自分の言葉で説明できる人を採用基準とする
「自分の言葉で説明できる人を採用基準の1つとして、大切にしています。」
あるITベンチャーの社長から、こんな話を伺った。
「求められる技術は変わります。でも、そういう技術の本質を理解していれば、変化にも対応できます。本質を理解しているかどうかは、説明できるかどうかで、おおよそ分かります。」
仮想化とコンテナの違い、ゼロ・トラスト・ネットワークは何か、なぜアジャイル開発がこれほど注目されているのか、などを自分の言葉で説明できる。それは、ものごとの本質を理解していることの、ひとつの証明であることは、紛れもない事実だ。
アジャイル開発に取り組んではみたが、成果をあげられず、「アジャイル開発はSIビジネスに向かない」とか、「アジャイル開発には向き不向きがある」といった、失敗の言い訳を聞くことがある。しかし、そのほとんどは、アジャイル開発の本質を理解せず、手法だけを真似て失敗している。
本質が分かっていれば、失敗した原因を本質に照らし合わせて、理解できるので、改善の筋道が直ぐに分かる。しかし、本質を理解しないままに、手法だけを真似ても、その原因が分からないし、改善は見込めない。そのあたりの事情は、以下の記事で述べているので、ご覧頂きたい。
手法を真似ただけのアジャイル開発、業務をデジタル化しただけのDX
変化の激しい世の中にあって、手法やツール、あるいはそれを支える技術は、急速な勢いで進化し、また、新しいサービスやツールも数多く登場している。いまの常識はあっという間に新しい常識に上書きされる。そこには、そうなる理由、あるいは必然がある。それが本質だ。それが分かっていれば、新しい技術が登場しても、今後の本命となるのか、その先にどのような常識が登場するかも分かるだろう。
ITトレンドについての講義をして、クラウド・コンピューティングの役割や可能性について解説をした後、次のような質問を頂くことがある。
「クラウドの素晴らしいことは分かりましたが、欠点や弱点はないのでしょうか。」
ガッカリする。自分の説明の未熟を大いに恥じる。
私は、クラウドが素晴らしいなどと説明したかったわけではないし、心がけて、そんな説明はしないようにしている。しかし、それでも、いま自分たちが関わっているオンプレミス・サーバーと比較して、クラウドの向き不向きを考え、どう使い分ければいいかを教えて欲しいというわけだ。
もちろん実務の現場で、この問いに答えることは大切だ。しかし、なぜクラウドが登場したのか、なぜいまこれほどまでにクラウドへのシフトが加速しているのか、クラウドのもたらす可能性について、これだけ語っているのだから、向き不向きなどどうでもいいと気付いて欲しい。
どうすればクラウドの価値を最大限に発揮できるかという視点に立ち、弱点があれば、どのように克服すればいいかを考えるべきだろう。その上で、どうしてもクラウドだけでは解決できないところが残るわけで、それがオンプレミスの適用領域となる。
簡単に言えば、クラウド・ファーストを前提に、クラウドの抱える弱点を克服するやり方を考えることだ。オンプレミスを前提に、クラウドをどのように付加すればいいのかではない。
そうせざるを得ない事情がある、クラウドでなければならない事情がある。それを説明できるかどうかで、クラウドの本質が分かっているかどうかが分かる。クラウドの弱点は、クラウドを使いこなすための課題であり、それをどのように克服すればいいかと考えるべきだろう。そのための知恵は、既に多くの人たちが提案している。それでもやはり克服できないこと、例えば、遅延時間の問題やローカルで大量のデータを処理しなくてはならない場合など、オンプレが有効な場合がある。つまり、クラウドの価値を最大限に引き出すための手段の1つとして、オンプレを使うことが、いまの時代にもとめられているのだ。
そんなクラウドの本質が分かれば、コンテナ、サーバーレス、ゼロ・トラスト・ネットワークの説明もできるようになる。なぜなら、本質というのはものごとの根幹をなす原理原則だからだ。これらは、全て同じ方向を向いて進化し続けている。
機能や手法、サービスやツールの表面的な違いではなく、なぜその違いが生じるのか、なぜいまそれらが登場してきたのかを掘り下げて理解する努力をし、それを説明できるようになれば、加速する変化のスピードに戸惑うことなどないのだ。本質とは、そう言うものだ。
明日、10月6日(水)から、ITソリューション塾・第38期が開講する。私が、この塾で13年間、一貫して大切にしているのが、まさにこの『本質を説明する』ことだ。それこそが、ビジネスの成果にとって、あるいは自分の成長にとって、最も有効な栄養源であると思っている。