優秀な人材がいなくなってしまう前にやっておくべきこと
AIが職業を奪ってしまうかどうかについては、確たる知見があるわけではないようだ。
しかし、ITにかかわる仕事について言えば、開発や運用の多くの場面で、これまでは当たり前に人間が担っていた仕事をAIや自動化が置き換えてゆくことは、確実であろう。
歴史を振り返れば、COBOLやPL/Iなどの手続き型言語が、JavaやC++などのオブジェクト指向言語に置き換わり、ミドルウェアやパッケージ、開発フレームワークの普及によってアプリケーションの開発や保守の生産性は大幅に向上した。また、運用自動化ツールやクラウドの普及は運用の工数を減らしてきた。
それでも、工数需要が決定的に減ることがなかったのは、大手金融機関や官公庁、あるいは、企業の情報システム部門が、旧来からのシステムを変えようとしなかったからだ。大きな新規開発投資はできるだけ控えて古いシステムを保守で延命させようとしてきたことも理由のひとつ。また経営者も情報システムを「既存業務の生産性向上・コスト削減・期間短縮」のための手段として捉え、根本的な変革を求めてこなかったこともある。
ただ、生産性の向上のスピード以上に情報システム需要が増大し、テクノロジーの進化が、このスピードを追い越すことができなかったこともある。しかし、もはやこの状況は変わった。AIやクラウドの進化は自動化のペースを加速し、開発・運用・保守などの「知的力仕事」に人間が関与する範囲を狭めつつある。
さらに昨今、ビジネスの差別化や競争優位の武器としてITを活用しようという気運が高まりつつある。「ビジネス・スピードの加速、価値基準の転換、新ビジネスの創出」のためにITを活用しなくては生き残れないことに経営者や事業部門の人たちが気付き、その対応を加速し始めている。「内製化」が注目されるのは、そんな背景があるからだ。
前者はコストとしての情報システムであり、少しでも削減しようというモチベーションが働く。後者は、投資対効果を求める情報システムであり、ビジネスの成果に結びつくのであれば積極的な投資を厭わないといった違いがある。継続的な成長と利益の安定的確保を望むのであれば、もはや選択肢は後者にしかない。
少子高齢化が避けられない現実を考えれば、旧来の開発や保守、運用に関わる要員を少しでも減らし、ビジネスとITの一体化により圧倒的な競争優位を築くための「攻めのIT」へと、人材をシフトしてゆくしかない。そうなれば、「これまでのやり方」ではもはや対応できなくなることは自明だ。当然、求められるスキルも変わり、収益のあげ方も大きな転換を迫られる。
さらに「働き方改革」も待ったなしの状況だ。旧態依然としたやり方を変えられない、あるいは変えたくない企業にとっては致命的だ。
単純に「時短=>稼働時間の減少=>工数収入の減少」といったビジネス構造の問題に留まらない。そこに働く人たちの生き方の本質に関わる問題だ。「自分の人生を全うするためには、この会社では働けない」といった事態になれば、変革を進めようにもその担い手を確保できなくなってしまう。コロナ禍になって、企業のリモートワーク対応に、あらためて自分たちの会社の本音を見た企業も多いだろう。
「働き方改革」はテクノロジーの進化と深く関わっている。テクノロジーの進化により、AIや自動化は既存スキルの不良資産化を加速し、人生の「旬」の期間を短縮させてしまった。合わせて、ライフスタイルや医療・衛生・栄養の改善が高齢化を助長し、100年人生は特別なことではなくなろうとしている。そうなれば、単一スキル/単一キャリアでは、自分の長い人生の期間を「社会に必要とされる存在」であり続けることは困難だ。マルチスキル/パラレルキャリアへの転換を模索せざるを得ない。
行き着くところは、「クロスオーバー人材」へと役割を拡げてゆかなければならない。それは、異なる分野の物事を組み合わせて新しい物事を作り出せる人材だ。心ある人たち、特に優秀な人材は、そんな「環境」が与えられている企業へと移動してゆく。
ここでいう「環境」とは、労働時間のことだけではありません。兼業や副業、在宅勤務やリモートワークといった「多様な働きかたの許容」に加え、業績評価や人事制度、そして何よりも事業目標や経営理念そのものの転換をも迫られることになる。
「改革を進めようと思ったら、担い手がいなかった」
そんなことにならないうちに対策を進めなくてはならない。
稼働率は上がっているが、利益率は上がらない。こんな企業の本質的問題は、自分たちの提供するサービスに差別化できる付加価値がないことだ。企業価値の「旬」が過ぎてしまったのだ。そうなれば、利益を度外視してでも稼働率を上げ、キャッシュフローを維持するしかない。しかし、この状況がそう長続きすることはない。だからビジネス構造の転換が求められているわけだが、改革の担い手がいなければ、それもすすめられない。
会社を成長させるために社員を選ぶ企業から、社員が成長できる環境を提供し、社員に選ばれる企業へと転換する。
DXのかけ声の下、事業会社のシステム内製は熱を帯びている。その背景にあるには、クラウドや自動化の範疇の拡大であり、アジャイル開発やDevOps、コンテナやサーバーレスなどの「作らない技術」の普及だ。それは、情報システムを外注に任せるという常識を置き換えようとしている。
いま、IT企業から内製化を支える要員の転職がこれまでになく増えていると聞く。改革の担い手となる優秀な人材がいなくなってしまう前に、大鉈を振るうべきだろう。コロナ禍は、この変化を加速していることは、間違えないだろう。
【募集開始・特別補講の講師決定】次期・ITソリューション塾・第38期(10月6日〜)
次期・ITソリューション塾・第38期(10月6日 開講)の募集を始めました。
ITソリューション塾は、ITのトレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、そんなITに関わるカルチャーが、いまどのように変わろうとしているのか、そして、ビジネスとの関係が、どう変わるのか、それにどう向きあえばいいのかを、考えるきっかけになるはずです。
また、何よりも大切だと考えているのでは、「本質」です。なぜ、このような変化が起きているのか、なぜ、このような取り組みが必要かの理由についても深く掘り下げます。それが理解できれば、実践は、自律的に進むでしょう。
- IT企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
そんな皆さんには、きっとお役に立つはずです。
特別補講の講師決定:
成迫 剛志氏/株式会社デンソー デジタルイノベーション室 室長
「なぜデンソーは、ソフトウエア・ファーストに取り組むのか」
デジタル技術の発展は、企業の競争原理を大きく変えつつある。自動車業界は、その最前線だ。まさにその最前線で、変革の先頭に立つ成迫さんに、彼らの戦略や苦労の数々を伺う。ITベンダー/SI事業者の皆さんにとっては、お客様の戦略の核心を知ることになるはずだ。そして、DXとは何かの本質についても、現場目線で改めて知ることになるだろう。
特別講師の皆さん:
実務・実践のノウハウを活き活きとお伝えするために、現場の最前線で活躍する方に、講師をお願いしています。
戸田孝一郎氏/お客様のDXの実践の支援やSI事業者のDX実践のプロフェッショナルを育成する戦略スタッフサービスの代表
吉田雄哉氏/日本マイクロソフトで、お客様のDXの実践を支援するテクノロジーセンター長
河野省二氏/日本マイクロソフトで、セキュリティの次世代化をリードするCSO(チーフ・セキュリティ・オフィサー)
最終日の特別補講の講師についても、これからのITあるいはDXの実践者に、お話し頂く予定です。
- 日程 :初回2021年10月6日(水)~最終回12月15日(水) 毎週18:30~20:30
- 回数 :全10回+特別補講
- 定員 :120名
- 会場 :オンライン(ライブと録画)
- 料金 :¥90,000- (税込み¥99,000) 全期間の参加費と資料・教材を含む
詳細なスケジュールは、こちらに掲載しております。