マーケティングなき新規ビジネスの運命
「クラウドを使ってサービスを1年やっていますが、使っていただいたお客様は1社だけですよ。これでは、赤字の垂れ流しで、やっても意味がありませんよ。」
あるSI事業者の社長から、このような話を伺った。詳しく話を聞いてみると、あるお客様の要望にあわせてシステムを構築し、これを横展開すれば他のお客様にも使っていただけるだろうとの期待からサービスを作ったのだという。そこで、次のようなことを聞いてみた。
- そのお客様を含むターゲットとしている顧客層の需要を十分に満たす機能なのか。そもそも、ターゲットとする顧客層を明確に定義しているのか。
- 競合となる製品やサービスと比較し、どのような競合優位があり、それがお客様の選択に大きな影響を与えるのか。
- お客様の受け入れてくれる料金になっているのか。現行業務の何を代替し、そこにかかるコストをどれだけ減らせるのか。あるいは、新たな仕事の仕方によりできなかったことができる、新たな売上を獲得できる、といった料金に見合うメリットを合理的に示すことができるのか。
このような「マーケティング」の視点を持たないままに、これまでの受託請負と同じように、特定のお客様からの要望をそのままに、それをサービスと称しているだけで、うまくいくはずはない。
「そのお客様個別のシステムを受託開発し、お客様の費用負担を軽減させる方便として、サービスという形を取っているだけ。真剣にサービス・ビジネスを考えてはいない。」
このような評価は、言い過ぎだろうか。
サービスは、ハードウェアやパッケージ・ソフトウェアと同様に、多くのお客様を相手にした「プロダクト」だ。受託請負開発のようにお客様からの個別のご要望に応えるものではない。例え、切っ掛けが、個別のお客様からのご要望であったとしても、それが他のお客様でも必要とされているのか、また、同様の競合製品やサービスに対して、明確な競合優位を示せるかなどを具体化しなければならない。あわせて、その遡及点を訴えるためのシナリオを描き、プロモーションの方法についても検討し、これを計画的にすすめてゆく必要がある。そこまで含めて「サービス開発」だ。そういう視点もないままに、行き当たりばったりの「サービス開発」では、うまくいくはずもない。
サービス"プロダクト"ビジネスとは、このようなマーケティング活動無くしてうまくゆかない。システム・インテグレーションのように個別のお客様に対応するのではない。多くのお客様を相手にする製品を作る取り組みだ。このような取り組みがないままに、売れないことを営業の努力不足、あるいは、サービスの機能不足に押し込めてしまっているとすれば、大きな勘違いだろう。
「国内IT市場の2013年~2018年の年間平均成長率(CAGR: Compound Annual Growth Rate)は0.8%、国内ICT市場のCAGRはマイナス0.5%と予測しています。2018年の国内IT市場規模は14兆8,083億円、国内ICT市場規模は24兆7,886億円と予測します。」
このIDCの予想を見るとITの金額ベースの市場は成長なき市場だ。この成長なき市場に於いて、市場は生き残りをかけて熾烈な競争を仕掛けてくるだろう。そして、その結果は、明白と言える。人月単価の積算を前提するこれまでの収益構造に固執する旧態依然とした企業は、仕事はあってもますます利益を出せなくなり、一方で、新たな収益モデルにチャレンジし、お客様に獲って魅力的なサービスを提供する企業は、これまでの彼等の領域を浸食し、入れ替わってゆく。この統計は、このようなプレーヤーの転換を暗示しているとも受け取れる。
今は、大型受託開発が集中している特殊事情ゆえ、キャッシュフローが生まれている。しかし、同様の需要は来年から再来年にかけて急減する。果たして耐えられるのだろうか。
クレイトン・クリスチャンセンは、自著「イノベーションのジレンマ」の中で、新規事業参入のための最初の企画は、そのほとんどが失敗すると述べている。それでも新規事業に成功した企業が存在するのは、試行錯誤を繰り返し、失敗を重ね成功するまで資金が続いたからだとも述べている。
今の特需がなくなったとき人月積算型のビジネスは、これまでにも増して厳しい状況に追い込まれる。そうなると、結果を焦り余裕のないままに新しいビジネスを立ち上げようとするだろう。しかし、そうなっては、この原則が活かせない。
お客様の個別のご要望に対応する受託請負だけではなく、マーケティングから生みだされるサービスへのシフトは、待ったなしで取り組むべきテーマだ。仕事がある今の時期だからこそ、真摯に向き合うべき取り組みではないのか。
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こんな方に読んでいただきたい!
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- IT企業に勤めているが、テクノロジーやビジネスの最新動向が体系的に把握できていない。
- IT企業に就職したが、現場の第一線でどんな言葉が使われているのか知っておきたい。
- 自分の担当する専門分野は分かっているが、世間の動向と自分の専門との関係が見えていない。
- 就職活動中だが、面接でも役立つITの常識を知識として身につけておきたい。
目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン
【定員となり締め切らせて頂きます】ITソリューション塾【第18期】
2月4日より始まる「ITソリューション塾・第18期」に、多くのご応募をいだきありがとうございました。結果として、予定を上回る79名/26社のご参加となりました。「異なる会社の皆様が、志を同じくしながら時代の変化について考えてゆく。」そんな機会にしたいと思っています。次の第19期は、5月連休明けを予定しています。どうぞ、改めてご参加をご検討いだければと存じます。
最新ITトレンドとビジネス戦略【2015年1月版】を公開しました
ITのトレンドとビジネス戦略について、集大成したプレゼンテーションです。毎月1回、「テクノロジー編」と「戦略編」に分けて更新・掲載しています。
【2015年1月版】より「テクノロジー編」と「戦略編」の2つのプレゼンテーションに分けて掲載致します。
「テクノロジー編」(182ページ)
- ストーリー展開を一部変更しました。
- 「クラウド・コンピューティング」の追加修正
- Webスケールとクラウドコンピューティングについて追加しました。
- パブリック・クラウドとマルチクラウドの関係について追加しました。
- 「IoTとビッグデータ」の追加修正。
- M2MとIoTの歴史的発展系と両者の違いについて追加しました。
- ドイツのIndustry 4.0について追加しました。
「ビジネス戦略編」(49ページ)
- ストーリー展開を一部変更しました。
- 2015年問題の本質というテーマでプレゼンテーションを掲載致しました。
- 人材育成について
- 生き残れない営業を追加しました。
- エンジニアの人材育成について新たなプレゼンテーションを追加しました。
トップ10に選ばれした!
拙著「システムインテグレーション崩壊」が、「ITエンジニアに読んでほしい!技術書・ビジネス書大賞」のトップ10に選ばれました。多くの皆様にご投票頂き、ほんとうにありがとうございました。2月19日(木)のデベロッパーズサミットにて、話をさせて頂きます。よろしければお立ち寄りください。
「システムインテグレーション崩壊」
〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
- 国内の需要は先行き不透明。
- 案件の規模は縮小の一途。
- 単価が下落するばかり。
- クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。