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新規案件を開拓する実践プロセス・チェックシート

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営業目標の達成は営業の使命です。そのためには、営業活動の生産性を高めること、すなわち効率と勝率を高めなくてはなりません。そして、これを組織として推し進めなくてはなりません。

しかし、現実には個々人の経験に頼っている場合が多く、それぞれの自助努力に依存しています。また、営業活動の進め方は人によるばらつきも大きく、組織全体として安定したパフォーマンスを維持することは容易ではありません。

暗黙知に基づく自分流の営業活動の手順は組織として共有することが難しく、案件の進捗やリスク評価を客観的に行うことができません。加えて、個人としての成功体験やノウハウを後進の育成に役立てる場合も「背中を見せて育てる」といった徒弟型、体験型の伝承に頼ることになり、これもまた個人の主観や自助努力に大きく依存しています。

このような状況を改め、安定的かつ継続的に営業活動の生産性を高めるための取り組みが必要です。そのためには営業活動のプロセスやノウハウを「行動」として体系的に見える化し、その「行動」の実践方法を研修や実践の場で伝えることが大切です。

この視点に立ち、営業活動のあるべき「行動」を洗い出し、これを体系的に分類、整理した「営業活動プロセス・マネージメント・ガイド」を作成しました。

ただ、これを教科書的な文章にまとめただけは、実践に利用することは容易ではありません。そこで、「自分の営業活動を確認するチェックリスト」にし、これを日常の営業活動で利用できるようにしました。このチェックリストを活用することで自分の営業活動を客観的に評価することができます。

営業は、これを継続的に利用することで、営業のあるべき行動を体験的に学び、定着させることができます。

営業管理者は、営業活動の進捗やリスク、漏れの有無など、営業活動の品質や生産性にかかわる状況を客観的かつ分析的に把握することができるようになります。また、進捗を担当営業と同じ基準で評価できるため、フォーキャスティングの客観性を高めることができます。このように、組織全体としての営業活動品質を一定のレベルに底上げするためにも役立つ内容となっています。

新人・若手の育成においても有効です。営業活動が、概念や仕組み、方法論のレベルまでしか示されていない場合、それを実際の「行動」に転換するには、それを指導する個人の経験的解釈や表現力によるフィルターがかかります。そのため、指導として示された「行動」にはばらつきが生じます。

本ガイドは「行動」を明示しているので、個人差を抑制することになります。特に、営業の「行動」とは何かが白紙の新入社員を指導する育成上司にとっては、有効なOJT指導ツールとなるはずです。

このブログでは、本ガイドに掲載している「案件の開拓」、「案件の確実な受注」、「デリバリーの成功」と「営業の持つべき感性」のうち、「案件の開拓」について転載させて頂きます。

本ガイドの全て(Word版)並びに活動評価のためのチェックシート(Excel版)については、「ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA」より「SI営業のためのセールスガイドと活動チェックシート」としてダウンロード頂けます。官公庁をお客様にされている場合は、「SI営業(官公庁担当)のためのセールスガイドと活動チェックシート」も合わせてご覧になるといいでしょう。

LiBRAは、1000枚を超えるITビジネスやトレンドに関するプレゼンテーションを掲載し、全て無料で閲覧できます。また、有償会員(月500円)になれば、全てのオリジナル資料をロイヤリティ・フリーでご利用頂けます。

営業活動プロセス・マネージメント・ガイド

案件の開拓

営業活動の出発点とも言える活動です。これまでまったくつながりのなかったお客様から、あるいは、過去に何らかのお取引を頂いたお客様から新たなビジネス・チャンスを開拓する必要があります。この段階の活動は以下の通りです。詳細は、次のチェックシートをご確認ください。

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アポイント前

【活動内容】

  • 覚悟を決める
  • お客様の会社の情報を収集する
  • お客様の業界や競合の情報を収集する
  • アポイント・シナリオを作成する

この段階では、可能な限りお客様自身、あるいはお客様の業界や競合、そして想定される競合他社の情報を収集します。目的は、「仮説設定」のためです。

「何かありませんか?」、「お役に立てることはないでしょうか?」、「お困りのことはありませんか?」など、範囲が広範にわたり回答に様々な選択肢を考えなくてはならない質問は、相手にとって大きな負担です。このような質問への回答は、「ありません!」となってしまう場合が少なくありません。

お客様の関心を引き出し、案件のチャンスになる課題を引き出すためには「きっとこんな課題があるに違いない」という仮説をあらかじめ見つけ出し、それをお客様に提示しましょう。

例えば、調べた情報から「こういう課題をお持ちではありませんか?」と質問してみます。あるいは、他社の例を引き合いに出し、「XX社は、こういう取り組みをされていますが、御社でも同様の取り組みをされているのでしょうか?」と質問してみることもいいでしょう。どちらの場合も、答えは、イエスかノーのいずれしかなく、相手は判断に迷いません。これは相手にとって大変ストレスの少ない質問です。

答えがノーであれば、別の仮説を提示します。あるいは、ノーの理由を聞き出すことで、新たな課題を引き出す切っ掛けを掴むことができます。

答えがイエスであれば、さらにその理由を「なぜ?」と尋ねてみます。そしてより具体的な事実に迫ります。

できるだけ多くの情報を収集し、自分なりに分析して仮説を組み立てることが大切です。そのための情報源はいろいろなところにあります。詳細はチェックリストを確認してください。

この情報収集に手間をかけることで課題の核心に迫ることができれば案件開拓の可能性は高まります。また、その仮説を元に会話のシナリオを描き、必要な準備を行えば、会話の質を高め、お客様の安心感や信頼感を引き出すことができます。

なお、この段階では仮説を小さく絞り込む必要はありません。むしろ広く可能性を探るために想定範囲を広げて仮説を組み立てるようにしましょう。

このような一連の準備の原動力は、なんといっても「絶対に切っ掛けをつかむ」という覚悟であり、案件獲得への執念です。その気持ちが自分にあるかどうかを振り返り、確認することも大切な行動です。

訪問前

【活動内容】

  • お土産を準備する
  • 訪問時のシナリオを準備する

アポイント前の準備で想定した仮説を話題に織り込み、電話やメールで相手の関心を探ります。その上で、関心のある話題を絞り込み、それをテーマに話をしたい旨を相手に伝えることです。

「なるほど。それについてはいろいろと実績もありますし、ご紹介できることもあるかと思います」、「そのテーマなら、関心を持っていただけそうな情報をお届けできると思います」と、製品やサービスの名称を示すことはできるだけ控え、相手の関心そのものに話題を絞り、相手の意向を確認することが大切です。また、話の展開にもよりますが、関心のありそうなテーマをさらに掘り下げて、より具体的な情報を引き出すことも大切です。

このような会話が進まない場合は、相手に関心が無いか、忙しい時です。そのあたりを見極めることも大切です。その状況に応じて電話を切り上げ別の機会にすること、また、アポイントメントの約束を素早く切り出す配慮も必要です。

アポイントメントを獲ることができれば、後は「お土産」の準備です。お土産となる資料は、こちらが伝えたいことではなく、相手が知りたいことは何かという視点で準備することです。その視点で資料を準備し、そこに伝えたいことを織り交ぜるように工夫しましょう。

お土産は、例え既存の資料を使うにしても訪問先の企業名を付した資料にすることや、決して重厚な資料を作成する必要はありませんが、聞き取った情報やこちらの仮説を整理した資料を準備することや、ディスカッション・ノートという会話の目次に相当する簡単な資料を用意するなどでいいでしょう。そういう気配りがお客様の信頼や好意につながります。

訪問中

【活動内容】

  • 基本的な情報を確認する
  • 相手に期待を持たせる
  • 次回の訪問について確認する
  • 次のチャンスにつなげる(案件、期待が明確にできなかった場合)

訪問前に準備したお土産やシナリオを使い、相手の関心や課題は何かを探ることがこの段階で行うべきことです。こちらのサービスや商品を伝えることではありません。むしろ、この段階では、次回に期待を持たせることに注力すべきです。仮に話をするにしても概略にとどめるほうがいいでしょう。その上で、「本日のお話を踏まえて、どのようなお役に立てそうか、ぜひまとめさせてください。」と伝え、次の約束を取る方が賢明です。

十分な考察がないまま、拙速にサービスや商品の説明を行えば、例え関心のある話題であっても核心に迫ることができず、「さらに話を聞こう」という相手の意欲を削いでしまうことも考えられます。むしろ、お客様の関心や課題を徹底的に掘り下げることに時間をかけ、課題の本質を理解する努力を行うべきです。

この段階での会話は、「アポイント前」で説明したとおり、「何かありませんか?」ではなく、「これについてはどうですか?」という、イエスかノーかを確認する質問を行います。例えば、以下のような具体的な会話ができれば、効果的に相手の課題を確認できます。

「御社では社長方針として2018年度までに売上高1000億円の達成を掲げられています。しかし、現状は800億円であり、直近3年の売上高の増収も2%程度であることを考えると、あと3年で25%の増収を狙うというのは、容易なことではないように思います。やはり、同業他社が取り組まれているのと同様のECサービスに新規参入し、そのギャップを一気に埋めようとお考えなのでしょうか?」

その答えは、イエスかノーしかありません。そして、イエスであれば、「では、やはりA社の提供されているソーシャル・メディアとの連携を考えたサービスを御社でも展開されるわけですね。」などと、さらに質問を重ねてゆきます。その繰り返しにより、相手の関心や課題をより具体的に掘り下げることができます。

もしノーであれば、「では、アジア圏での販売拠点を拡充されるのですか?」と別の仮説を示しながら、お客様のイエスを探り出すことです。こういう仮説をいくつか用意し、お客様との会話に望むことが大切です。

訪問を締めくくるに当たって、相手の関心や課題、自社への期待などを確認しましょう。そして、次のアポイントメントの約束を取り付けます。これは、相手の関心の度合いを見極めることにもなります。

相手がこの話題に興味を示すことなく、また、次回のアポイントメントをためらうような場合はチャンスがないとあきらめるべきかもしれません。むしろ、次のタイミングや別のお客様に時間を割くことを考えるべきでしょう。

相手の課題や期待が明確にできなかった場合、タイミングが合わないと判断した場合は、必要以上にアポイントメントを迫ることは避けるべきです。むしろ関係を継続することを目的とした行動をとるといいでしょう。

例えば、相手にとって差し迫った課題ではないにしても関心のありそうなテーマを選んで自ら宿題を作り、次回訪問に回答を持参する旨の約束をすることも効果的です。また、情報提供やセミナー等のご案内を送らせていただくなどの申し出を行いましょう。

また、時期的な問題であれば、相手が検討しなければならない時期を確認し、改めてその時期に訪問することを約束することもいいかもしれません。

このような会話を通じて、こちらが関心を持っていることを印象づけることで、次のチャンスに思い出してもらえるように努力することも大切です。

訪問後

【活動内容】

  • 次回訪問の準備をする
  • 関係を継続する(案件、期待が明確にできなかった場合)

訪問相手への感謝のメールとともに、会話した内容を相手に伝え、確認します。このような礼儀正しい行動は、相手に好感を与え信頼を築く基盤となります。長文である必要は無く、むしろ簡潔な文章が好まれます。特に面識の少ない相手に対しては効果的です。

また、訪問した内容は、自分で溜め込むことなく社内で共有し、広く周りの知恵を引き出す努力をしましょう。

次の訪問に当たって最も重要なことは、相手に「ビックリ」や「さすが」と感じさせることです。そのための内容やシナリオを作る必要があります。特にこれまでに付き合いのなかった相手にとっては、既につきあっている相手以上の決定的な有意差がなければ、私達と付き合おうというモチベーションは生まれません。

相手の課題や期待が明確にできなかった場合、タイミングが合わないと判断した場合は、約束したことをリスト化し、あらかじめスケジュールして、関係を継続するためのアクションを忘れないようにしましょう。

案件の評価

「案件の開拓」を行うことで、様々な案件に接することになります。しかし、そのすべてがビジネスに結びつくとは限りません。それを見分け、ビジネス・チャンスのあるものに注力しなければ、営業活動の生産性を高めることはできません。その見極めが、次のステップです。

これまで、その見極めは営業の経験と勘に頼っていましたが、それでは営業個々人の経験や能力の違いにより効率にばらつきが生じてしまいます。特に経験の浅い若手とベテランとではその差は大きく、組織全体としての営業活動の生産性を高めることは容易なことではありませんでした。また、ベテランが若手を指導するにしても、その基準や方法が個人の経験や主観に依存したままでは、案件の評価にばらつきが生じかねません。

このような状況に対処するためには、「案件の価値」を評価する共通の基準を持つことが有効です。主観ではなく事実に基づきビジネス・チャンスの有無を見極め、チャンスのあるものに注力する。これができれば、営業活動の効率は高まります。

この段階の活動は,以下のチェックシートを確認してください。

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この案件に労力をかける十分な価値を持っているか

どのような案件にも同じ労力をかけるわけにはいきません。最初の見極めが必要です。案件規模も重要ですが、確度の見通しも大切です。例えば、つぎのようなケースでは、案件獲得は厳しいかもしれません。

  • お客様と人事的、資本的に関係のあるシステム会社が競合の場合は、お客様は政治的にそちらを優先する。
  • アプリケーションの細部にわたる理解が求められる提案に際し、長きにわたってその業務に関わっている会社が競合の場合は、お客様は我々に置き換える必要性を感じない。
  • お客様が必要としている標準と言われる製品やサービスを競合他社が持っていて、我々がそれを扱えない場合。

なお、既存ベンダーが優位な状況でロストしたケースを分析してみると、次のような理由が示されています。

  • 既存とのスキームを壊したくないから(慣れたベンダーに任せた方が楽だから)
  • 既存ベンダーに業務についての知見があるから
  • 既存ベンダーのこれまでの実績を高く評価しているから

このような、既存ベンダーに対するお客様の評価も心がけて聞くようにしましょう。もし、前述のような意識をお客様が持っていらっしゃるとすれば、そこに割り込んで入り込むことは容易ではありません。

このような状況に対処するためには、既存ベンダーにはできないことやより魅力的な提案をするしかありません。それを考える上でもお客様の既存ベンダーに対する意識を確認する必要があります。

いずれにしても、私達にどのような、そして、どれだけのチャンスがあるかを冷静に評価すべきです。

すぐに確度を判断することは容易ではありませんが、確度と労力のバランスは妥当かどうかを見極める視点は持ち続けてください。

この案件を実行する十分な体制を確保できるか

価値ある案件であったとしても、それを提供し、実現できる体制があるかどうかの判断も大切です。もちろん社内のリソースを最大限に活用することは前提ですが、それが見込めない場合は、社外にリソースを求めることもあわせて考えてください。

私達のビジネスはモノをお納めするだけではすまない場合が大半です。だからこそ、体制を作ると言うことは、「ソリューションという商品を作る」ことそのものであるという自覚を持つべきです。営業はそのプロデューサーとして自らの役割を果たしてください。

この案件を獲得したとして、そのリスクは十分に吸収できる範囲か

案件獲得の最初の段階で、この点に必要以上に敏感になる必要はありません。まずは、案件価値を見極め、体制確保などにより、魅力ある「ソリューションという商品」を提供できるかどうかをしっかりと吟味することです。

ただ、ある程度上記見通しが立ったとして、改めてこの案件を冷静に見極めることも大切です。

リスクを正当に評価すること、その上で、それを埋める方策があるかを考えることです。

リスクを回避するためには、以下の方法が考えられます。

  • 体制やサービス、製品を見直すことで対応する。
  • 社内外のリソースを活用して対応する。
  • お客様と相談しリスクを妥当な範囲に押さえる。

以上の観点からリスク回避の方法を模索することです。それでも大きなリスクが伴うと考えられるのであれば、上司や他部門とも相談の上、案件をあきらめることも時には必要となるでしょう。

この提案内容でお客様の評価や信頼関係を高めることができるか

お客様の「あるべき姿」を実現することが、営業活動の目的です。この原点に立ち返り、私達の提案がお客様の課題を解決すること、あるいはニーズを満たすものであるかを冷静に見極めることです。

数字の達成を必要以上に意識してしまうとこのような視点がおろそかになります。この視点を欠いたまま進めてしまうと、私達はお客様からの信頼を失うことになるでしょう。そうなると、競合他社を利することにもなりますし、仮に今回はうまくいっても次のチャンスは巡ってきません。

「この提案でお客様の価値を高められるだろうか?」

このような自問自答も忘れないようにしましょう。

続く以下のステップは、LiBRAよりご覧頂けます。

  • 案件を確実に受注する
  • デリバリーを成功させる
  • 営業としての感性を磨く
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