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【図解】コレ1枚でわかる受発注型取引と共創型取引

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デジタルと事業の一体化を進めるために、内製化の範囲を拡大している企業が増えています。だからといって、それができる人材を集めることは容易なことではありません。だからこそ、SI事業者には、内製化への支援が求められるし、その需要は今後拡大すると思われます。

ただ、これまでの受託請負、あるいは準委任といった受発注型とは異なる取引になることを考えておかなくてはなりません。それにふさわしい、取引ルールや業績評価基準、組織体制やプラクティスが求められます。

この違いを整理したのが次のチャートです。ここでは、従来型のやり方を「受発注型取引」とし、お客様の内製化を支援するやり方を「共創型取引」としました。

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どちらのやり方が優れているとか、「受発注型取引」は、時代遅れなのでやめてしまえ、などと言いたいわけではありません。どちらにも需要があり、それぞれにビジネスの機会があります。ただ、「受発注型取引」は、効率化やコストの削減が求められる場合が多く、だとすれば、クラウドの普及、自動化適用領域の拡大は、当然の顧客のニーズであり、工数需要は低減し、利益率の低下は避けられないでしょう。

一方で、「共創型取引」は、事業の成果、すなわち売上や利益の拡大を目指すことに重心が置かれ、業績に責任を持つ事業部が主導して内製化を前提にすすめようとするでしょう。だとすれば、投資対効果で、その必要性が評価されることから、成果が上がれば上がるほど、需要は拡大し、利益率の拡大も期待されます。

SI事業者の方からは、内製化を支援すると自分たちの仕事がなくなってしまうのではないかと懸念する声も聞かれます。なんとも残念な話しです。お客様のニーズがそちらへシフトするのであれば、自分たちもそのニーズに応えなくては、ビジネスにはならないわけで、それで自分たちの仕事がなくなってしまうのであれば、それは仕方がないことです。それは、お客様の期待に応えることができなかったに過ぎないわけで、自業自得というしかありません。お客様に請われるほどの圧倒的技術力、一緒に新しい業務を作り上げていこうという気概、信頼を感じさせる人格で、お客様を惚れさせることこそが、求められるコンピテンシーであって、それがあれば仕事がなくなることなどありません。

従来型の「受発注型取引」だけでは、これからの売上や利益の拡大が期待できない以上、「共創型取引」の取引拡大に向けて、スキルもマインドも変えてゆくべきであり、既存の「自分たちの仕事がなくなってしまう」ことを積極的に受け入れなくてはなりません。

ちなみに「共創型取引」に舵を切り、果敢にそちらに適応したSI事業者は、ひっきりなしの需要と人手不足に困っているという話しも聞こえてきます。

「お客様から、そんな相談をうけることはなく、そんな需要はまだそれほどない」との考えを、あるSI事業者の方から聞いたことがあります。しかし、それは、「共創型取引」に求められるスキルや感性がないとお客様に見透かされ、相談されないのだということに、気がつくべきです。

DX案件を増やそうとか、DX事業を拡大しようだとか、多くのSI事業者は、躍起になっているように見えます。中には、「お客様のDXの実現に貢献します」と、堂々と謳っている企業もあります。もし、本気でお客様のDXの実現に貢献する気があるのなら、「共創型取引」に取り組むことができるチームを増やしてゆくことです。そのためには、自らもDXを実践し、そこで得られたスキルやノウハウを、模範を通じて、お客様に提供できるようになることでしょう。

コロナ禍は、社会の変化を加速し、3年から5年はかかるであろうと考えていたことが、半年から1年で変わってしまうという状況を生みだしました。クラウド化やゼロトラスト・ネットワーク、ローコード開発やサーバーレスが、一気に注目されるようになったのは、その証拠です。それを技術だけのことと、捉えるべきではありません。そんな技術を必要とするビジネス現場のニーズの変化として、捉えるべきです。「共創型取引」需要の拡大も、同じ文脈にあります。

SI事業者は、そのための備えを事業戦略として明確にし、その実践を現場に促すべきでしょう。そんな取り組みが、結果として、DX案件やDX事業を生みだしてゆくのだと思います。

2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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