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「まだ大丈夫」は「後退する」と同義語

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これまでのテクノロジーの進化をたどれば、手順の決まった仕事は機械に置き換えられてきた。例えば、銀行窓口の行員はATMに置き換わり、駅員の仕事であった改札はICカードのタッチに置き換わり、コンビニのレジには店員はいらなくなろうとしている。単純な手順から始まった自動化は、より複雑な手順を置き換えようと進化し続けている。

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昨今注目されているRPARobotics Process Automation)も、いまはまだ単純なキーボードとマウスの操作の置き換えでしかないが、機械学習を組み込むことで、曖昧で複雑な状況の中で判断が必要な操作をも置き換えてゆくことになるだろう。

システム開発もまた、いま大きな転換点を迎えようとしている。これまでのシステム開発では、ビジネス課題を解決するために行うべきことを仕様にまとめ、その手順すなわちアルゴリズムを人間が考え、プログラムを書いて課題を解決してきた。

しかし、ビジネスのデジタル化が急速に進み、処理テーマの増大と多様化・変化のスピードが加速したことで、もはや「経験値×職人技」での対応が限界に達しようとしている。そこで、アルゴリズムに頼るのではなく、データを集め、機械学習で分析して学習モデルを作り、それで課題を解決するというプロセスへと置き換わろうとしている。このサイクルを高速で回転させ完成度を高めとゆこうという。

「ロボットやソフトウェアが人間の仕事を奪ってしまう」と言う人もいるが、仕事の総量に限りがあるという考え方は、「労働塊の誤謬(ろうどうかいのごびゅう、lump of labor fallacy)」と言われ、経済学者の間では一般的に誤りとされている。

確かに既存の仕事は機械に置き換えられることがあっても、それに代わるこれまでに無い新しいタイプの仕事が産み出されてゆく。そして、人間はテクノロジーを使いこなし、より高い付加価値を産み出すことに役割をシフトしてゆかなければならない。そうなれば、IT事業者もまた自ずとビジネスのあり方が変わり、収益の構造も変えてゆかなければならない。このトレンドはもはや変えることはできないから、むしろ積極的にこの変化に対応することが、ビジネスを生きながらえさせ、成長させることになる。

特にいまIT事業者に求められていることは、このようなテクノロジーをクロス・オーバーに俯瞰し、どうすればビジネスの成果に結びつけられるかのアドバイスであり、一緒になって考えてもらえる共創である。

「私たちの会社は、その分野は専門ではないのでできません。」

「それは私と担当が違いますので、あらためてそちらの担当者を同行させます。」

「うちはデータベースの構築に自信があります。そのための認定エンジニアを多数抱えています。」

残念ながら、「これしかできません」企業は次第にお客様から疎遠にされてゆく。もちろん全てを自分たちでできる企業などなく、リソースを融通できるオープンな連係が必要となる。ただ、「全てのことに相談にのれる存在」であることは譲れない前提となるだろうし、その力がビシネスを牽引する

冒頭にも申し上げたとおり、「手順の決まった仕事は機械に置き換えられる」時代となった。そこに工数は生まれない。だから新たな役割を担えなければ、存在理由はない。

お客様にとって大切なことは、自分たちの解題を解決すること、あるいは、自分たちの掲げたテーマを達成することだ。そのためにテクノロジーやサービスをどのように組み合わせ、実装してゆけばいいのかを共に考えてくれる存在としてのIT事業者が求められている。

ビジネスの成果とテクノロジーを結びつけられる「直感力」、その仕組みを考える「デザイン力」、お客様のビジネスのあるべき姿を描ける「構想力」が、IT事業者には求められている。

「わたしたちの存在理由は何か?」

既存の価値基準を前提にこの問いに答えることはできるかもしれないが、これからの時代に求められる価値基準で、この問いに答えられるだろうか。

iPhoneが登場して12年、経済や社会の仕組みがどれほど大きく変わったかを考えれば、「変化のスピード」の意味を知ることができる。そして、その先の未来を世界に先んじて体現している中国の動向を見ると感動もするし、そのことがもたらす「やりすぎ感」に恐怖すら感じる。日本や世界が同じようになるかはともかくとして、10年という期間が、いまの世の中においてどれほどのスピードを持っているのかを感じることはできる。そしてそのスピードは、明らかに加速している。

「まだ大丈夫」と考えた瞬間に加速された時間の中では「後退する」と同義語であることを覚悟しておくべきだろう。

ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA

【12月度のコンテンツを更新しました】
・総集編の構成を1日研修教材としてそのまま使えるように再構成しました。
・最新・ITソリューション塾・第32期の講義資料と講義の動画(共に一部)を公開しました。

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総集編
【改訂】総集編 2019年12月版・最新の資料を反映しました。
*1日研修で使える程度に、内容を絞り込みました。
パッケージ編
ITソリューション塾(第32期)
【改訂】ビジネス・スピードを加速する開発と運用
動画セミナー・ITソリューション塾(第32期)
【改訂】ビジネス・スピードを加速する開発と運用
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ビジネス戦略編
【新規】変革とは何をすることか p.4
【新規】イノベーションとインベンションの違い p.8
【改訂】デジタル化:デジタイゼーションとデジタライゼーション p.37
【新規】経済政策不確実性指数(EPU)p.38
【新規】デジタル・ディスラプターの創出する新しい価値 p.41
【新規】ハイパーコンペティションに対処する適応力 p.42
【新規】価値の重心がシフトする情報システム p.54
【新規】複雑性を排除してイノベーションを加速する p.55

サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
【新規】IoT実践の3つの課題 p.74

ITインフラとプラットフォーム編
【新規】ゼロ・トラスト・ネットワーク 境界型セキュリティの限界 p.110
【新規】ゼロ・トラスト・ネットワーク セキュリティと生産性の両立 p.111

開発と運用編
【改訂】改善の4原則:ECRS p.5
【新規】ITの役割の歴史的変遷 p.8
【新規】アジャイル開発:システム構築からサービスの提供(体制変化) p.11
【新規】仮想マシンとコンテナの稼働率 1/2 p.60
【新規】仮想マシンとコンテナの稼働率 2/2 p.61
【改訂】DevOpsとコンテナ管理ソフトウエア p.63
【新規】モビリティの高いコンテナ p.65
【新規】モノリシックとマイクロ・サービス p.71

テクノロジー・トピックス編
【新規】急増するAI専用プロセッサ p.62

下記につきましては、変更はありません。
・クラウド・コンピューティング編
・サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
・サービス&アプリケーション・基本編
・ITの歴史と最新のトレンド編

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