異論「働き方改革」クロスオーバー人材を育てる企業になる
テクノロジーの発展は、時間をかけ経験を積み重ね、苦労して築いた熟練やベテランの価値を不良債権化してしまう。人生の「旬」は、つかの間の輝きに終わってしまうだろう。また、ライフスタイルや医療、衛生、栄養は大きく改善し、平均寿命を押し上げている。我が国の平均寿命は10年間で2〜3歳伸びると言われ、いま20代の人たちは100年人生が当たり前になるかもしれない。
1969年に始まったアニメのサザエさんに登場する磯野波平は、設定年齢54歳だ。1960年当時の平均寿命は、男65.32歳、多くの企業において定年退職年齢は55歳だった。彼は翌年には定年を迎える年齢で、退職すれば10年ほどの余生が待っているという設定だった。
2016年の日本人の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳となり、定年は65歳に伸ばされたもののさらに15年〜20年を生きなくてはならない。テクノロジーの発展は、この期間をさらに引き延ばそうとしている。その期間の経済的な負担をどうやって確保するのかは大きな問題となる。少子高齢化が急速に進む我が国では、その社会コストは現役世代に大きくのしかかる。
ジェレミー・リフキンが予言する「限界費用ゼロ社会」に到達すれば経済的な問題は解消されるかもしれない。あるいは、ベーシックインカムがこの問題を救ってくれるかもしれない。しかし、「生きる」とは経済的なことだけではなく、「社会にあって必要とされる存在」であり続けることもまた大切な要件となる。そのためには、単一スキル、単一キャリアでは難しく、時代の変化に応じて新たなスキルを手に入れ変身し、キャリアを多様化してゆかなければならない。
そうやって多様な価値観やロールモデルを体験し身につけてゆくことで、異なるものごとを組合せ、新しいものごとを生みだすことができる「クロスオーバー人材」へと自らを変身させてゆくことができる。それが、「社会にあって必要とされる存在」であり続けるための条件となるだろう。これからテクノロジーが発展しても、しばらくは「クロスオーバーAI」が登場することはないだろう。
「クロスオーバー人材」となるためには、人間の多様さに触れなくてはならない。沢山の人たちと接し、多様な価値観やロールモデルに接することだ。「こんな生き方をしている人がいる」ことに驚き、共感し、自分の未熟を知ることだ。それが新たな学びの意欲となり、行動を起こす原動力となる。
職場と家庭を往復するだけの社会人人生。外の世界を知らないままに、与えられた仕事を粛々とこなし、内部の論理に翻弄され、長時間労働で自分を見つめ直す余裕もない生き方は、本当に残念だ。職場と家庭以外の視点がなく、現状に疑問や違和感を持つことなく日常を過ごし、やがて定年を迎えれば、残っている場所は家庭しかないとすれば、「社会的引き籠もり」になってしまうかもしれない。
経済的な余裕があれば趣味を楽しみ"長い"余生を送ることもできるだろうが、そういう人たちは決して多くないだろう。「社会に必要とされる存在」であり続け、自分でお金を稼ぎ続けることができる人生を、私たちは生きてゆかなければならない。
目端の利く人たちは、そんなこれからの社会を敏感に感じ取っているので、自分を「クロスオーバー」にするための「環境」が与えられている企業へと移動してゆく。
ここでいう「環境」とは、労働時間のことだけではない。兼業や副業、在宅勤務やリモート勤務といった「多様な働きかた」を許容できることに加え、業績評価や人事制度がそんな彼らの生き方をサポートできなければならない。そして何よりも事業目標や経営理念そのものが、このような時代の変化に対応して転換しなくてはならない。つまり、「仕事」の価値観を転換することが必要な時代になったと言うことだ。
池田紀行さんのブログ「ワークライフバランスという言葉が嫌いです」に次のような言葉があった。
"WORKはやりすぎると資本家に搾取されちゃうし、体壊すし、メンタル病む「辛いもの」だから、楽しいLIFEとバランスとって帳尻を合わせましょうね。"
ワークライフバランスという言葉に、上記のような前提があるようで、この言葉が好きではないのです。
== 中略 ==
「人生の中に仕事がある」考え方から、「仕事の中に人生がある」価値観へ変わってきたんです。
そんな成熟した仕事観・職業観の国で、ワークとライフのバランスをとりましょう!てどうなのよと。
そして、次の言葉で締めくくっている。
ワークライフバランスからワークライフミックスへ。バランスをとるのではなく、両方、ひとつの人生としてまるごと楽しむ。
仕事と生活の古き良き時代の価値観を前提に考えるのではなく、いまの時代にふさわしい価値観、つまり「ワークライフミックス」を実現できる環境を提供すると言う視点で、働き方を再定義する必要があるのではないか。そういう企業に優秀な人材が集まってゆく。
「働き方改革」をそんな視点で捉え直してみてはどうだろう。
このような取り組みは、短期的には企業の成長を足踏みさせるかもしれないが、それでいい。そんなことよりも優秀な人材を惹き付ける会社へと変身させることだ。そうすれば、企業の社会的な価値も高まり、生き残りと将来の成長の基盤を固めることができるだろう。
少子高齢化が進む我が国に於いて、もはや企業が若者を選ぶ時代から若者が企業を選ぶ時代へと変わってしまった。だからこそ、企業として選ばれる魅力を作らなければならない。働き方改革とは、このような「あるべき姿」を目指すべきではないだろうか。
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