「スキルがない」という言い訳、「コンソーシアム」という仲良しクラブ
「垂直統合型のサービス・ビジネスをするにも中小のSIerにはそんなスキルはありませんよ。だからコンソーシアムのようなカタチでお互いの得意分野を出し合ってやってゆくのが良いと思っているんです。」
「ポストSIビジネスのシナリオ」と題した小職の講演の後で、このようなお話を伺った。
「私はうまくゆかないと思います。」
失礼を承知で、正直な感想を述べさせて頂いた。
サービス・ビジネスはスピードとコストが勝負だと思う。サービスは常に改善と試行錯誤の繰り返し。常に完成度を高めてゆかなければならない。みんなが集まりどうしようと議論し、役割分担、調整、合意など、そんな機動力のないサービをお客様は魅力に感じるだろうか。また、コスト配分や収益配分をどうするのか。多くの企業が関われば関わるほどコストは嵩む。料金が適正かどうかは、ユーザーが判断するものであり、提供者の論理ではない。
このようなことを検討される気持ちも理解できる。SIビジネスに関わる人たちの多くは、SIビジネスというか人月積算型ビジネスの先行きが厳しさを増す中、何とかしなければとの思いを募らせている。しかし、その一方で、自分達にはその経験がない。だからみんなで何とか協力し合って、この現状を打開したいと言うことなのだろう。
しかし、ビジネスの本質は競争だ。自社の競争優位を明確にし、他社より前に出ることがビジネスであるとすれば、このような「仲良しクラブ」的な取り組みがうまくゆく道理はない。
これまで、ビジネスはお客様の需要如何であった。しかも、中小SIerの場合、お客様の数は限られており、大口のお客様の需要の変動が業績と直結している。ならば顧客を増やせば良いという理屈になるが、開発や保守と言った仕事は、個々の現場についての経験がものを言う仕事で有り、SIerとお客様との関係が固定化してしまう傾向にある。そうなると、そう簡単に割り込むことはできない。特に地方に於いては、棲み分けがしっかりとできていて、それを崩すことは相当に難しい。
つまり競争することではなく、如何にして全体の需給バランスを維持し、一定の配分を確保するかが大切になる。また、お客様のデマンドに対応することが最優先となり、新たなデマンドを生みだすために優秀な人材を使うことより、既存の業務で工数を稼げる人材として彼等を投入することを優先している。
そのような意識をそのままに「協業」したところでうまくはいかないだろう。
「中小企業はスキルがないからできない」という思い込みも辞めた方が良い。クラウドの時代になり、インフラや開発実行環境を使用する上で、技術的ハードルはかなり下がっている。また、クラウドやOSSを利用することで、初期投資リスクは抑えられ、生産性も高まり、スピードも担保できるようになる。
誰でもできとは言わないが、真剣に取り組めば、決して越えられないハードルではないはずだ。垂直統合型のサービスにしろ、新しいビジネス・モデルにしろ自分達でもできるだろうし、そうしなければ、競争優位を創ることはできない。
こういう新しい現実に向き合えば、「スキルがないからできない」は言い訳に過ぎなくなる。また、「沈みゆく既存ビジネスを置き換えるビジネス」ということを真に重要と考えるならば、片手間ではなく優秀な人材を専任で投入することをためらう理由はないはずだ。
要は、経営者の決心の問題なのだとおもう。「スキルがない」は現実を見ることを避けていることであり、みんなでやることで、「自分だけじゃない」ことを確認し、安心したいだけ、というのは少々考えすぎであろうか。
なにも「コンソーシアム」をだめだと言いたいわけではない。そこへの向き合い方次第だろうと思う。
まずは、自分の企業が何をしたいのかを明確にすることである。コンソーシアムは、話を聞き、議論して「自分は何がしたいのか」を考える機会にはなるはずだ。その上で、「みんなで」ではなく「自分は」を決めることだ。そして、「自分のやること」に足りないスキルを調達する場として、あるいは、自身のビジネスのエコシステムを生みだすためにコンソーシアムを使う。そういう、「自分がやる」人たちの集まりで、お互いに切磋琢磨する。それこそが、コンソーシアムの価値なのではないか。
いずれにしろ、新しいビジネスへの転換は、これまでのビジネスの常識の延長線上にはない。「システムを使わせるビジネスから、システムを使ってサービスを提供するビジネス」への転換である。この現実を受け入れ、自らを競争の場にさらす覚悟がなければ、ポストSI時代を勝ち抜くことは難しい。
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