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ポストSIビジネス:サービス・ビジネスを実現するための3つの要件

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人月工数を積み上げることで収益を拡大しようとするビジネスがむつかしくなる理由のひとつは、若者人材の減少にある。生産年齢人口の減少(15歳〜64歳の人口は2015年から2020年にかけて341万人減少する)に加え、「電算機専門学校」や「情報処理専門学校」という情報系専門学校が医療系や介護系に鞍替えしてきていることは先日のブログでも紹介してきたとおりだ。

このような状況下に於いて、営業利益を維持、拡大してゆくためには、ふたつのシナリオが考えられる。ひとつは、高額単金のビジネスだ。但し、高い専門性、あるいは、特殊性が必要になる。「高くても是非お願いします」と言って頂けるものだ。例えば、オンプレミスからパブリック・クラウドへの移行は、両者の違いや利用するサービスの特性、ネットワークの介在などを理解した上でのシステム設計や運用設計、移行計画の立案を行う必要がある。今のところ、こういうことに従事している絶対数は少なく特殊性も高いことから、高額な単金でも需要はある。また、業務プロセスの改革やITを使ったビジネス開発なども高額の単金は期待できるだろう。しかし、規模や期間は限定されているため、事業規模を拡大することは難しい。

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もうひとつは、サービス・ビジネスだ。例えば、業務アプリケーションをインターネット越しに提供するサービス、パブリック・クラウドの調達・運用管理業務を代行するサービス、業務作業を代行するサービスなど、その種類はいろいろあるが、モノやヒトの提供で対価を得るのではなく、提供した結果の効用や満足で対価を得るという性格を持っている。「奉仕する」、「使える」という元々の意味がある。

このようなサービス・ビジネスを検討するとき、多くは「機能要件」に注力が注がれ、「非機能要件」や「収穫逓増のメカニズム」への検討が欠けていることがある。

当然、業務に必要な機能、例えば財務会計であれば、仕訳ができる、決算書が作成できる、資金管理ができるなどの「機能要件」を満たさなければならない。しかし、使い勝手や見た目の良さ、レスポンスの速さやトラブルへの迅速な対応などの「非機能要件」が満たされなければ、顧客の獲得も定着もままならない。

また、顧客を拡大する「売り方」や、顧客単価を拡大させる「使わせ方」といった「収穫逓増のメカニズム」を予め考えておく必要がある。

どのようにして顧客にリーチするか。無料から有料にどのように移行させるか。より高い料金のサービスにどのように移行させるかといった仕組みをサービスに埋め込んで開発しなければ、後付けは容易なことではない。

サービス単価が高額で、顧客個別に営業アプローチをかけても収益が確保できる類のサービスであれば、機能要件を満たすことにまずは注力すればいい。しかし、顧客単価が低く、規模で稼ぐサービスをめざすのであれば、「非機能要件」や「収穫逓増のメカニズム」も織り込んだサービス開発は必須となる。

いずれにしろ、結果に対する対価であって、過程、つまり作業工数や台数についての対価ではないので、原価を回収できる保証はない。そのため、多くの人に使ってもらうための開発もセットに考える必要がある。

また、モノを提供するにしても、モノで稼がないサービスも考えられる。例えば、センサーやカメラが内蔵されインターネットに接続できる冷蔵庫をタダで配る。そして、中に入っているモノを監視して、不足を自動で補充する富山の薬売り型サービスで収益を上げる方法もある。また、冷蔵庫の中にあるもので作れる料理のレシピを提案したり、食事の特性や家族構成を分析して最適な商品を紹介したりと言ったサービスで広告収入を得ることができるかもしれない。これもまたサービス・ビジネスだ。

また、ドイツが国を挙げて取り組んでいる「インダストリー4.0」と言われるもの作りの革命では、特注品であっても量産品と変わらない金額と納期で提供できるようにしようとしている。これなども、プロダクト・ビジネスのサービス化と言えるだろう。

身近なところで、スマートフォンを利用してソフトウェアによって様々な機能を提供するサービスも考えられる。例えば、スマートフォンは地図アプリを使えば、地図帳になり、そこにお店の場所や紹介を載せればガイドブックになり、そこから予約が取れれば、予約窓口になる。つまり、スマートフォンやタブレット、最近では家電製品や自動車までも、ソフトウェアによって機能が追加、拡張されてゆくわけであり、モノそのもの価値ではなく、そこで提供されるサービスの価値が重要になりつつある。

また、紙媒体の文書を入力、印刷配送、原本を保管する倉庫業務と文書管理システムをクラウドで提供する。つまり、ITシステムとBPOを一体化し、お客様の「紙も含めた全ての文書を一元管理したい」というサービス・ビジネスも考えられるだろう。

このようにサービス・ビジネスの範疇はひろく、クラウドだけがサービスではないことはいうまでもないが、「サービス・ビジネスを検討しろ」の号令が「クラウド・ビジネスを検討しろ」に置き換えられているケースは、多くのSI事業者で見掛けられる。サービスのこのような特性を正しく理解して、サービス・ビジネスを作ってゆかなければならないだろう。

いずれにしろ、収益構造は変わりるので、これまでの延長線上にリニアな業績の拡大のシナリオを描くことは難しく、一時的な変動は覚悟しなければならないだろう

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このブログでも紹介させて頂いたテクノロジーやビジネスに関する最新のトレンドをビジネスにどう結びつけてゆけば良いのかを考えてゆきます。そのための提案やビジネス戦略・新規事業開発などについても解説します。また、アジャイル開発でSIビジネスをリメイクした実践事例、クラウド時代のセキュリティとガバナンスについては、それぞれの現場の第一線で活躍される講師をお招きし、生々しくそのノウハウをご紹介頂く予定です。

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詳しくはこちらをご覧下さい。また、パンフレットもこちらからダウンロードできます

最新ITトレンドとビジネス戦略【2014年12月版】を公開しました

今回は解説文を大量に追加しました。プレゼンテーションの参考にしてください。また、新しいトレンドを踏まえ、プレゼンテーションを13ページ追加しています。無料にてご覧いだけます。

【2014年12月版】(209ページ)の更新内容は次の通りです。

  • 「クラウド・コンピューティング」に解説文を追加しました
  • 「仮想化とSDI」を「ITインフラと仮想化」に変更し、プレゼンテーションを大幅に追加しましたました。
  • 「ITインフラと仮想化」に解説文を追加しました。
  • 「IoTとビッグデータ」に解説文を追加しました。
  • 「IoTとビッグデータ」に3Dプリンターの解説を追加しました。
  • 戦略について一部チャートを変更し、資料を追加しました。

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拙著「システムインテグレーション崩壊」が、「ITエンジニアに読んでほしい!技術書・ビジネス書大賞」にノミネーションされました。お読み頂きました皆さんに感謝致します。

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「システムインテグレーション崩壊」

〜これからSIerはどう生き残ればいいか?

  • 国内の需要は先行き不透明。
  • 案件の規模は縮小の一途。
  • 単価が下落するばかり。
  • クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。

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