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この研修、ご辞退申し上げます

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あるIT企業から、若手営業を対象とした研修を実施したいとのご依頼を頂戴した。この会社からは、毎年同様のご依頼をいただいており、もう10年近くになる。

今年は、こんな状況になって、オンラインに切り替えたいとのことで、ならばzoomではどうかと提案をした。すると、zoomは禁止、オンプレのSkypeでお願いしたいとのことだった。

「オンプレのSkype?流石にそれは辞めましょう。」

そう申し上げたところ、それしか方法がないので、なんとしてもそれでやりたいとのことだった。しかし、話しを聞けば、数人でも画面はカクカク、音声も途切れるという。ならば、数十名の受講者が参加するこの研修で絶えられるはずがない。

そのためのバックアップに、録画できないかというご相談もあったが、これは本末転倒の話しだ。ならばSkypeでの講義はやらずに録画だけでやってはどうかと申し上げると、それは困るという。なぜ困るかと言えば、リアルタイムの研修を実施することが大切であり、録画はバックアップだからだそうだ。なんだか訳の分からない理屈である。

しかし、受講者の立場に立てば、聞くに堪えないカクカク、音声途切れの講義に我慢して1日張り付くのは、もはや拷問だ。録画を見なければ内容が分からないとなれば、時間の無駄である。

zoomにセキュリティ上の問題があるからダメだという企業は、少数ながらあるようだ。しかし、Teamsなら問題ないのか、Meetなら問題ないかと言えば、似たり寄ったりであり、どれもぜい弱性を抱えている。それでも、zoom3億人以上が使用しているわけで、世間の使用に耐えるレベルには対策が取られていると言えるだろう。

Skypeとなるとそれ以前の問題を抱えているわけで、話にならない。ついでながら、社内のネットワークかVPNしか使えないから、講師は来社いただきたいというわけで、これもまたどうかと思う。

そこまで、「セキュリティがぁ」と言うわりには、PPAPzip暗号化添付ファイル)でメールを送ってくるわけで、何がセキュリティかと思わずにはいられない。そもそも、最新のITトレンドやビジネス戦略の話しであり、内容はまるでセキュアではない。ちなみに、この研修では、「VPNやファイヤーウォールは時代遅れ、パスワードは使わないのが新しいセキュリティの常識」ということで、ゼロトラスト・ネットワークやFIDO2の話しもする。

zoomのホストはこちらでやりますから、そちらがライセンスを用意される必要はないと申し上げると、ファイヤーウォールやVDIの制約があるので使えないから無理だという。いやはや、らちがかない。

先日、ある大手製造業で、400名の新入社員を対象にオンライン研修を行った。しかし、社内で普段使っているシステムでは、品質を確保できないし、運営も難しい。そこで、研修の責任者が、自ら様々なツールを試し、Zoomで講義を行い、Teamsで質疑応答ができるやり方が一番良いという結論に達した。そして、それぞれのサービス事業者にも自ら直接交渉し協力を求め、情報システム部門や社内の関連部署にも協力を依頼、粘り強く説得して、彼らの思い描いた研修環境を準備することができた。もちろん、研修は何の支障もなく、受講者も十分に満足をしてくれたようだった。

「うちの情報システム部門が、本社が、やってくれないからダメなんだ。だから、自分たちはどうしようもない。」

研修をすることが目的なのか、若手営業の今後に資する知識と気付きを与えることが目的なのか。もし、後者が目的であるのなら、それを何とかするのが、研修を任された担当者や組織の役割であるはずだ。件の大手製造業の研修のご担当は、そんな想いで取り組まれたのであろう。研修に限ったことではなく、こういう現場の使命感と情熱が、組織を正しい方向に変えてゆくのだろうと思う。

だからといって、前者の研修担当を責めるのも、少々筋が違う気もする。むしろ、この会社の企業文化が、そうさせていると言ってもいいだろう。

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米国の法学者であり、クリエイティブ・コモンズの創設者であるハーバード大学法学教授のローレンス・レッシグは、彼の著書『CODE VERSION 2.0』にて、われわれの社会において、人のふるまいに影響を及ぼすものには、「法、規範、市場、アーキテクチャ」という4種類があると指摘している。

  • 法律:著作権法、名誉毀損法、わいせつ物規制法などは、違反者に罰則を課すことで影響を与えること。
  • 規範:社会的常識やコンセンサス、他者が自分をどのように評価するかと言ったことで影響を与えること。
  • 市場:製品の魅力や料金の高低、市場の評価やアクセス数などにより影響を与えること。
  • アーキテクチャ:暗黙の決まり事であり、行動習慣などにより、影響を与えること。

レッシグは、本人が意識するしないにかかわらず、ふるまいを規制してしまうのが、「アーキテクチャ」であること、また、その規制力を放置しておけば限りなく大きくなってしまい、行き過ぎると、結果として自由が奪われ思考停止の状態となり、人々が無自覚に振る舞ってしまうことを指摘している。

企業文化とはまさに企業に組み込まれたアーキテクチャである。つまり、あるインプットがあれば、どのようなアウトプットをするかの学習されたモデルであり、意識されることのない行動習慣といえる。業務プロセスを効率よく回す上で不可欠でもある。

Skypeしか使えないから、これでお願いします」というのは、まさにこの企業のアーキテクチャであり、企業文化の結果だ。担当者は何もおかしなことをしているとの意識はなく、いつもの通りの仕事だったのだろう。つまり、研修を阻害する原因を排除しようと考えるのではなく、会社の決めたルールに従うという思考プロセス、つまりアーキテクチャが、この企業には根付いていたからこそ、このような対応になったにすぎない。

「企業文化=アーキテクチャ」を変えてゆくのは、経営者の役割であろう。もちろん現場が自分の役割果たすために声を上げるべきは当然ではあるが、そういうことが許されない雰囲気が、この企業にあるとすると、これもまたアーキテクチャであり、もはや担当者の責任とは言えないだろう。なんとも残念な話しである。

デジタルな時代に即した企業文化への変革を実現することがDXである。まさにこのIT企業は、古き良き時代のアーキテクチャに対峙しなければならない状況に立たされているのかも知れない。

結論は出ていない。ただオンプレskypeのままでやるなら講義の品質は保てず責任を果たせないので、このご依頼は辞退させて欲しいとだけは、お伝えしている。

ちなみに、この会社のホームページには、次のようなことが書かれている。

「お客様のDXの実現に貢献します」「快適なリモートワーク環境を実現します」と。

新入社員のための最新ITトレンド1日研修(参加費 1万円)

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いまのITの常識を整理して、わかりやすく解説し、これから取り組む自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうと企画しました。お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。

オンライン(zoom)でも、ご参加頂けます。

下記日程のいずれか1日間(どちらも同じ内容です)

【第1回】2020年8月3日(月) *定員のため締め切りました*
【第2回】2020年9月2日(水) *会場は定員のためオンラインのみ受け付けています*

1万円(税込11,000円)

新入社員以外で参加されたい場合は、3万8千円(税込 41,800円)でご参加いただけます。

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