【図解】コレ1枚でわかるクラウドの不得意
「パブリック・クラウド」は、コンピューティング資源を「所有」から「使用」へと転換し、様々なベネフィットをもたらしてくれることは、これまでも述べたとおりです。しかし、決して、万能ではなく、「遅延時間」と「大量データ」についての課題があることを理解しておく必要があります。
遅延時間
データの発生源とデータを処理するコンピューターの間は、光ファイバーなどの通信媒体を介して結ばれます。そこに流れる信号が届く時間は、距離が離れれば遅くなります。これが、「遅延時間」です。
例えば、日本から米国西海岸との間でデータをやり取りする場合、往復でおよそ200ミリ秒ほどかかります。もし米国西海岸のデータセンターにあるパブリック・クラウドを使おうとすると、データを処理する時間が、仮に10ミリ秒であったとしても、結果を得るまでには、210ミリ秒かかることになります。
東京からシンガポールなどの東南アジアになると、この遅延時間は100ミリ秒程度、韓国や台湾などの東アジア地域との間では、50ミリ秒程度になります。国内であれば、さらに短く、数十ミリ秒以下になります。一般的な社内LANであれば、1ミリ秒以下です。
なお、遅延時間は、基本的には距離に依存するのですが、必ずしもそれだけではなく、回線が経由するルートや介在するネットワーク機器などの影響によっても大きな違いが生じるので、上記はあくまで目安です。
この遅延時間が問題になるような、つまり低遅延でなければ、支障をきたす以下のような業務では、パブリック・クラウドを使うことは難しいでしょう。
- 証券市場においてデータ基に1秒で数千回の売買注文を行うような高頻度取引(HFT : High Frequency Trading)
- 工場の製造現場で、直ちに良/不良を見分けて、不良品を排除する品質管理工程の自動化
- 自動車の自動運転における事故の回避判断と回避行動の連動 など
大量データ
現場で大量のデータが発生し、それを保管、処理しなければならない場合は、それらを全てパブリック・クラウドに送り出すと、回線料金が高くなってしまいます。例えば、次のような場合です。
- 大量のセンサーからデータを取得し、それを利用して業務を行う
- 工場の機械の動作履歴を検査や改善のために使う など
回線料金だけではなく、大量のデータを処理することになれば、クラウド・サービスの理由料金も嵩みます。このようなケースの場合は、得られる成果とコストとのバランスを考えなくてはなりません。
いずれの場合も、データが発生する場所にコンピューターを設置することで解決できます。ただし、その設置と運用は、ユーザー企業の負担となります。
ただ、見方を変えれば、「遅延時間」と「大量データ」の問題がなければ、パブリック・クラウドが、使えるということです。パブリック・クラウドという選択肢がなかった時代には、コンピューティング資源は、所有することが前提でしたが、もはやそういう時代ではありません。
パブリック・クラウドを優先し、上記の制約がある場合のみ、使用場所に設置、所有し、連係して使うのが、合理的と言えるでしょう。セキュリティやガバナンスを危惧する声も未だありますが、既に述べてきたとおり、もはやその観点で心配することではなくなりつつあります。
なお、後程、詳しく解説しますが、クラウド・サービス事業者も、当然ながらこの状況を把握しています。彼らは、自社のパブリック・クラウドの仕組みを予め組み込んだハードウェア製品を提供し、この需要に応えようとしています。
これには、自社のパブリック・クラウドと一元的に運用管理できる機能も組み込まれており、設置や運用管理におけるユーザーの負担を軽減できます。
ただし、その利便性の代償として、その事業者にロックイン(乗り換えを難しくすること)されるリスクがあることも理解しておくべきでしょう。