デジタル・リテラシーの3つのレベルとDX人材
「デジタル・リテラシー」あるいは「ITリテラシー」という言葉を、目にする機会が増えました。デジタル・リテラシーとは何か、そして、DX人材との関係について、整理してみようと思います。
まず、「デジタル・リテラシー」について、3つのレベルにわけて考えてみようと思います。
レベル1:基礎は、デジタルの役割や価値を理解しているレベルです。それらをどう使えば、業務を改善できるのか、業績に貢献できるのかを理解できる程度の知識を持つことです。自分でデジタルを使った仕組みを作れなくても、作れる人たちと会話でき、その価値やリスク、自分たちは何をしなければならないのかを理解できるレベルです。もちろん、スマホやパソコン、zoomやTeams、Slackなどのオンライン・サービスを使えることは前提になるでしょう。
次のレベル2:実践は、自分でシステムを作れる程度のスキルを持っているレベルです。もちろん、高度なプログラム言語を駆使して、システムを開発する必要は、かならずしもありません。クラウド・サービスをうまく組み合わせれば、自分の業務に関わる仕組みくらいなら、作ることはできます。最近は、ローコード開発ツールが充実してきましたから、かなり高度なことまで、業務の最前線の人たちが、自分で作ることもできるようになりました。
業務の現場の当事者こそが、業務をどうすればいいのかを一番よく知っています。その人が、他人に説明して作ってもらうことなく、自分で作れば、あるいは日々の改善ができれば、ビジネス・スピードは、当然早くなります。
最後のレベル3:専門は、プログラム言語やシステム・コマンドを使いこなし、システムの設計や開発、運用などができるなどの専門的なスキルを持っているレベルです。エンジニアと言われるITの専門職の人たちです。但し、ITといっても「昔ながらのIT」しか使えないエンジニアでは、DXに取り組むのは、難しいでしょう。アジャイル開発、DevOps、クラウド、サーバーレス、コンテナ、マイクロサービスなどの「モダンIT」に精通していることが前提になります。
もちろん、「昔ながらのIT」に意味がないとか、価値がないとか言いたいわけではありません。むしろ、業務の根幹は、そんなITに支えてられているわけですし、それがなくなることもありません。しかし、テクノロジーの進化は、日進月歩です。当然、「モダンIT」を前提にしなければ、できることもできませんし、コスパも悪くなります。また、「昔ながらのIT」と「モダンIT」では、前提となる文化や感性が違いますから、その違いを正しく理解しなければ、うまく使いこなすことはできません。
両方を使いこなせるならば、それが一番です。ただ、なかなかそれは容易なことではありません。お互いが理解しあい、敬意を持って協力して使いこなしてゆくことが大切だと思います。
そういう意味で、私は「昔ながらのIT」のことを、敬意を込めて「レガシーIT」と呼ぶことにしています。
どのレベルのリテラシーを持つべきかは、立場や役割によって違うでしょうが、こういう3つのレベルで捉えれば、育成や採用の戦略も立てやすいのではないかと思います。ただし、少なくとも全社員をレベル1にすることは、最優先で取り組むべきではないかと思います。
レベル1のリテラシーもなければ、古き良き時代の方法論や発想でしか考えられませんから、デジタルの価値を全社に浸透させるときの、足かせとなります。
このような話をすると、「私は昔の人間だから、こういうことはよく分からなくて」とか、「あまりにも変化が早いのでついていけない」などと言い訳をする人がいます。しかし、それは、新幹線があるのに、東海道本線の鈍行で大阪に行きますと言っているのと同じです。趣味で楽しむならいいのですが、このようなことを平気で言うというのは、「私はビジネスに興味がない」と言っているようなものですから、やめておいた方が良いと思います。
全員が、新幹線を作れるレベル3になる必要はありません。せめて新幹線の経路や速さを知り、その乗り方や到着時間を知っている程度のレベル1になっておかなければ、仕事にならないとの自覚は、持ってほしいものです。
また、デジタル・リテラシーを持っているから、それがDX人材であるという解釈に、私は賛同できません。そもそも、企業文化やビジネス・モデルの変革を目指すことで、業績を改善することが、DXなわけです。ここで述べたとおり、デジタルは前提ですが、それは手段であり、ビジネスの仕組みの前提にすぎません。それを事業や経営に結びつけるとなると、経営や事業についての知識や能力、ファシリテーションや組織運営の能力も必要です。
DX人材とは、次のようなイメージではないかと思っています。
「DXに取り組む」とか、「DXを実践する」は、大いにけっこうですが、この前提なくして、すすまないことだけは、確かだと思います。