あなたはお客様の未来を語れるか
Googleの人工知能が囲碁の世界チャンピオンを打ち負かしました。これまで、コンピューターは、チェスや将棋の対戦でプロ棋士に勝利しています。そのときは、コンピューターの圧倒的な計算力をつかって先々までの打ち手を検証して、最適な次の打ち手を見つけることで人間に勝利してきました。
しかし、囲碁はチェスや将棋に比べ、打ち手の選択肢が桁違いに多くコンピューターの圧倒的な計算力を使っても最適な手を見つけることは難しく、あと10年は無理だろうと言われていたのです。
人間がおこなう囲碁の対局では、「読み」と「大局観」で打ち進めてゆきます。「読み」は「こう打つと、相手はこう打ちかえしてくるだろう」という予測のことです。一方、「大局観」とは、石と石の配置や全体の形から「こちらの方が優勢だ」などの形勢判断をおこなう能力のことです。直感と言い換えてもいいでしょう。トップ級のプロ棋士はこの大局観が抜きんでて優れているのだそうです。
Googleは、すぐれた「読み」と「大局観」を手に入れるため、従来のような打ち手の先読みをするのではなく、コンピューターにプロ棋士たちの3000万種類にもおよぶ局面と打ち手を記憶させ、コンピューターの中で何度も対局を繰り返させて碁石がどのような配置だと勝つ確率が高いかを学習させてゆきました。そしてプロ棋士に勝る「読み」や「大局観」を手に入れ勝利することができたのだそうです。
この技術は囲碁に勝つことだけではなく、
- 膨大な医療データを学習して治療方法を見つけ出し医師にアドバイスする。
- 複雑な機械の故障原因をいち早く見つけ解決方法をサービス員に教える。
- ひとりひとりの生活習慣に合わせた予防医療やオーダーメード型医療サービスを提供する。
などに役立てられようとしています。この「事件」は、人間の役割が大きく変わるかもしれないことを、実感を持って私たちに気付かせることになりました。
政府のIT総合戦略本部は自動車の自動走行技術に関するロードマップを発表しています。それによると自動走行が実現すると、交通事故の削減や交通渋滞の緩和、省エネ、物流業界の運転手不足の解消、高齢者の移動支援などの社会的な課題を解決できるとしています。
- 高速道路での追従走行と自動レーンチェンジが2017年~2018年
- 運転手の責任の下で一定区間を自動できるようになるのが2020年
- さらに高度な自動運転は2020年以降
こんなスケジュールが示されています。自動車の自動運転はもはや夢物語ではありません。ここ数年の内に実現される技術として、着実に準備が進められているのです。
世界三大ジェット・エンジンメーカーのロールスロイスはジェット・エンジンを販売するのではなく、ガス料金や水道料金のように、使用した出力と時間に応じて課金するビジネスをはじめています。顧客である航空会社はシェット・エンジンを購入する必要はなく、旅客が料金を支払ってくれるときだけ使用料を支払うわけですから大助かりです。このようなことが可能になったのは、ジェット・エンジンの稼働データをセンサーと衛星回線をつかって監視できるようになったからです。このデータは料金支払いのためだけではなく、エンジンの状態を把握することにも役立ち、故障や事故が起こる前に不具合の予兆を発見し、事前に点検や保守作業をおこなうことができます。そのことで、予期せぬ欠航を減らすことができ安定した収益を航空会社にもたらします。また、データを分析することで燃費を向上させる操縦方法や航路のアドバイスもできるようになりました。サービスを提供する側も無駄な点検にエンジニアを派遣しなくてもよくなり、余計な部品在庫を抱える必要もなくなりました。これは、コスト削減につながっています。
英ロールスルイス以外にも、ジェット・エンジンや発電機などの大手機械メーカーである米GE、仏タイヤ・メーカーのミシュラン、日本の建設機械メーカーであるコマツが作った製品を売らない課金型のビジネスを展開しています。
Amazonや楽天などは自社のオンライン・ショッピング・サイトに出店する業者に必要な運転資金を即日または翌日融資するサービスをはじめています。これまで融資には、決算書類の提出や担保の差し出しなどが求められ、手間も時間もかかりました。しかし、彼らは取引情報が全て把握できていることに加え、決済を自分たちのサービスでおこないお金の流れを抑えていることで、すぐに与信を判断することができるのです。銀行などの既存の金融機関にとってはできないことで、彼らには大きな脅威となるかもしれません。
一方、銀行でも、企業の日々の取引内容をインターネットを介して全て開示してもらい、手間のかかる審査手続きを簡素化してすぐに融資を受けられるサービスを提供しているところも登場しています。
融資だけではなく、決済や資産管理、金融商品の取引や国際送金など、既存の金融機関が収益の柱としていることを、ベンチャー企業が僅かな手数料で、しかもスマートフォンから即座におこなえる金融サービスをどんどん登場させています。
他にも特注品を標準品と変わらない金額と納期で提供しようという製造業の取り組み、リモートワークで子育て世代を労働力として活用したり社員の労働生産性を向上させる取り組み、個人の自家用車をタクシーや荷物の配送に使えるようできるサービス、個人住宅を宿泊用に貸出しできるサービスなど、インターネットやクラウド、人工知能などのITはこれまでの常識を急速に、そして大きく変えようとしています。
もはやITを知らずに、あるいは、それを活かせなければ、これからを生き抜くことはできない時代になりました。
「そんなことはITの専門家に任せておけばいい」
確かに、システム開発や機器の選定、ネットワークの構築などの仕事はITの専門家に任せておけばいいのです。しかし、それを使い業務革新を図り、新たなビジネスを考え、企業体質や競争力を高めてゆく責任を負うのは経営者や業務の現場の人たちです。そういう人たちがITに何ができるかを知らないままに、戦略や計画を立てることなどできるはずはありません。
ITの作り方や操作方法は知らなくても、ITのもたらす価値と可能性、その活かし方は最低でも知っておかなければ、自分たちの責任を果たすことができない時代なのです。
「うちの製品はこんなことができる。他社よりもここが優れている。」
「他社よりも1割安いですよ。」
「バーションアップでこんな機能が追加されました。」
「道具としてのIT」の売り込みに終始するのではなく、ITがもたらす変革や未来について経営者や事業部門の人たちに語ってみてはどうでしょう。手間のかかることかもしれませんが、お客様が自分たちの行き先を具体的にイメージできれば、自ずと必要性が生まれます。ビジネス・チャンスはそういうところにあるのです。
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【新規登録】新入社員研修のための教材を追加登録しました。
ITの未来:主に新入社員を対象に、IT(情報技術)の未来について解説したモノです。プレゼンテーションに加え、解説文(教科書)も合わせて掲載いたしましたので、自習にも役立ちます。
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【目次】
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- あらゆるものをつなげる:インターネット
- ビッグ・データを蓄え処理する:クラウド
- ビッグ・データを解釈し意味や価値を取り出す:アナリティクスと人工知能
- 人間の身体能力を拡張する:ロボット
- 現実世界とサイバー世界が一体となって機能する:サイバー・フイジカル・システム
- ITを抜きにして考えられない時代へ
- 最新のITトレンド
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こんな方に読んでいただきたい内容です。
SIビジネスに関わる方々で、
- 経営者や管理者、事業責任者
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