新規事業は「目的」ではなく「手段」にすぎない
自分達に「できること」をかき集め、これを素材に新規事業を検討する。このような「シーズ起点」で新規上に取り組む人たちがなんと多いことか。いま持っている事業資産、例えば、手持ちのスキルや人材、製品やサービスで「これを使って、何か新しいことはできないか」と考えるやり方だ。残念なことだが、このようなやり方は、「うまくいかないランキングのトップ」を狙うようなことだ。
このようなやり方の多くは、この事業資産がうまく使えるように自分達に都合の良い市場を創り出してしまう。そこに自分達に都合良く行動してくれる顧客を描き、それを裏付けるために統計や調査資料を都合良く解釈し、経営者を納得させるためだけの都合の良い計画を仕立ててしまう。つまり、新規事業を成功させることではなく、新規事業計画を作ることが目的と化し、想像の世界の物語ができあがってしまう。そんなことがうまく行くはずはないのだが、このようなやり方を見掛けることは多い。
新規事業は、「ニーズ起点」で発想することだ。お客様の課題、社会の課題、自社の課題、何とかしなければならない切実なお困り事を解決する最適な手段が、新規事業であるとすれば、それはものになる可能性を持っている。
まず、「何々部門にいる誰々さん」の顔が思い浮かべられるくらいに現場の当事者の姿を具体化することだ。その人が、どういうことに困っているのか、何をして欲しいのかに共感し、そこから、「あるべき姿」は何かを考える。
「あるべき姿」とは、顧客の要望をそのまま受け入れることではない。
「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは、もっと速い馬が欲しいと答えていただろう。」
自動車王ヘンリー・フォードの有名な逸話だ。当時は、自動車が普及する以前で、主要な交通手段といえば馬車だった。自動車を知らない人々は、自動車の利便性を想像できないので、「自動車を作ってくれ」などとは言わない。
お客様が、最適な手段を知っているとは限らない。だから、知識を振り絞って最適解を考える。これこそが、新規事業の核となる。もし、最適解が新規事業ではなく、既存のやり方の改善であるかも知れないし、そもそも収益性を考えれば、やめてしまった方が良いという選択肢もあるだろう。それらを押しのけて、新規事業が最適な手段であるなら、成功のチャンスは高まる。
次は、自分達にできるかできないかに関わりなく、「あるべき姿」を実現するには、「何をすべきか」を追求する。自ずと自分たちに「できないこと」が見えてくる。この「できないこと」を解決しなければ、あるべき姿を実現できないのであれば、それをどうすれば「できる」に変えられるのかを考えることだろう。人材の育成、外部からの採用、パートナー企業との提携などの選択肢があがるそれらを克服しつつ、沢山ではなく、まずは「これだけ」を厳選し、いち早くサービスを起ち上げ、小さな成果を積み上げ、改善を重ねて適用範囲や完成度を高めてゆくことだ。
昨今、新規事業開発を目的にしている組織、たとえば、新規事業開発室やデジタル・ビジネス開発室といった看板を掲げている組織が次々と作られている。そうやって、新規事業に取り組む姿勢をカタチにすることで、企業として決心を固めることに、意味はあるだろう。しかし、こういう組織は往々にして、新規事業開発を目的と考え、どうすれば「新しい事業を立ち上げられるか」に腐心する。当然ながら、経営者もまた、「新規事業の進捗はどうか」と成果を求める。ますます「早く新規事業をカタチにしなければと」と焦ってしまう。いつの間にか、「お困り事を解決すること」や「新たな必要を生みだす」などの本来の目的がどこかに置き去りにされ、新規事業という手段をカタチにすることが、目的となってしまう。
新規事業のカタチができて、経営者にその成果を報告すると、経営者は、「成果はどうか、見通しはどうか」と新規事業の責任者に問うだろう。そして、彼はこのように答える。「まずは、カタチはできました。成果はこれからです。」と。そんな新規事業に「これから」が訪れることはない。
新規事業開発に行き詰まっている方がいらっしゃるのであれば、まずは手段と目的が入れ替わっていないかを問うべきだろう。もしかしたら、何か解決の糸口を見つけられるかも知れない。
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