。高度経済成長の時代であれば、均一な労働力を効率よく束ねることが、求められた。しかし、多様な価値観や個性が、価値の源泉となったいま、過去の常識で育てられてきた人たちに、常識を逸脱して変革せよ、イノベーションを生みだせと求めても、無理な話であろう。
「リスキリング(reskilling)」という言葉を耳にする機会が増えた。「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されている(第2回 デジタル時代の人材政策に関する検討会)。
デジタル技術の発展や働き方の多様化により、これまで人手に頼っていた仕事がなくなり、新しく生まれた仕事が増えている。これに対処し、雇用を維持するために、新たなスキル習得のための再教育を受ける必要があるからだ。また、デジタル・リテラシーは、「読み書き」のリテラシーと同様のレベルで求められるようになった。
しかし、その前提として、「アンラーニング」も忘れてはいけない。「アンラーニング(unlearning)」とは、いままでの価値観や知識を見直しながら取捨選択し、新しいものを取り込むことだ。既存の知識の中で、不要なもの、アップデートすべき箇所を意識的に捨て去ることだ。「ラーニング」とは従来の知識に、さらに新たな知識を追加することであり、この対比で考えれば分かりやすいだろう。
「VUCAの時代」になって、社会や経済が急激なスピードで変化し続けている。将来を予測することは難しい。そんな時代に、いつまでも既存の知識に頼っていては、変化に太刀打ちできない。価値観や行動様式もそれに合わせて変えていかなくてはならい。
そのためにも「リスキリング」は欠かせないが、既存の常識が足かせになって、それを受け入れることができない。そのためにも「アンラーニング」とセットで取り組む必要があるだろう。
私たちの常識が根底から揺らいでいる。まずは、この現実を受け入れるべきだろう。その善し悪しを云々しても意味がない。仏教や禅の思想のごとく、あるいは、デザイン思考やエスノグラフィーの方法論のように、まずは、「あるがままを受け入れる」ことから始める必要があるだろう。
Web3もDXも、その根底にある常識は、既存の常識と大きく逸脱している。そのことをまずは素直に受け入れることだ。実装や実践のための技術や方法論をいくら学んでも、この前提を受け入れなければ、それを活かすことはできない。私たちは、いま、そんな時代に生きている。
DX疲れにうんざりしている。Web3の胡散臭さが鼻につく。
このような方もいらっしゃるかもしれませんね。では、伺いたいのですが、次の3つの問いに、あなたならどのように答えますか。
- DXとはこれまでのIT化/コンピューター化/デジタル化と何が違うのでしょうか。
- デジタル化やDXに使われる「デジタル」とは、ビジネスにとって、どのような役割を果たし、いかなる価値を生みだすのでしょうか。
- Web3の金融サービス(DeFi)で取引される金額はおよそ10兆円、国家が通貨として発行していないデジタル通貨は500兆円にも達し、日本のGDPと同じくらいの規模にまで膨らんでいます。なぜ、このような急激な変化が起きているのでしょうか。
言葉の背景にある現実や本質、ビジネスとの関係を理解しないままに、言葉だけで議論しようとするから、うんざりしたり、胡散臭く感じたりするのかもしれせん。
ITに関わり、ビジネスに活かしていこうというのなら、このようなことでは、困ってしまいます。
ITソリューション塾は、ITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
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