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3匹の「お化け」は見えているか?

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「AIやIoTについてご相談を頂くことはありません。あなたがおっしゃるほど、まだ需要があるとは思えません。」

「アジャイル開発ですか?うちのお客様で、そんな話はありませんよ。」

「クラウドは話題にはなりますが、具体的なご相談を頂いたことはありません。私どものお客さんでは、まだまだ先の話だと思いますよ。」

どうせできないだろうからと、お客様から相手にされていないのだと、なぜ気づけないのだろうか。同様のことで大忙しの企業はいくらでもあるし、その多くが、依頼の多さに応えきれずに困っている。

足下の工数需要は堅調であり、稼働率も高く、売上や利益を伸ばしている企業は多い。そんなことが、この現実への感度を鈍らせているのだろう。

稼働率が上がっている理由を突き詰めてゆけば、その多くは「景気の拡大に伴うシステム需要の増大」だ。自らが開拓した「新しい事業や新規の顧客による需要の増大」による稼働率の上昇である割合は、さほど多くないようだ。

景気の浮き沈みは自分たちでどうすることもできない。いまは好調でもやがて落ち込む時期が来る。そんな景気の波に従うしかない企業にとって、事業計画など作る意味がない。計画を作ることに費やす時間があれば、工数として稼働率を稼いだ方が、よほど実利があるだろう。

こういう企業にありがちな事業計画は、「社員の人数×稼働率」が根拠となっている。新規事業や新規顧客といった新たな事業価値を産み出して収益を拡大することは努力目標とされることはあっても、事業計画に於いては実質的に考慮されことはない。結局のところ「自分で自分未来を描けない」ということになる。

ビジネスは先手を打ってこそ、成長のチャンスが与えられる。いまの好調が「先手」の結果ではないとすれば、それは企業の健全かつ継続的成長を促すものではない。しかも、稼働率が高まった結果として、人手不足への対応が優先され、人材の育成をおろそかにし、新規事業への取り組みを先送りしているとすれば、ますます「先手」をとることは難しくなる。

景気が退潮に向かいはじめると、稼働率は減少し人件費負担が重くのしかかり、経営を苦しい状況に追い込んでしまうだろう。その時に新しいことをはじめようとしても、成果が直ぐに得られることはない。

しかし、落ち込んでもやがて復調するのが景気だとすれば、厳しい時期をなんとか耐えしのげばいいではないかという楽観論もある。しかし、そんな簡単なことには、もはやならないだろう。

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SIビジネスには、クラウド化自動化内製化という3匹の「お化け」が取り憑いている。そのお化けたちが、従来の需要を食べ尽くしてしまい、景気が回復してもこれまでと同様の需要が戻ることはないだろう。

クラウド化は、物販の需要を減らし、個別構築が必要だったデータセンター内のネットワークは不要となる。拠点間のネットワークはクラウドの高速・広帯域のバックボーンネットワークに代替される。まもなく登場する5GはLANやIP-VPNなどの自前の閉域網を置き換えてゆくだろう。そうなれば、ネットワーク構築に伴う工数需要は大きく減少することは避けられない。

また、クラウドの需要はインフラ(IaaS)からプラットフォーム(PaaS)やアプリケーション(SaaS)へとシフトする。これに伴い、運用管理やセキュリティはクラウドが担う。そして、アプリケーション開発の高速化や変更への柔軟性が求められるようになり、サーバーレスやFaaS(Function as a Service)、コンテナやマイクロサービスが普及する。それに対応できているSI事業者はまだ少ない。というよりも、対応することは、工数需要を減らすことなので、あえて手を出さない。

Office365やWindows10が普及すれば、セキュリティや認証管理の仕組み作りはいままでに比べて大幅にシンプルになり簡素化される。その導入や構築に伴う工数は確実に減少するだろう。VDIも過去のものになるだろう。

一方で、既存のシステムのアーキテクチャを刷新し、クラウドをベースとした新たアーキテクチャへ移行することは技術的にはなかなか大変だ。だから、これを実現できる技術力という需要が拡大する。

クラウド化は、確かに既存の物販や工数の需要にとっては脅威ではあるが、それに対応するための技術力は、新たな需要を生みだし、ビジネスの・チャンスを拡大させる。

自動化は、このクラウド化を背景に運用管理やセキュリティのかなりの範囲をカバーする。アプリケーションの開発も「完全自動化」は容易に実現するとことはないが、フレームワークの充実や超高速開発の機能向上、PaaSやサーバーレス/FaaSの普及とともに、開発スピードの高速化と変更への柔軟性や俊敏性を高めてゆくだろう。アジャイル開発やDevOpsはこんな需要を支える土台となる。

アジャイル開発やDevOpsが目指すのは、短期間、低コストでシステムを作り運用することではない。ビジネスの現場にジャストインタイムで必要なサービスを提供することにある。ビジネス環境の変化が加速する中、これに即応して、ビジネス・プロセスを変更したり必要とするサービスを迅速に提供したり、ダイナミックに変更することが、企業の生命線になりつつあるいま、自動化はこの取り組みを支える前提になる。

内製化は、デジタル・トランスフォーメーションの時代を迎え、新しい常識となるだろう。その背景には、ITが事業の競争力を生みだし、差別化の要件になることを多くの企業が認識しはじめたためだ。

ITは、これまで、本業の生産性や経費の削減を支援するための「道具」として認識されてきた。そのためITもまた経費であり少しでも削減することが求められてきた。しかし、ITが競争力の源泉になるとすれば、もはやITは本業であり、企業のコアコンピタンスとなる。それを外注するなどと言うことは考えられず、内製化へとユーザー企業を突き動かすだろう。IT予算は経費から投資へと変わるので、高い技術力を提供し、彼らの事業に貢献できれば利益率の高いビジネスになるだろう。

以前、私が主催するITソリューション塾に大手製造業で新規事業を推進する2人の責任者を招いて話を伺った。かれらに、「SIerに何を期待するか」と質問したところ、「期待することはない」と明言した。90名のSIerの社員を目の前にしての話しだ。ちなみに、この2人はもともとSIerに勤めていた経歴を持っている。

正確に言えば、依頼に応え工数を提供するだけのSIerに期待することはないと言うことであって、かれらは何もかも自分たちだけでできるとは思っていない。だから、高い技術力を持ちアジャイル開発やDevOpsの実践に長けたSIerとは資本提携までして、そのノウハウを吸収しようとしている。つまり、工数ではなく技術力にお金を払うというスタンスだ。一方で、SIerの立ち位置は、そんなユーザー企業の内製化支援ということになる。

AIやIoTの技術の進化と普及に伴い、それを積極的に活用してゆけるかどうかが、事業会社の競争力を大きく左右する。そうなれば、たとえ内製化をすすめるにしても技術力を全て自社でまかなうことは難しい。ならば、外部の協力を得て、技術力を補おうというモチベーションが強力に働く。また、それがユーザー企業の事業に貢献できれば、同様の需要は拡大する。そんなところに新たな需要が生まれてくるだろう。

あなたには3匹の「お化け」が見えているだろうか?少し冷静になって、テクノロジーのトレンドを見据えれば、それがどれほどの力を持ち始めているかに気付くことになる。

ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA

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