【図解】コレ1枚でわかるクラウド・コンピューティング
クラウド・コンピューティングとは、「コンピュータの機能や性能を共同利用するための仕組み」で、「クラウド」と略されることもあります。例えば、大手クラウド事業者のひとつであるAmazonの子会社・Amazon Web Services(AWS)は、数百万台ものサーバー・コンピューターを所有していると言われています。ちなみに、日本全国で所有されているサーバーは約250万台程度なので、その規模がどれほど大きいかが分かります。
AWSは、これらサーバーを三年間の償却期間で入れ替えているので、AWS一社で100万台を越える台数を毎年購入している計算になります。世界で年間に出荷されるサーバーの台数は約1000万台、日本国内では約50万台であることを考えると、その膨大さは桁違いです。
この規模を活かし、AWSは既製品を使わず特注のサーバーを自前で設計し台湾などの企業に製造委託しています。また、サーバーの中核となるCPUも独自仕様の設計で大量発注しています。ネットワーク機器やその他の設備も同様に、自社のサービスに最適化された仕様で開発・製造し、使っています。
機器や設備を大量に購入することで購入単価は下がり、運用管理は高度に自動化されています。このように、「規模の経済」をうまく活かして設備投資を低く抑え、運用管理の効率化を徹底することで、利用者は安い料金でコンピューティング資源を利用できるようになりました。AWS以外にも、Microsoft、Google、IBM、Alibabaなどが、同様のサービスを提供しています。
クラウドがなかった時代は、コンピューターを利用するためには、ハードウェアやソフトウェアを自分たちの資産として購入し、自ら運用管理しなければならならなかったのですが、クラウドの登場によりサービスとして使えるようになりました。利用者は最小限の初期投資で、使った分だけ利用料金を払えばすぐに利用できるようになったのです。例えて言えば、飲み水を手に入れるために、各家の庭に井戸を掘りポンプを設置しなければならなかったのが、水道を引けば蛇口をひねるだけで手に入るようになったことと同じです。また使った分だけ払う「従量課金」なので無駄がありません。
このように「クラウド・コンピューティング」は、コンピューターの使い方の常識を根本的に変えてしまいました。
「クラウド・コンピューティング(Cloud Computing)」という言葉が最初に使われたのは、2006年、当時GoogleのCEOだったエリック・シュミットの次のスピーチです。
「データもプログラムも、サーバー群の上に置いておこう。そういったものは、どこか "雲(クラウド)"の中にあればいい。必要なのはブラウザーとインターネットへのアクセス。パソコン、マック、携帯電話、ブラックベリー(スマートフォン)、とにかく手元にあるどんな端末からでも使える。データもデータ処理も、その他あれやこれやもみんなサーバーに、だ。」
"雲(クラウド)"とは、インターネットのことで、当時インターネットやネットワークを表現する模式図として雲の絵がよく使かわれていたことからです。彼の発言を整理すると次のようになります。
- インターネットにつながるデータセンターにシステムを設置し、
- インターネットとブラウザーが使える様々なデバイスから、
- 情報システムの様々な機能や性能をサービスとして使える仕組み。
現在、クラウドは、安心、安全が高度に求められる基幹業務システムや銀行システムといったミッション・クリティカル(24時間365日、障害や誤作動などで止まることが許されない)なシステムにも使われています。
また、2018年、日本政府は、「政府機関の情報システムは、クラウド・サービスの採用を優先する」との方針(クラウド・バイ・デフォルト原則)を決定しました。先行する米国では、CIA(中央情報局)がAWSを使い、DOD(国防総省)もクラウドへの移行を進めつつあります。高度な機密性や可用性、信頼性が要求される政府機関もクラウドを利用する時代になりました。
コンピューティング資源を資産として所有することは、変化に俊敏に対応する上で、重い足かせとなります。また、巧妙化するサイバー攻撃の脅威に対処するには、企業であれ、政府機関であれ、大きな負担を強いられます。クラウドは、そんな課題を解決する手段としても、利用者の裾野を拡げています。
そんなクラウドについて、これから連載し解説します。