あなたは、開発することだけが自分の仕事だと考えているのでしょ?
「あなたは、開発することだけが自分の仕事だと考えているのでしょ?」
小俣光之さんの著書『プログラムは技術だけでは動かない』に書かれていた一文だ。本書に一貫して通じる問い掛けであろう。
「「つくればいい」から「使う人を考えたプログラミング」を徐々に考えてゆくようになりました」」
プログラマーという仕事に限った話しではない。自分のやっている仕事がなんのために、どのように人の役に立っているのかを知らないままに、「いい仕事」、つまり、「またお願いしたい」と思ってもらうことはできない。
それが実感できてこそ、仕事へのやりがいも生まれ、もっと良い仕事をしようというモチベーションが生まれる。
残念なことに今の日本のシステム開発の現場では、これがなかなか難しい。それは、大手SIerを頂点とした多重請負構造で運営されており、プログラマーが現場を見ることができず、感じることができないままに、仕事をすることを求められているからだ。これでは、「使う人を考えたプログラミング」をしたくても、容易なことではない。
この著でもその点は触れられているが、それを「仕方がない」と諦めるのではなく、そういう状況から脱すること、いや、「使う人を考えたプログラミング」をしなくてはならない状況に自らを追い込んできた小俣さんの経験は、そういうことを目指そうとしている人にとっては、大いに参考になるだろう。
第8章「自分で事業部を立ち上げ、運営する」にもそんな経験が綴られている。起業とは違うが、ひとつのやり方なのだろう。
「3年は種まきをして、失敗を重ねて始めて見えてくる」
思ったようにならなかった。だからおわりではなく、試行錯誤を繰り返しながら、苦労して失敗を重ね、何とか食いつなぐ努力をしながら、最後には成果を上げられている。こういう経験は、自らすすんでしてみるべきかもしれない。
僭越ながら、私も同様の経験をしている。思慮も浅く要領が悪かっただけかもしれない。しかし、そういう自分に気付かせ、自分という人間に愛想を尽かせ、それでも何とか生きてゆかなければならない日々を送ったことがある。同じことはしたくはないが、そこから学んだことは、人生の宝物となっている。
新人達を相手にした講義の席で、「26歳までは若気の至りで赦されるから、赦されるうちにどんどんいろいろとやって失敗してみたらいい」。などと言っているが、まさに若い時代に前向きな失敗を重ねることは、ムダではない。そういううまくいかないことへの苦悩や心の痛みが、「使う人を考える」きっかけにもなるだろうし、プログラミングにも活かされてゆくことになるのだろう。
小俣さんの略歴を拝見すると、今は社長の重責にある。学生アルバイトからこの会社に係わり、様々なご苦労を重ね、今はこの会社の社長となられているようだ。人の出会いや相性もあり、同じ会社に長く留まることだけが、唯一の選択肢とは思わないが、本書を拝見すると、自分がやりたいような仕事ができるように、真摯に会社に向き合ってこられたことが、今の立場を任されることになったのではないだろうか。本書を拝見し、なるほどと思った。
工数でしかないエンジニアは、これからますます厳しい状況に追い込まれるだろう。じゃあ、どうすればいいのか。
そういう問題意識を持たれている方、特に若いエンジニアの皆さんには、参考になることも多いだろう。本書には、そんなことを考える貴重な人生体験が詰まっている。
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知識もまたオープンの時代、だから講義は漫才でなくてはならない
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ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/ LiBRA
「仮想化とSDx」について解説文を掲載しました。
Kindle版 「システムインテグレーション崩壊」
〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
- 国内の需要は先行き不透明。
- 案件の規模は縮小の一途。
- 単価が下落するばかり。
- クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。
工数で見積もりする一方で,納期と完成の責任を負わされるシステムインテグレーションの限界がかつてないほど叫ばれる今,システムインテグレーターはこれからどのように変わっていくべきか?そんなテーマで考えてみました。