SIビジネスに迫る「競争優位の終焉」と対処のシナリオ
「競争優位の終焉」を読み終えた。
本書では、企業が競争優位を長期にわたって維持するのがこれまでになく難しくなっていること、そして、ビジネス環境の不透明感や変化のスピードが加速する世の中にあって、従来考えられていたような「持続的な競争優位」を保つことは難しく、「一時的な競争優位」を繰り返し生みだしづけることの重要性を示し、これに対応するための6つのシナリオを提案している。
- 継続的に変わり続ける
- 衰退の前兆をつかみ、うまく撤退する
- 資源配分を見直し、効率性を高める
- イノベーションに習熟する
- リーダーシップとマインドセットを変える
- あなた個人への影響を考える
また、企業が、ビジネス環境の変化に対応できない理由として、従来の「業界」のメカニズムが維持され続けるであろうという期待や、「過去の成功」に裏打ちされたバイアスが、変化への対応を遅らせているとの指摘もあった。
「ソニー、リサーチ・イン・モーション(ブラックベリーのメーカー)、ブロックバスター、サーキット・シティ、さらにはニューヨーク証券取引所・・・かつて名声を保護しながらも、倒産したり、もはや輝きを失ってしまったりした企業は多い。これらの組織の凋落は持続する競争優位を要に据えた事業慣行から抜け出せなかったことから、予測できる結末だ。」
「一時的な競争優位」を生みだし続けている企業は、過去の優位性から絶えず経営資源を引き上げ、新しい優位性の開発に投資するというパターンを繰り返してきている。それを実行するために、次のような「機動性の源泉」を組織の体質として持っていると述べている。
- 痛みを伴わない小さな変革を重ねる
- 予算編成で資源の抱え込みを許さない
- 柔軟性
- イノベーションを本業としてとらえる
- オプション志向で市場を開拓する
また、「健全に撤退する」重要性を説き、そのシナリオも示している。健全な撤退を行うためには、「衰退の前兆を素直に認める」こと、そのためには「経営者の意思として判断を下す」のか、「組織としての判断指標を構築し、これに照らし合わせて判断する」かのいずれかの選択が必要であることが必要であり、特に大企業にあっては、経営者個人の判断にゆだねることは容易ではないことから、後者の構築が重要であると説いている。
ある医療機器メーカーの元経営者のインタビューとして次のようなコメントが載せられていた。
「われわれは危機が近づきつつあるのが分かっていたのに、無視して耳を塞ぐことにしました。そのうちもはや無視できないことがはっきりしたのです。それからようやく資源が集められてチームが結成されると全員に切迫感が生まれました。残念ながらその頃には既に手遅れになっている場合が多いものです。 」
「一時的な優位性」を生みだし続けるためには、組織としての仕組みと共に、個人のスキルが大切であること、そして、その提案や意見を組織に反映できる文化や仕組みを持たなければならないとも述べている。
また、「一時的な優位性」を常に持ち続けるためには、多くの未来を予測し、常に選択肢をたくさん持ち続ける「オプション思考」を持つと共に、参入と撤退を繰り返すアジリティ(俊敏性)を持ち続けることが必要であるとしている。その一方で、企業の安定性が欠かせないとの指摘もあった。
「(一時的な優位性を維持し続けることのできる企業は、)企業の価値観、文化規範、中核戦略、能力、顧客との結びつき、リーダーシップは、長期にわたって驚くほど一貫している。」
SIビジネスの置かれている今の環境と重ね合わせて考えてゆくと、実に考えさせられる内容だった。
言うまでもないが、ITのトレンドはめまぐるしく変化し、今は、これに追い打ちをかけるように、これまでとは異質な変化に直面している。これについては、こちらのブログに述べさせて頂いたので、よろしければご覧頂きたい。
過去の競争優位はもはや成り立たないし、競争優位そのものが、常に変わり続ける時代に、本書の考察は、大変参考になるだろう。
本書の最後に、「優位性が消滅する早期警報」と題したチェックリストが掲載されていた。さて、御社は、如何だろうか。
- 私は自社の製品やサービスを購入しない
- わが社は他社と同じかそれ以上の投資をしているのに利益も成長も不十分
- 顧客はより安くシンプルな「そこそこ」のソリューションを探している
- 予想もしなかったところからライバルが現れている
- わが社は雇いたいと思う人材から最も働きたい会社と思われていない
- わが社で最高の人材が何人か退職した
- わが社の株価はいつまでたっても割安だ
- 技術系社員が新技術によってわが社の事業が変わると予測している
- わが社はヘッドハンターのターゲットになっていない
- 過去2年間に市場に投入できたイノベーションがほとんどない
- 会社が福利厚生を削減したり、リスクを従業員に転嫁したりするようになっている
- 経営陣が今後入ってくるかもしれない悪い知らせの重要性を否定している
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営業であっても、エンジニアであっても、お客様の良き相談相手になることができてこそ、信頼され、ビジネスのチャンスも生まれます。そのためには、ITの知識をわかりやすく伝えられる能力が必要です。だからといって、「自社製品は知っているけど、世の中の常識は知りません」でもやはりだめでしょう。
ITソリューション塾では、テクノロジーのこと、ビジネスのこと、ITに関わる最新のトレンドを広く体系的に整理すると共に、ITビジネスの第一線で起こっていること、そしてそれに対処するための戦略やシナリオを、同業他社の皆さんと共に、一緒に学んでゆこうというものです。
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*更新しました* 今週のブログ
SIビジネス 3つの変化、対処のための3つの要件
「人材が手当てできない言い訳が使えるうちに、優秀な人材を新規事業の取り組みに回したらどうですか?」
先日、SI事業者の社長にこんな話をしてみました。では、それでなにをすればいいのでしょうか。
今週のブログは、こんなテーマを取り上げてみました。
Kindle版 「システムインテグレーション崩壊」
〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
- 国内の需要は先行き不透明。
- 案件の規模は縮小の一途。
- 単価が下落するばかり。
- クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。