知っているつもりの知識から使える知識に変えてゆく
2008年からはじめた「ITソリューション塾」は、今年で13年目を迎えた。当時、「クラウド・コンピューティング」は、"特別"な存在だった。
What's interesting [now] is that there is an emergent new model, and you all are here because you are part of that new model. I don't think people have really understood how big this opportunity really is. It starts with the premise that the data services and architecture should be on servers. We call it cloud computing - they should be in a "cloud" somewhere. And that if you have the right kind of browser or the right kind of access, it doesn't matter whether you have a PC or a Mac or a mobile phone or a BlackBerry or what have you - or new devices still to be developed - you can get access to the cloud. There are a number of companies that have benefited from that. Obviously, Google, Yahoo!, eBay, Amazon come to mind. The computation and the data and so forth are in the servers.
Eric Schmidt, 6.Mar.2006, "Search Engine Strategies Conference @ San Jose, CA
"(新しいモデルは) データサービスとアーキテクチャはサーバー上にあるべきだという前提から始まる。これをクラウドコンピューティングと呼ぼう - 「クラウド」のどこかにあるべきなのだ。適切なブラウザ、あるいは適切なアクセス手段があれば、PC、Mac、携帯電話、ブラックベリー、その他あらゆるものから - あるいは、まだ開発されていない新しいデバイス - クラウドにアクセスできる。"
エリック・シュミット、2006年3月6日、サーチエンジン戦略会議、米カリフォルニア州サンノゼ
当時、GoogleのCEOであったエリック・シュッミットで語ったこのメッセージが、「クラウド・コンビューティング」という言葉を広めるきっかけになったとされている。「クラウド=雲」とは、「ネットワーク」あるいは「インターネット」を描くときに、一般的に雲の絵を使っていたことから使われた言葉だ。つまり、「ネットワークにつながり、ネットワークを介して使うコンピューティング環境」という意味だ。
クラウド・コンピューティングの最初のサービスは、2006年3月からサービスをはじめたAmazon Simple Storage Service(S3)である。その後、2006年8月にAmazon Elastic Compute Cloud(EC2)がサービスを開始した。実際には、2004年11月にAmazon Simple Queue Service(SQS) βがリリーススされているので、こちらが最初だという話もある。ただ、一般的には、Amazon S3がサービスをはじめた2006年3月14日をクラウドの始まりという場合が多い。ただ、Salesforse.comが、はじめてサービスをはじめた2000年4月を最初だという人たちもいるので、まあ、いろいろある。いずれにしても、まだ、「クラウド・コンピューティング」ということばが、使われる以前から、いまで言う「クラウド・コンピューティング」があったわけだ。
そんなAmazon S3から2年後にはじめたITソリューション塾のころには、「何か凄いモノが登場したぞ!」程度の話題であったような気がする。昔の講義資料を見ると、もうそんな時期から、ITソリューション塾では、「クラウド・コンピューティングとは何か」を解説していたようだ。そして、その可能性について、あるいは、ITベンダーのビジネスにどのような影響を与えるのかを解説している。
その後、各社各様にクラウド・コンビューティングについての解釈や定義が流布し、混乱の様相を呈した。そんな中、2010年11月に米商務省配下の研究機関であるNISTが「クラウドの定義/The NIST Definition Cloud Computing(ドラフト)」をリリースし、いまは当たり前に使っているSaaS、PaaS、IaaSやパブリック・クラウドやプライベート・クラウドなどの言葉の定義が、定着してゆくことになる。わずか2ページの文章だが、その後のクラウドの定義を標準化した。
そして、いまや「クラウド・コンビューティング」は、"普通"の存在、あるいは、"前提"となった感がある。改めて、過去の教材をふり返れば、こんな時代の到来を早い段階から指摘し、ITベンダーは、クラウド・サービスをいち早く使って、知見を貯めて、来るべき時代に備えるべきだと指摘していたようだ。
いま、同様に「DX」が、"特別"な存在として、世間で騒がれている。" 特別" とは、「意味がよく分からない、様々な解釈がある、しかし、まだまともに実践には供していないので、やっぱり本当のところは分からない」といった状況であろう。
いま、ITソリューション塾では、これらの言葉を丁寧に説明している。当時「クラウド・コンビューティング」で説明していたように、その歴史的背景やビジネスや社会に与える本質的な変化を解説するようにしている。
例えば、2004年にエリック・ストルターマンが語ったDXと2010年代にガートナーやIDC、IMDが語ったDX(正確には、デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション)は、何が違うのかを歴史的な背景や、その意図を解きほぐしながら解説している。
この両者は、実質的に別のことを言っている。もちろん、それぞれの言葉が語られた背景に共通するものはあるが、前者は広く「社会全般に起こる変化」を語ったものであり、後者は、ビジネス環境や競争原理の変化、それに企業はどう対処するかと言った「ビジネス変革」について語っている。
AIやIoTもまた、然りであろう。そういう言葉を知って、知った気になることで、安心することは、精神衛生上、健全であり自然であろう。しかし、言葉を知って、知ったつもりになっていても、ビジネスに使うことができないのは、言うまでもない。本質や価値、役割や使い方もふくめ、自分言葉で説明できる程度の"知っている"が必要だ。
10月6日より、ITソリューション塾・第38期が開講する。次期もまた、これまで基本的な理念を踏襲し、"知っているつもり"を"知っている"と、自信を持って説明できるようになることを目指して、講義を行うつもりだ。
そうそう、本塾が開講した当初とは大きく変わったこともある。それは、ITビジネスの最前線で活躍するトップレベルの講師から実践的なノウハウを学ぶ機会を作ったことだ。最前線、最先端の立場のIT企業の専門家やITコンサルから、テクノロジーやスキルの最前線を伺い、どのように実践に活かして行くのかを語ってもらう。また、先進的な取り組みをされているユーザー企業の方から、その体験と苦労、あるいは、実践の勘所を学ぶ。
知っているつもりの知識から、使える知識に変えてゆく
そんな、ITソリューション塾・第38期に、よかったらご参加下さい。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第38期(10月6日〜)
次期・ITソリューション塾・第38期(10月6日 開講)の募集を始めました。
ITソリューション塾は、ITのトレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、そんなITに関わるカルチャーが、いまどのように変わろうとしているのか、そして、ビジネスとの関係が、どう変わるのか、それにどう向きあえばいいのかを、考えるきっかけになるはずです。
また、何よりも大切だと考えているのでは、「本質」です。なぜ、このような変化が起きているのか、なぜ、このような取り組みが必要かの理由についても深く掘り下げます。それが理解できれば、実践は、自律的に進むでしょう。
- IT企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
そんな皆さんには、きっとお役に立つはずです。
特別講師の皆さん:
実務・実践のノウハウを活き活きとお伝えするために、現場の最前線で活躍する方に、講師をお願いしています。
戸田孝一郎氏/お客様のDXの実践の支援やSI事業者のDX実践のプロフェッショナルを育成する戦略スタッフサービスの代表
吉田雄哉氏/日本マイクロソフトで、お客様のDXの実践を支援するテクノロジーセンター長
河野省二氏/日本マイクロソフトで、セキュリティの次世代化をリードするCSO(チーフ・セキュリティ・オフィサー)
最終日の特別補講の講師についても、これからのITあるいはDXの実践者に、お話し頂く予定です。
- 日程 :初回2021年10月6日(水)~最終回12月15日(水) 毎週18:30~20:30
- 回数 :全10回+特別補講
- 定員 :120名
- 会場 :オンライン(ライブと録画)
- 料金 :¥90,000- (税込み¥99,000) 全期間の参加費と資料・教材を含む
詳細なスケジュールは、こちらに掲載しております。