「志麻さんの台所ルール」は営業のバイブル
お客様の台所に立ち、3時間で15品を超える絶品の"作り置き"を仕上げる手腕が人気の伝説の家政婦・タサン志麻さんの著書「志麻さんの台所ルール」は、素晴らしい本でした。
料理のレシピ本ではないけれど、料理に向きあう考え方や基本的なルールを教えてくれます。例えば、こんな具合です。
「料理には「レシピに書けないこと」が山ほどあるということ。最近のレシピは特に、「より短く、簡潔に」という傾向になっています。「なぜこの工程を経るのか」が書かれていないので、おいしくするポイントをはずしてしまう。でも、ポイントさえわかっていれば、いつもの料理でもおいしく作ることができます。自分で応用することもできるので、新しく特別なレシピを覚えるよりも一生ものの知恵になるんです。」
この考え方は、どんな仕事にも共通する原理原則でしょう。
彼女は、お客様の台所に立ち、冷蔵庫を空け、どんな食材や調味料があるかを一瞥し、そこで何を造るかを考えるそうです。まさに、この原理原則が身体に染みついているからこそ、できることだと思います。また、こんな記述もありました。
「長い間、私はフランス料理の料理人として厨房で働いてきました。その間、レシピを見ながら料理を作るということはほとんどありませんでした。シェフがどのように素材を切り、どのくらい塩をふって、どんな火加減で焼くのか、〝見て〞覚えるのです。そして、どうしてシェフはこのようにするのだろうと〝考える〞のです。その繰り返しで料理を覚えていき、体にしみこませ、理解していくことができました。」
〝見て〞〝考える〞を繰り返し、彼女は何を見つけ出そうとしているのかといえば、それは「パターン」だと思います。
まずは、〝見て〞料理を構成している材料や調理方法などの抽象化された要素を抜き出し、〝考える〞ことで、これらの最適な組合せのパターンを見つけ出しているのでしょう。だから、「お客様の台所に立ち、冷蔵庫を空け、どんな食材や調味料があるかを一瞥」するだけで、何を造ればいいのかを直ぐに思いつくことができるわけです。
このような能力は、優秀な営業になれるかどうかの条件でもあります。
お客様の話しを聞いて、このお客様の課題は何かを直ちに見極め、それにふさわしい解決策のパターンを直ぐに見つけ出すことができれば、「こうすればどうですか?」と直ちに言うことができます。
沢山のパターンを持っていれば、完璧とは言えないまでも、お客様の期待に、短時間で近づくことができるでしょう。また、違ったとしても、別のパターンを示すことができますから、お客様もまた身を乗り出して、この問いかけに応えようとしてくれるはずです。
営業力とは、結局のところ、お客様についての情報を〝見て〞、話しを聞いて、抽象化し要素分解し、〝考える〞ことでパターンを見出すことを繰り返すことで、磨かれてゆくのだろうと思います。
「見る」能力を養うには、課題から考えることをこころがけることでしょう。お客様の理想とする、あるいは実現したい「あるべき姿」とは何か、「現状」はどうなっているか。この「あるべき姿」と「現状」とのギャップが「課題」です。
まずは、現状、すなわち、いまの自分たちやお客様にできることや体制、マインドセットなどの制約を一切棚上げし、「あるべき姿」、すなわち何を目指すべきかを徹底して議論することです。その上で、「現状」を棚から下ろして、先入観を捨ててギャップをあきらかにしてゆきます。
このような思考プロセスを心がけることで、ギャップを構成する要素を抽象化し、本質を見極めることができるようになります。ちなみに、ギャップを埋めるための物語が戦略です。
一方で、自分たちの提供できる製品やサービスといった解決策ありき、あるいは、現状の制約ありきでは、解決策の発想は限定され、成果もまた限定的になってしまいます。解決策に囚われ、その範囲の中で解決しようとしても、「あるべき姿」の達成は難しいでしょう。当然、お客様に提供できる価値も限定されてしまいます。お客様の納得も満足も得られません。
自分たちの製品やサービスを売らなくてはいけないというプレッシャーは、営業なら誰しも持っているものですが、まずは、この想いから自分を解き放ち、徹底して、お客様の幸せ、つまり、実現すべき「あるべき姿」を考え抜くことです。そこからはじめなくてはなりません。
次に「考える」能力ですが、次のような思考プロセスを心がけることで、磨かれていくでしょう。
- 重要と思われるファクトを集め、カテゴリーに分けて整理する
- これまでの経験に照らして、そのファクトと似ている事例を引き出す
- その事例についての解決策の選択肢を、3つ程度洗い出し、どれが良さそうかを議論する
これらのことを実践すれば、パターンの在庫を増やしてゆくことができます。
もうひとつ心がけておくべきは、自分の知識や経験の枠組みを越える努力です。つまり、自分の会社や担当するお客様の枠組みを超えて、パターンを持つことです。
そのためには、多様な価値観を持つ人たち、あるいは、違う会社の人たちとの付き合いを拡げることです。あるいは、1つの会社や職場に留まらず、転職や出向、配置転換を自らの意志で重ねることも1つのやり方です。また、仕事に直接役に立つ、立たないにわらず、本を読み、勉強会や学校に通うことです。そうやって、広い視点で沢山のパターンを持つことを心がければ、営業力は磨かれていきます。
余談ながら、この考え方は、ディープラーニング(深層学習)の原理と同じです。大量のデータから、ものごとを抽象化された要素に分解し、それを再構成する過程で、分類、整理するパターンを見つけ出すためのアルゴリズムです。ディープラーニングが凄いのは、かつては人間にしか持ち得なかった、このような能力を機械が持とうとしているということでしょう。
「志麻さんの台所ルール」は、営業力の本質に気付かせてくれる1冊です。営業×料理好きのあなたは、読むべき1冊ですよ。
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