新しいSIビジネスに求められる新しい収益モデル:3つの提案
人月単価積算型の収益モデルは、今後ますます利益をあげることが難しくなることは、これまで何度も申し上げてきた。では、それにかわる収益モデルとしてどのようなことが考えられるのだろうか。サブスクリプション、レベニューシェア、成果報酬の3つの収益モデルについて見てゆくことにしよう。
サブスクリプション
「納品のない受託開発」という名称で、オーダーメイドの受託開発でありながら、「月額定額(サブスクリプション)」でサービスを提供しているユニークな企業がある。それがソニックガーデンだ。
同社のホームページには、その特徴が次のように紹介されている。
- 要件定義が不要で、いつでも仕様変更や順番変更ができる
- 設備投資が不要で、最初から動く画面で動作確認ができる
- 引き継ぎが不要で、運用中でも開発を続けることができる
- 人材管理が不要で、専属の顧問としてどんな相談もできる
ソニックガーデンが提供しているのは、「お客様から開発を請負ったシステムを、パブリッククラウド基盤で本番稼働させ、その運用・保守も一括して引き受ける」というサービスだ。
従来であれば、運用環境の構築には一定の初期投資が必要だった。しかし、いまではクラウドを従量課金で使えるので、お客様への月次の請求に上乗せして請求できる。
開発規模の上限を定め、その範囲で料金を固定する。そして、開発の優先順位をユーザーと確認しながら、継続的にシステムの完成度を高めてゆく。
このような方法を使えば、従来であれば、一時的な収益しか期待できなかったSIビジネスを長期継続的なストックビジネスへと転換することができる。また、お客様にとっては、資産を持つ必要はなく、すべて経費化できることもメリットだ。なによりも、あらかじめすべての仕様を固定化する必要がなく、業務ニーズの変化に追従できるので、エンドユーザーの満足度も得やすい。
詳しくは、ソニックガーデン社長の倉貫氏の著書「納品をなくせばうまくいく」をご覧頂くと良いだろう。
レベニューシェア
日本ユニシスは、ある流通事業者のショッピングモールに「レベニューシェア」という手法でサービスを提供している。レベニューシェアとは、成功報酬型の収益モデルのひとつで、「お客様個別の要件に応じたシステムを構築する一方で、そのシステムを利用して得られる収益の中から一定割合を報酬として受け取る」というやり方だ。
積み上げた工数が見積金額となる従来のSIビジネスでは、付加価値を上乗せしにくく、利益率を上げることは容易ではない。もし請負契約で、見積もりミスやトラブルなどあろうものなら、赤字になることも覚悟しなければならない。
一方、レベニューシェアでは、原則として初期開発費は受け取らない。その代わり、このシステムでお客様が提供するサービスの売上に対して、一定の割合で報酬を受けとる。この方法は、ECサービス、SaaSなど、開発したシステムと売上が直結する場合に適している。一定の売上が期待できるサービスであれば、初期投資はリスクとして負担しなければならないが、継続的に収入となることから、利益の拡大を期待できる。
この方式のもうひとつのメリットは、お客様とITベンダーがゴールを共有できることにある。従来であれば、まず仕様を固め、その仕様を満たすプログラムコードを確実に仕上げることが、SI事業者のゴールだった。しかし、お客様のゴールは「プログラムの完成」ではなく「売上の継続的拡大」だ。その断絶が、これまでさまざまなトラブルを引き起こしてきた。
しかし、レベニューシェア方式であれば、お客様もSI事業者も売上を継続的に拡大することがゴールとなる。両者は対等な立場に立ち、同じゴールを共有することができる。そして、同じゴールを目指して、共同で改善を重ね、完成度を高めていかなくてはならない。
開発者の少ないユーザー企業にとっては、ゴールを共有できるパートナーの存在は、心強いはず。SI事業者にとっては、お客様との信頼関係を深め、他社を排除し、囲い込むための手段ともなる。
成果報酬
NTTデータは、全日本空輸(ANA)の貨物事業向けの新基幹システムで成果報酬型のサービスを提供している。最大の特徴は、ANAは開発にかかる初期費用を負担しない点。ANAは、取り扱った貨物量(貨物の搭載重量)に応じて、月額で料金をNTTデータに支払う。
このやり方では、お客様にとっては、業績に応じてコストを変動費化させることで、「事業が好調で払えるときには多く、払えないときには少なくなる」というメリットが生じる。また、SI事業者にとっては、長期継続的にお客様を囲い込むことができるとともに、自らの工夫次第で、運用コストを低減させ、利益率を高めることも可能になる。事業環境の変化が激しく、お客様が変動費化を望む場合、成果報酬型契約は有効な選択となる。
この3つのモデルのどれかが「正解」というものではない。どのような案件が、どのモデルに当てはまるかは、個別に考えなくてはならない。初期投資リスクを背負わなくてはならない場合もある。
いずれにしろ、工数積算型+販売だけの収益基盤にこだわらず、収益構造の多様化を図る必要があるだろう。
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