ポストSIビジネスの4つの戦略
3回に分けてポストSIビジネスの具体的な選択肢を考えてみたが、少しマクロな視点で、戦略を整理してみよう。
コモディティ戦略
多くのSI事業者が、いまコモディティの領域にいる。今後ともこの領域でビジネスを継続して行くとすれば、徹底した標準化と価格競争により、規模ビジネスを追求しなければならない。例えば、AWSやGoogle、Microsoftが繰り広げているIaaSの価格競争やオフショアの拡大などがこれに当たる。
この戦略には、相応の先行投資が必要となる。上記のIaaS大手は何処も数千億円規模の投資を行い規模の経済を追求し、価格競争を仕掛けている。また、標準化を進めることでコストの一層の低減とスピードを差別化の武器としている。
オフショアも、ブリッジSEを介さなければならないようなやり方では、コストも嵩みスピードも担保できない。標準化によって、これら障害を取り払うことで、コモディティ戦略における競争力を担保できる。
なお、この戦略は、システムに閉じる必要はない。BPOと組み合わせることで、規模の拡大を図ることも可能だ。
専門特化戦略
大手SI事業者の弱点は、膨大な人材を抱えていることだ。そのため、システム規模が縮小する戦略は、既存の組織規模を維持できず、収益効率も悪くなるので受け入れにくい。また、営業利益率が低いことから極限まで稼働率をあげなければ、人材を維持できないという課題も抱えている。
一方で、コモディティ領域で勝負できる体力もない。いや、体力がないと言うより、何事も「ミニマム・スタート」でしかはじめられず、標準化を苦手とする経営体質が、コモディティ戦略の足かせとなっている。
事業規模を維持し、営業利益率を拡大としたいと考えれば、特定の業務領域に特化することで、その領域で絶対的競争優位を確立する戦略をとることだろう。
例えば、SAPは、エンタープライズERPでは、絶対的なシェアを確保し、その市場での地位を確実なものにしようとしている。また、IBMは、ハイブリッドクラウドのポジショニングを明確にし、そこでの競争優位を確保しようとしている。Equinixは、クラウド相互接続事業で絶対的な優位を確保している。他にも金融デリバティブ、プライベート・クラウド基盤の設備提供と構築・運用など、何でもできます、何でもやりますではなく、ある専門領域に特化して、顧客を増やし、結果として規模の拡大を図る戦略だ。また、「ニッチ戦略」同様にBPOと組合せ規模の拡大を狙うこともできる。
ただ、そのためには、「専門」を明確にポジショニングし、そこに資源を集中させ、洗練させていかなくてはならない。
ニッチ戦略
規模は稼げないが、特定のテクノロジーや業務領域に於いては、他社の追従を赦さない存在感を示す戦略だ。
同じ「独自性の高さ」を追求する「専門特化型戦略」は、安定と安心を遡及し、規模を狙うことに重点がおかれる。一方、「ニッチ戦略」は、革新性や特殊性を遡及し、オンリーワンをめざす戦略となる。ニッチも普及が進めば、規模の拡大につながる可能性はあるが、そこを狙わないのが、この戦略の肝となる。
狙うべき領域は、現時点で市場規模は小さいが、成長率が「加速」している領域だ。例えば、IoTやビックデータ、人工知能やコンテキスト・テクノロジーといった先端テクノロジーがある。また、介護や医療など、これからIT化を積極的に進めようとしている領域、あるいは、公共や自治体など、規模こそ小さいが、何処でも抱えている課題で、これまでITの恩恵に浴することのなかった領域なども考えられる。これら領域は、コストの高さと扱いの難しさ故にITの活用がすすまなかった領域だ。しかし、クラウドやOSSの普及は、このような前提を変えはじめている。改めて見直してみることで、ひとつひとつのシステム規模は小さいながらも、ビジネス・チャンスを見つけ出すことができるかもしれない。
パッケージ戦略
徹底した標準化により、低価格で手離れの良い商材を提供する戦略だ。なお、ここでいうパッケージとは、パッケージ化された商材を意味するもので、対象は、ソフトウェア、サービス、ハードウェアの全てで有り、その組合せも含まれる。SaaSなどもパッケージ商材と考えても良いだろう。
対象は、SMBばかりではなく、大企業であっても、特定の業務やシステム領域で、この戦略はうまくいくだろう。
売り方については、時間をかけた個別商談や人海戦術では効率が悪い。Webやデジタル・マーケティング、インサイドセールスなど、仕組みによるセールスとマーケティングに取り組む必要がある。また、仮に個別商談や人海戦術にしても、短時間で商談を成立させられるセールス・ツールの充実など、売り方や売るための仕組みと共にパッケージ商材を開発する取り組みが不可欠だ。
なお、標準化された業務を代行するBPOと組み合わせることで規模の拡大を図ることができる。SanSanの名刺代行入力などは、そんな取り組みのひとつだろう。
昨日紹介したサービスをここにマッピングするとこのようになる。言うまでもないが、コモディティ戦略はなかなかハードルが高い。この領域を脱し、他の領域へビジネス領域を広げてゆくことがSIにとっては、生き残る術となるのだろう。
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目次
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- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン