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事業会社が内製化を拡大しているのはSI事業者に頼れないから

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いま、お客様の内製化が拡大しているのは、時代遅れのSI事業者への憤りであり、自分たちで何とかしなければ、大変なことになるとの危機感が起点にある。

いろいろなビジネスでいえることであるが、それを立ち上げた当初は、「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」を生みだそうと知恵を絞り、工夫をする。やがて、これぞという方法が見えてくる。それをメソドロジーとして標準化することで、安定的なビジネスの基盤が、できあがってゆく。あとは、改善を繰り返し、コスパを高め、ビジネスをスケールさせてゆく。もちろん、それがビジネスとして成り立つと分かれば、競合も登場する。そんな競合との切磋琢磨が、「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」のコスパをさらに向上させ、大きな市場が築かれてゆく。

メソドロジーが確立される前は、属人的なところが多いが、標準化が進めば、工夫は、自動化や省力化に向かう。それがコスパを高め、競合に対する優位を築く有効な手段になる。機能の競争は、一定の段階を超えれば、絶対的な差別化にはならない。基本的なこと、必要とすることの大半に、まずは取り組むだろうから、その部分で、どこも差がなくなってしまい、それ以外のところ、すなわち「付加価値」的な部分での競争となる。そうなると競争は、宇宙の彼方、地上からは遠い世界での戦いになる。コモディティ化、すなわち「なくては困るが、どれを使ってもあまり変わらない」という状況に向かう。

いまのITビジネスの多く、特にSI事業は、このような、「行き着くべきところにまずは行き着いた」状況にあるのだろう。

かつて、インフラを構築し、ミドルウェアなどのプロットフォームを整備し、アプリケーション・プログラムを開発することが、SI事業の生業だったわけだが、もはやその必要ない。それらは、クラウド・サービスとして、既に一通り用意されているのだから、なぜ、一から作る必要があるのだろうか。もうそんな時代ではない。

あらためて、原点に立ち返れば、「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」は、自分たちの業務課題を、いち早く解決することであったはずであり、それはいまも変わらない。そのために「ITサービス」を必要としたわけだ。注意すべきは、「ITサービス」であって「ITシステム」ではないということだ。

ITサービス」が課題を解決するが、そのために、かつては、インフラ、プラットフォーム、アプリケーションといった「ITシステム」を「自前で所有する」しかなかった。しかし、クラウド・サービスの充実と普及によって、「自前で所有する」必要がなくなったわけで、むしろそうしない方が、遥かにコスパが高い。しかも、機能や性能の向上、トラブルへの対応、運用管理といった、どちらかというと「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」に附帯する手間やコストは、全て任せることができる。こんな世の中になってしまった。

それにもかかわらず、これまでのメソドロジーをそのままに、クラウドへの対応を考え、それで何とかこれからをしのごうとしているSI事業者がまだまだ多い。

この現実に対する顧客の苛立ちが、顧客企業における内製化の拡大だ。つまり、内製化とは、いまの当たり前に対応できないSI事業者に見切りを付けて、自分たちで何とかしようとする施策である。いや、そうしなければヤバイと感じているからだ。だから、内製化は、当然ながら、SI事業者の競合になる。

システムを作ることに拘る限り、SI事業に未来はない。当然のことだ。「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」、すなわち、「ITサービスをいち早く手に入れる」ための手段は、クラウド・サービスを使うことの方が、遥かにコスパが高いからだ。

くどいようだが、お客様が手に入れたい価値は、「ITサービスをいち早く手に入れる」である。その最善の策は、自分たちで作ることではなく、既にあるものをうまく組み合わせることだ。つまり、「作らないないこと」が最善の策になる。SI事業者のビジネスの前提をここに移さなければ、有効な施策など、生まれてくるはずはない。

かつてSI事業者に求められていた「技術力」は、作るためであった。しかし、いまはもう「いかにつくらないか」のための「技術力」が求められている。サービスを目利きし、一番良い組合せや、その運用を実現する能力が、「技術力」して、評価されるようになった。また、この前提を活かし、ビジネス環境の変化に対応して高速に改善できる能力が、「技術力」として、求められている。このパラダイム・シフトを受け入れなければならない。

東京から大阪に行くのに、歩いて行く人はいない。ならば、汽車に乗ろうと、それを作ることから始める人はいない。新幹線に乗るのが、一番コスパがいいのと同じだ。なぜ、新幹線を作ることに拘り続ける必要があろうか。

DXもまた、SI事業者へのお客様からの脅しであろう。「貴方たちにはできますか」と、お客様が問いかけているも同じだ。DXの本質は、圧倒的なビジネス・スピードの獲得にある。それがあれば、市場の変化への即応や新規事業の実現も、当たり前にできるようになる。そんな圧倒的なビジネス・スピードを獲得するには、デジタルを駆使するしかない。それを高度経済成長時代の土木工事宜しく、丁寧に仕様を固め、QCDを徹底して追求し、時間をかけてシステムを構築するメソドロジーで対応できるわけがない。

残念ながら、情報システム部門の多くも、この古き良き時代の価値観から抜け出せずにいる。だから、事業部門が主導で、内製化チームを作っているのだ。

情報システム部門にしか顧客チャネルを持たないSI事業者もまた一蓮托生であり、ともに事業部門から見れば、「使えない」といった、厳しい見方をされてしまう。

あらためて、いまの時代の前提、いや常識を謙虚に受け止めるべきだろう。ITすなわちデジタル技術は、これまでにも増して、その必要性を高めてゆく。しかし、「作る」ことと捉えるのか、「使う」こととして捉えるのかで、メソドロジーは大きく変わるし、求められる技術力も違ってくる。

じゃあ、どうすればいいのか。それこそが、私が主宰する「ITソリューション塾」で、伝えていることだ。また、はじめっから、そういう頭を育てようというのが、毎年やっている「新入社員研修」で取り組んでいることだ。

ITの未来は明るいし、希望に満ちている。しかし、これまでの価値観を変えろと求められる人にとっては、メチャメチャ厳しいけれど、その前提のない新人や若手にとっては、可能性に満ちている。そのことを理解させ、彼らを未来の担い手にしなくて、いったいどうすればいいというのだ。

正しいことをやるべきだ。正しいこととは、「お客様が是非とも手に入れたいと思える価値」を実現することだ。そのために一番良いやり方は何かを、改めて問い直してみてはどうだろう。

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ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー

4月度のコンテンツを更新しました】

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・「AIとロボット」を「AIとデータ」に変更し、データについてのプレゼンテーションを充実させました。

・戦略編をDXとそれ以外の内容に分割しました。

・開発と運用に、新しいコンテンツを追加しました

・テクノロジー・トピックスのRPA/ローコード開発、量子コンピュータ、ブロックチェーンを刷新しました。

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研修パッケージ

・総集編 20214月版・最新の資料を反映

DX基礎編 改訂

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ビジネス戦略編・DX

  • 【新規】データとUXとサービス p.17
  • 【新規】デジタル×データ×AI が支える存続と成長のプロセス p.68
  • 【新規】DXとは圧倒的なスピードを手に入れること p.72
  • 【新規】IT企業とデジタル企業 p.155

サービス&アプリケーション・先進技術編/AIとデータ

  • 【新規】データの価値 p.129
  • 【新規】情報とビジネスインテリジェンス・プロセス p.130
  • 【新規】アナリティクス・プロセス p.131
  • 【新規】データ尺度の統計学的分類 p.135
  • 【新規】機械学習とデータサイエンス p.136
  • 【新規】アナリティクスとビジネス・インテリジェンス p.137
  • 【新規】ビジネス・インテリジェンスの適用とツール p.138
  • 【新規】アナリティクスのプロセス p.139
  • 【新規】ETL p.140
  • 【新規】データウェアハウス DWH Data Warehouse p.141
  • 【新規】データウェアハウス(DWH)とデータマート(DM) p.142

*「AIとロボット」から「AIとデータ」に変更しました。

開発と運用編

  • 【新規】クラウドの普及による責任区分の変化 p.25
  • 【新規】開発と運用 現状 p.26
  • 【新規】開発と運用 これから p.27
  • 【新規】DevOpsの全体像 p.28
  • 【新規】気付きからプロダクトに至る全体プロセス p.29
  • 【新規】アジャイル開発のプロセス p.37
  • 【新規】アジャイル開発の進め方 p.39

*ローコード開発については、RPAの資料と合わせてひとつにまとめました。

テクノロジー・トピックス編

  • 【改訂】ブロックチェーン、量子コンピュータの資料を刷新しました。
  • 【改訂】RPAとローコード開発を組合せた新たな資料を作りました。

下記につきましては、変更はありません。

  • ITインフラとプラットフォーム編
  • クラウド・コンピューティング編
  • ITの歴史と最新のトレンド編
  • サービス&アプリケーション・基本編
  • サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT

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