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「DX人材」という思考停止のスイッチを押してはいないか

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DX人材」あるいは、「デジタル人材」が不足している、だから、そういう人材を育てなくては、と言うが、私は、このような話しに、とても違和感を感じている。

いまの時代、東京から大阪へ行こうと思い立ったら、新幹線か飛行機を利用することを考えるだろう。どちらが良いかは、駅や空港と出発地や目的地との位置関係、あるいは移動の利便性によって、判断するはずだ。あるいは、運賃の高安が判断基準になるかも知れない。時間的に余裕があるとか、深夜まで仕事があるから、夜行の高速バスにしようという人もいるかも知れない。

私たちは、普通にこんなことを考え、東京〜大阪への移動手段を選択する。馬で行こう、駕籠(かご)がいいのではないか、いやいや、歩いて行こうなどと、考えることはないだろう。これが「移動のリテラシー」である。決して、新幹線や飛行機を作る能力を求められているわけではなく、それらを使いこなす能力が求められているのだ。

私たちはいま、当たり前にスマートフォンやクラウドを使いこなしている。緊急の連絡だからと電報を打つ人はいない。買い物やチケットの予約もオンラインを使えば、忙しい時間の合間をぬって、店舗に出かけなくてもいい。もはや私たちは、そんなデジタルが前提の社会で生活しているし、使いこなしている。それが、「デジタル・リテラシー」だ。スマートフォンやクラウドを作る能力ではない。

ところが、なぜか、ビジネスの現場に立つと、突然、時代が逆行したかのように、デジタルを恐怖し、遠ざけ、「ITは難しくて分からない」という言い訳を始める人がいる。クラウドやAIが、新幹線や飛行機のような常識になっているにもかかわらず、相変わらず、馬や駕籠に拘るようなものだ。

社会がデジタル前提であるのなら、ビジネスもまたデジタル前提で動かさなくては、事業の存続はあり得ない。事業戦略を考えるにも、デジルの視点なくして、あるいは、デジタル技術を駆使して、ビジネス・プロセスやビジネス・モデルを変革しなくては、ビジネスは成り立たない。

そんな当たり前のことができなくて、ビジネス・パーソンは務まらない。「ITは難しくて分からない」という言い訳は、「私はビジネスの能力はありません」という宣言に等しい。まさに、読み書き算盤レベルのリテラシーであり、そんな人は、ビジネスの現場では、お荷物でしかない。

クラウドやAIを作り、あるいは、それを駆使したシステムを作れというわけではない。何ができるのか、どう使えばいいのかといった知識やスキルであり、それが、ビジネスの現場に求められる「デジタル・リテラシー」であろう。

DX人材」あるいは「デジタル人材」などという言葉は、なにか特別の能力の持ち主のような印象を与えるが、決してそんなことはない。ビジネス・パーソンとして、いまの常識を持ち合わせている人材であり、なにか、難しい言葉を創って、ことを荒立てているように思えてならない。それが、私の違和感だ。

確かに、システムを構築するITエンジニアに限って考えれば、新しい技術、例えば、コンテナやサーバーレス、マイクロサービス、アジャイル開発やDevOpsなどのモダンITを使いこなせる人材は、不足している。エンジニアであれば、それが分からないとか、使えないというのは、大いに問題ありだと思うし、この状況を放置しておくことは、大変な問題であろう。ただ、これは、「DX人材」あるいは「デジタル人材」とは、別の話しではないか。この辺りの解釈が、あるいは、区別が曖昧なままに、おかしな議論になっている。

ビジネスの最前線に立つ人間であれば、「DX人材」あるいは「デジタル人材」などの肩書きを付けずとも、ITあるいはデジタルのリテラシーを持つべきであって、それは、いまの時代の読み書き算盤の類であろう。エンジニアであれば、モダンITは、もはやリテラシーであるべきだ。

いまの時代に愚直に向きあえば、何も特別な人材を育てようという話しではない。時代の潮流を受け入れて、自らの知識やスキルをアップデートすれば良いだけの話しだ。確かに、それができない人たちが多いから、こんな言葉を持ち出し、大騒ぎしなくちゃいけないのだということは分かる。しかし、経営者や人材育成に関わる人たちは、もっと冷静にこの現実を見るべきだ。

「いまの当たり前に真摯に向きあえ」

それだけのことであろう。しかし、これを難しく考え、あるいは、難しくして、商売のネタにしようとしている人たちも多い。そんな言葉に惑わされてはいけない。

DX人材」あるいは「デジタル人材」を採用しよう、育てようということよりもむしろ、自分たちの事業の存続と成長のために、いかなる課題を解決すべきかに真摯に向き合うべきだ。いまの時代、それは自ずと、「デジタル前提」となる。

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そのために必要な人材を育て採用すれば良い。例えITの知識、あるいはITエンジニアリングのスキルがあっても、ビジネスに執着がない、あるいは、ビジネスの変革に情熱がないとすれば、その人たちだけで、ビジネスは機能しない。

難しく考えるべきではない。素直に現実を直視すれば良い。現実を見ることをせず、頭だけで考えるから、「DX人材」あるいは「デジタル人材」などという、現実離れした妄想をいだくのではないか。

当たり前に、新幹線や飛行機を使いこなせる人材こそが、まずは必要だ。もちろん、新幹線や飛行機を作る人間も必要だ。それらをごちゃ混ぜにして、ひとつの型にはめてはいけない。「DX人材」も「デジタル人材」、あるいは、「DX」も「デジタル」も、思考停止のためのスイッチにしてはいけない。大切なことは、いまのデジタル前提の時代に適応するために、ビジネス・プロセスやビジネス・モデルを変革することが大切なのであって、それは、ビジネス・パーソンのリテラシーであろう。

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【11月度のコンテンツを更新しました】
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・デジタルトランスフォーメーションの本質と「共創」戦略(DXの基本) *タイトルを変更しました。
・最新のITトレンドとこれからのビジネス戦略(総集編) *総集編とITベンダー向けの最新トレンド・パッケージ資料を集約しました。
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ビジネス戦略編・DX
*資料全体を再編しました。
【新規】イノベーションとデジタル p.19
【改訂】デジタル化とDXの違い p.28
【新規】DXの目的 p.40
【新規】「文化や風土を変える」とは具体的に何を変えるのか p.43
【改訂】DXの公式 p.44
【新規】「デジタルを前提に既存事業を再定義する」とは? p.45
【新規】共創とデジタル産業 p.172
【新規】事業構造の転換 p.173
【新規】SI事業者/ITベンダーのDX戦略と求められる人材 p.174
【新規】求められる戦略の転換p.188
【新規】「作らない技術」は、事業部門や経営者が意志決定者 p.189
【新規】DXは何を目指すのか p.190
【新規】テクノロジーを実装する3つのステップ p.194
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】IoTがもたらす2つのパラダイム・シフト p.27
【新規】デジタルツイン:サービス間連携による新規価値の創出 p.29
【新規】モノのサービス化:収益モデルの転換 p.49
サービス&アプリケーション・先進技術編/AIとデータ
【新規】「弱いAI」と「強いAI」 p.10
【新規】人工知能の分類 まとめ p.16
【新規】人工知能の一義的定義はない p.16
【新規】AIにできること p.20
【新規】人工知能の進化 p.21
【改訂】自動化と自律化の領域 p.46
【新規】機械学習とは p.105
【新規】ニューラル・ネットワークとは p.106
クラウド・コンピューティング 編
【新規】クラウドを使う理由 p.28
【改訂】誤解3 コストは下がらない p.41
【新規】クラウド利用の3原則 p.42
【新規】サーバーレスと仮想マシン p.149
ITインフラとプラットフォーム 編
【改訂】物理システム・仮想化・コンテナの比較 p.73
【新規】コンテナの動作原理 p.74
【新規】コンテナのネットワーク接続 p.75
【新規】コンテナとハイブリッド・クラウド/マルチ・クラウド p.79
開発と運用 編
【新規】ITの変化とビジネス対応 p.13
【新規】ローコード/ノーコードによる役割の変化 p.114
下記につきましては、変更はありません。
 サービス&アプリケーション・基本編
 クラウド・コンピューティング編
 ビジネス戦略編・その他
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